広大な自然に囲まれた観光地、那須高原にある「那須クラシックカー博物館」。マニアックなクルマというよりも、広く一般に乗り継がれてきたクルマやバイクが中心の展示だが、数々の名車はどんな経緯で那須高原に集まったのか。現地を訪ねてみた。

  • 那須クラシックカー博物館

    1995年開館の「那須クラシックカー博物館」を訪問!

航空機の格納庫? 青いドームが存在感抜群!

栃木県の北部に位置する那須高原は動物園や牧場、温泉郷などが点在する自然豊かなリゾート観光地だ。東北自動車道の那須インターチェンジを降りて、観光客向けのショップが立ち並ぶメインストリートである那須街道から少し脇に入ったところに「那須クラシックカー博物館」がある。航空機の格納庫を連想させる「IRON DOME」(アイアンドーム)と呼ばれる青いドーム状の屋根を持つ建物が目印だ。周辺には飲食店などが立ち並び、観光地らしい賑わいがありつつも、敷地面積1,473平方メートルという広い敷地にIRON DOMEがひっそり佇んでいるという印象だ。

  • 那須クラシックカー博物館

    航空機の格納庫を思わせるIRON DOMEが目印

博物館のオーナーである渡辺清市氏は、1992年からオーストラリアでの永住生活を開始した。それからまもなく、オーストラリアのクルマ社会に驚いたという。日本ではすでに廃車になっているようなクルマが、普段の移動手段として街中で何気なく使われていたのだ。博物館に展示されていてもおかしくないような名車でさえも、街中をさっそうと走っていた。それまでクルマに興味がなかった渡辺氏も、この光景を見て「クルマの価値とは何なのか」を考え始め、興味が一気に湧いてきたという。

オーストラリアには日本のような厳しい車検制度はなく、登録さえすれば古いクルマでも走らせることができる。こうした点も、古いクルマが長きにわたって使い続けられている理由なのかもしれない。

  • 那須クラシックカー博物館

    博物館の入り口。ワクワク感が高まる

渡辺氏は永住を初めて間もない当時のオーストラリアを次のように振り返っている。

「資源の豊富な国であるオーストラリアでも、古いクルマにメンテンナスを施し大事に乗り継いでいます。それに比べて日本は、資源が少ない国であるにも関わらず、早ければ4~5年でモデルチェンジを繰り返し、多くの人が新車に乗り換えていました。日本では、限りある資源を大切にするという考えが希薄になっているのではないかと痛感しました。そこで、マニアックなクルマではなく、これまで広く一般に乗り継がれてきたクルマを展示することにこそ意味があるのではないかと考え、博物館の開館を決意しました」

  • 那須クラシックカー博物館

    中に入るとさまざまな年代のクラシックカーが展示されている

1954年式のホールデン「FJ」を発見! 子供の送迎用?

発売当時は多くの人たちにとって移動するための道具であったクルマも、年月が立つにつれて台数が少なくなり、希少性が高くなっていく。クラシックカーとはそういうものだ。そうした希少性の高いクラシックカーを、どのように集めたのか。

きっかけは、オーストラリアでよく立ち寄るカーショップのオーナーたちと仲良くなれたことだったという。世界中で開かれている、さまざまなクルマのオークション会場を一緒に見て回れるようになったのだ。渡辺氏は「オークションに同行することで、程度の良い、展示に最適な状態を保持しているクラシックカーを集めるためのノウハウを教えてもらうことができました。具体的な手法はお話できない部分もあるのですが、オークションでクルマを入手するという一般では経験できない手法を学びました。そのおかげで、今となっては貴重なクラシックカーを手に入れることができるようになりました」と話す。

  • ホールデン製「FJ」

    1954年式のホールデン「FJ」はオーストラリア国民の足として長らく活躍したクルマだ

博物館に入ってすぐの場所に展示してあるのは1954年式のホールデン「FJ」だ。ホールデン(HOLDEN)は1856年に馬具メーカーとして設立されたオーストラリアの自動車メーカーで、1908年には自動車業界にも進出。2010年代後半まで乗用車や商用車の製造・販売を行っていた。渡辺氏はFJに特に思い入れがあるという。なぜなら、子供の学校の送迎用に使用していたクルマだからだ。1992年当時、製造から38年が経過していてもなお、普段の移動手段として問題なく走行できていた。当時のオーストラリアでは当たり前のことでも、渡辺氏にとっては貴重な体験になったという。

展示車を見てみると、いかにもクラシックカーというデザインの黒塗りの車体に迫力がある。ボディは4ドアセダンだが、流れるようなリアのデザインを見るとクーペのようにも見える。独特のボディデザインだ。FJが展示してある自動車博物館はめったにないといわれている。市民の足として活躍していたクルマも、今となってはほぼ見ることができない貴重な1台だ。

  • 那須クラシックカー博物館「ミュージアムショップ」

    ミュージアムショップでは海外で買い付けてきた本格モデルカーを購入できる

ミュージアムショップやカフェも併設

那須クラシックカー博物館にはメイン展示スペースのほかに、輸入モデルカーやストラップ、クルマ型のマウスなど珍しいグッズを販売するミュージアムショップを併設している。クルマ好きの大人が楽しめる本格的なモデルカーもあれば、子供向けのかわいらしいおもちゃもそろっていて、幅広い年代が興味をそそられるはずだ。歩き疲れたら管内のカフェテラスで休憩もできる。

  • 那須クラシックカー博物館「カフェテラス」

    博物館内のカフェテラスでは淹れたてのコーヒーや地元那須の牛乳を使用したソフトクリームが楽しめる

  • 那須クラシックカー博物館「ゲームコーナー」

    博物館内にはゲームコーナーも用意されている。子供が運転してみたいと言い出しても安心だ