「富士の樹海」と聞いてどのようなイメージがわくだろうか。怖い? 道に迷う? ……山梨県の富士山の裾野に広がる青木ヶ原樹海に実際に行ってみると、それまで「なんとなく」あったマイナスなイメージが覆された。
富士山について学べる研究所
訪れる前に「山梨県富士山科学研究所」(山梨県富士吉田市)で富士山についての話を聞いた。
同施設では富士山を「自然」「火山」「世界遺産」などさまざまな角度から長年研究しており、一般開放されている1階の「富士山サイエンスラボ」では富士山の成り立ちから火山としてどう見るべきか、さらに富士山に登山する際の備えなどについて展示されている。
樹海散策は適切なルートなら安心
樹海に到着した。
富士山の北西麓に約30kmにわたり広がる「青木ヶ原樹海」は、約1200年前の貞観噴火により富士山から流れ出た溶岩流の上に、長い年月をかけて形成された森林地帯。他の森林とは違った形の木々、そして幻想的にコケが生い茂った岩など神秘的な一面も見せてくれる場所だ。モミ・ツガ・ブナなどの木は樹齢300年を超え、うっそうと覆い茂っている。遠くからこの一帯を眺めると、緑色の海のように見えるところから青木ヶ原樹海といわれているのだそう。
富士山科学研究所担当者の解説によると、たとえば怖い噂のひとつ「コンパスが狂う」は樹海にある磁鉄鉱を含む溶岩によるもの。コンパスをわざわざそうした石に近づけるとブレて正確な位置を示せないこともあるが、30cm以上離せば問題はないそうだ。さらにスマートフォンのアプリの方位磁石ではこうした事象は起きないため、関係ない。
さらに解説してくれた内容によると、「樹海で道に迷うと言われているのは、人間の歩く習性でどうしても右へ行こうとすることがあり、まっすぐ歩いてるつもりでもなんとなく右へ進んでいってしまう。その結果、どんどん上に上がって行ってしまい、迷うのではないか」とのこと。確かに他の山と比べ、木々が覆い茂っていることもあり景色の変化は感じられない。ずっと同じような景色の中、自分の勝手な判断で異なるルートを進もうとすると危険なのだろう。
しかし、基本的には過剰に心配する必要はないことが分かった。富士樹海の散策コースには整備された歩道があり、歩道に沿って歩いていけば迷うことはない。近年では小学校の校外学習などでも採用されるほど。
少し安心すると、途端に富士樹海の中にある自然の風景が気になってきた。
たとえば足元には盛り上がるようにして木の根が張っている。樹海の地下には溶岩があり、木は根を下に向けて張ることができず、横に横にと広がっているのだ。こうした自然を観察しながら歩いていくと興味深いし、風がすーっと抜ける自然の中を歩くのは気持ちがいい。
真夏でもひんやり! 洞穴の涼しさ
富士山青木ヶ原樹海には他にも魅力がある。洞穴だ。
まずは「竜宮洞穴」。ここは溶岩流が高温・高圧下でガス化し初期空洞を作ったのち、各空洞間が床面の流動溶岩で削られそれぞれ連結しトンネル状の横穴になったもの。中には入ることができないが、途中まで階段状になった岩場を降りていくことができる。階段を降りていくと、ある一定地点より下からはすーっと涼しさを感じるのが面白い。
続いて「富岳風穴」。森の駅「風穴」から約2分ほど青木ヶ原樹海を歩くと風穴入口に到着する。青木ヶ原樹海の中の洞穴では最も巨大なもので、総延長201m・高さ8.7mを約15分で歩くことができる。夏でも中の気温は3度ほどなので、羽織るものを持参すると良い。
一番奥では「珪酸華」を見ることができる。岩かべに青白い光り苔が付着したもので、一面に銀色の反射を見せる所は珍しいのだそう。
最後に訪れたのは「鳴沢氷穴」。氷に覆われた溶岩洞穴で、溶岩が徐々に冷えて収縮する際に内部に溜まったガスや熱い溶岩が噴き出した跡。最深部は地下21mもあり真夏でも寒く、この日の洞穴内の温度はなんと0℃。
こちらも階段を降りていくと中に入ることができ、環状型の洞穴内を1周して戻ってくることができる。
夏でも覆われた木々により涼しく、山登りをしても汗だくになることがない青木ヶ原樹海。さらに洞穴内に入ればひんやりとした涼しさを楽しむことができる。また、春には鳥のさえずりや花を楽しむこともでき、自然を堪能できる場所だ。ウォーキングや山登りが好きな人には一度訪れてみてほしい。