第54期新人王戦(主催:しんぶん赤旗)は準々決勝が進行中。8月7日(月)に東京・将棋会館で行われた斎藤明日斗五段-藤本渚四段戦は181手の熱戦のすえ藤本四段が勝利。本棋戦初参加にして準決勝にコマを進めました。

斎藤五段のひねり飛車

藤本四段は香川県出身の18歳。昨年10月のプロデビューから6連勝を飾り、ABEMAトーナメント2023(非公式戦)でもメンバー入りを果たすなど活躍著しい若手です。対する斎藤五段は神奈川県出身の25歳。2017年の四段昇段以来つねに高勝率を挙げ、昨年度のC級2組順位戦では10勝0敗の圧倒的な成績で昇級を果たすなど結果を残しています。

振り駒が行われた本局、先手となった藤本四段は横歩取りの出だしを採用。3筋の歩を取らずに飛車を引いたのは激しい戦いを避ける趣向で、戦型は力戦調の相掛かりに落ち着きました。これを受けた後手の斎藤五段は2筋に打った歩の下に飛車を回って得意のひねり飛車に構えます。穏やかな駒組みののち、斎藤五段は自玉を片美濃囲いに収めました。

藤本四段が長期戦制してベスト4へ

昼食休憩明けから藤本四段が動きを見せます。4筋に攻防の角を打ってから飛車を8筋に転回したのは独特の指し回しで、先手番らしく局面を打開する意図が見て取れます。実戦は藤本四段による銀ぶつけで戦端が開かれました。交換した銀を2筋の受けに使わされたのは愚形ながら、ゆっくり指せばやがてさばけると見ています。

つかみどころのない駒の繰り替えが長くつづいたのち、右辺での折衝から本格的な戦いが始まりました。3筋にと金を作った後手の斎藤五段はこのと金を活用して次に飛車を成り込む手を狙いますが、局後この手を後悔することに。素直にこのと金を飛車で払ったのが藤本四段の素朴な好手で、こうなってみると先手玉には思いのほか寄り筋がありません。

自玉の安全を確かめた藤本四段はようやく寄せに乗り出します。後手の美濃囲いに迫る2枚の桂を拠点として王手で角を打ち込んだ手が厳しい決め手となりました。終局時刻は17時0分、斎藤五段の反撃から逃げ切った藤本四段が長期戦を制してベスト4入りを決めています。準決勝では高田明浩四段と対戦します。

  • 藤本四段が中盤で見せた自陣角は対局相手の斎藤五段に「打たれてなるほどのいい角」と言わしめた

    藤本四段が中盤で見せた自陣角は対局相手の斎藤五段に「打たれてなるほどのいい角」と言わしめた

水留 啓(将棋情報局)