1923年9月1日11時58分、マグニチュード7.9の揺れが現在の首都圏を襲い、10万5000人を超える人々が命を失った。関東大震災からちょうどきょう1日、100年が経った。NHKでは、9月2日・3日の2夜連続で『NHKスペシャル「映像記録 関東大震災 帝都壊滅の三日間」』(総合 前編 2日22:00~、後編 3日21:00~)が放送される。同番組では、関東大震災発生から3日間の当時の映像を高精細カラー化。それらの映像を専門家とともに分析し、見えてきた新たな事実とは――。

  • 『NHKスペシャル「映像記録 関東大震災 帝都壊滅の三日間」』より

■関東大震災の全貌を知ることが今後の災害に生きる

高精細カラー化で鮮明に生まれ変わった映像の1コマ1コマを分析することで、これまで不明だった撮影場所や日時を特定。さらに人々の表情や動きを読み取り、何に直面し、どう逃げ惑い、どのように助け合っていったのか、映像に加え、生々しい音声証言、科学的知見も駆使しながら明らかに。甚大な被害を招いた帝都壊滅の3日間の全貌に迫った。

本作の制作を統括したNHK第2制作センターの木村春奈チーフ・プロデューサーは「関東大震災から100年という大きな節目を迎え、首都直下地震も懸念される中で、そして日本全体として地震からは逃れられないという中で、NHKとして何をすべきか考え作ることにしました」と企画の経緯を説明。

「100年前と今では町や建物が違う中で、今に生かせることは何があるのだろうという視点で関東大震災を振り返って調べると、今の時代に示唆を与えることが多く含まれていることも分かってきました」と手応えを口にする。

そして、「飛び火火災や群衆事故、流言飛語など、現代にも通じるリスクが多くあると気づき、関東大震災の全貌を知っておくことが、今後我々が直面する災害の時に非常に生きてくると思いました」と語った。

■地道な作業で高精細カラー化しリアリティのある映像に

100年前の出来事をリアリティを持って伝える難しさを感じる中で、不鮮明な当時の映像を高精細カラー化することに挑戦。NHKが開発したAIカラー化に加え、手作業でも色を加えた。関東大震災の映像をNHKで高精細カラー化するのは今回が初めてで、技術的にとても苦労したという。

「自動的にAIが色をつけてくれるだけでは不十分で、最後は細かい手作業で色を加えて蘇らせました。AIが判断した色が本当に正しいのか、専門家の力も借りて、当時の絵はがきなどとも照らし合わせて確かめていくという、非常に細かい作業を積んでカラー化しました。カラー化にかかった時間は計算できていいませんが、本当に膨大な時間を。数ヶ月かけて色付けしました」

地道な作業によって作り上げた高精細カラー映像は、リアリティのある映像に。

「細かく映像を分析し新発見がないか、目を凝らして映像を見ていく過程も大変さでしたが、100年前の昔の出来事という感じではなく、今どこかで起きていてもおかしくないくらい驚くほどリアリティがあって伝わるものになりました」

そして、看板や建物の輪郭、人の表情などいろんなものが浮かび上がってきて、いつどこで撮られたものか判明。「当時の映像が一級の歴史資料として生まれ変わった」と木村氏は語る。

映像に加え、当時の証言音声や実験も行って事実を徹底的に追求した。

「体験した方の音声を使わせていただき、さらに科学的な知見に基づいた実験を融合させ、100年前の出来事を追体験できる番組に。関東大震災をリアリティを持って感じ取っていただき、今後起こる地震災害にどう備えるのか、実際起きたときにどうすべきか、皆さんに考えていただける番組になっています」

■大きな発見だと感じた人々の表情と2日目の状況

特に木村氏が大きな発見だと感じたことは、震災直後に笑顔を見せていた人々の表情だという。

「今回の映像で、震災が起きた当初、笑顔が見えたり安堵の表情をしている人もいたり、あまりすぐ逃げなきゃという感じではなかったというのは、知られてなかったことかなと。映像を可視化して見えてきたところでは、そこが大きかったと思います」

そして、その表情について木村氏はこう分析する。

「当時ラジオもテレビもない状況で、震災が起きても目の前の火災しか見えていないので、火災が広がってきてから反対側に逃げればいいと思ってしまったではないかと。実際は同時多発的に複数の場所で火災が起きているので、取り囲まれてしまうと逃げられなくなってしまう。そこまでは皆さん想像できていなかったのだと思います」

また、上野駅周辺で2日目になっても被害が広がり、ほっとしているところで火災に襲われるという状況も今回の映像で新たにわかったという。

「これまでの映像だと単なる群衆の映像でしかないですが、よく見てみると梯子をかけて逃げようとしていることがわかって、それも発見だったと思います。そこから導き出されることは、2日目になっても収まらない可能性があるということ。追い打ちをかけるように襲われるというのは大きな教訓ですし、それが映像からわかったことは大きかったと思います」