第44回将棋日本シリーズJTプロ公式戦は、2回戦第1局の永瀬拓矢王座-山崎隆之八段戦が8月19日(土)に新潟県新潟市の「新潟市産業振興センター展示ホール」で行われました。対局の結果、147手の熱戦を制した永瀬王座がベスト4進出を決めました。

相雁木の力戦

両者12回目の対戦となった本局は(永瀬王座の8勝3敗)、振り駒で先手番となった永瀬王座が飛車先の歩を突いてスタート。後手の山崎八段が角道を開けない独自の序盤戦を披露したのち、ともに自陣を雁木に組み替えて虚々実々の中盤戦が展開します。永瀬王座は飛車先の歩を交換していること、山崎八段は4筋の位を取っていることが主張です。

仕掛けをめぐる間合いの計り合いが続いたのち、後手の山崎八段が動きを見せます。盤上左方の4か所で歩を突き捨てたのが「開戦は歩の突き捨てから」の格言通りの好構想で、素直に応じると十字飛車の大さばきが生じます。この直後、角交換を果たした山崎八段はすぐさま敵陣に打ち込んで馬を作ることに成功。後手番ながら首尾よく主導権を握りました。

永瀬王座の馬が盤上制圧

反撃を目指す先手の永瀬王座が後手陣に角を打ち込んで馬作りを狙った際、山崎八段には指そうとしていた狙いの一手がありました。9筋に飛車を回る△9四飛です。この手は飛車角交換を甘受する意表の一手ではありますが、感想戦ではのちのと金作りもあるため有力とされました。山崎八段は局後、「(このような長期戦は)永瀬さんが得意の展開と思ってためらってしまった」と振り返りました。

実戦で山崎八段が選んだ飛車寄りは先手の馬作りを許容するものですが、結果的にここから永瀬王座の指し手に勢いがつくことになりました。盤上中央に馬を引き付けた永瀬王座はここから丁寧な受けを基調に山崎八段の攻めの芽をひとつひとつ摘んでいきます。秒読みの中で攻めさせられた格好の山崎八段は、徐々に攻め駒が乏しくなっていきます。

終局時刻は16時51分(対局開始15時20分)、最後は自玉の詰みを認めた山崎八段が投了。鋭い反撃で勝利を決めた永瀬王座はこれでベスト4に一番乗りを決めました。永瀬王座との対局相手を決める2回戦第2局の藤井聡太JT杯覇者-菅井竜也八段戦は、9月9日(土)に熊本県上益城郡の「グランメッセ熊本展示ホールC・D」で行われます。

  • 勝った永瀬王座は「封じ手のあたりはだいぶ失敗して、全体的に苦しい将棋だった」と振り返った(写真は第93期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第1局のもの 提供:日本将棋連盟)

    勝った永瀬王座は「封じ手のあたりはだいぶ失敗して、全体的に苦しい将棋だった」と振り返った(写真は第93期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第1局のもの 提供:日本将棋連盟)

水留 啓(将棋情報局)