独立行政法人国立高等専門学校機構 木更津工業高等専門学校(以下、木更津高専)とNTT東日本は、相互に連携して地域貢献および相互発展を推進する連携協定を締結した。7月11日に執り行われた締結式には、木更津高専の校長・山﨑誠氏とNTT東日本千葉事業部長・境麻千子氏らが出席。両者が進める今後の取り組みなどについて語った。
■時代とともに変化する高専の役割と期待
産学連携活動等の拠点として高度技術の集積促進や研究・教育活動、地域貢献活動を推進している木更津高専と、ICT・DXやネットワークの活用による地域社会の課題解決に取り組むNTT東日本。
今回の連携協定では、そんな両者が連携してそれぞれが保有する知的・人的資源等を有効活用し、研究成果の社会への還元の促進を図りながら地域課題を解決することで将来の地域価値向上・地方創生への貢献を目指す。
木更津工業高等専門学校の副校長兼地域共同テクノセンター長の島﨑彦人氏は本協定書の概要を説明した。
「本協定は産学連携を通して情報通信産業の振興と社会全体の発展に寄与すること、教育活動の交流により学校教育のDX推進を図り、すべての学生・教職員にデジタル化の恩恵が行き渡ることを目的としています。企業の問題解決を通した教育研究、出前授業やインターンシップ等の開催による教育の充実、野生鳥獣による被害軽減や地域防災体制の確立等の地域課題にてICT技術を活用し、地域の活力創出を行います」
協定書への調印後、木更津高専の山﨑校長は「この協定書締結は本校としても地域連携、企業との共同研究、連携教育の面でたいへん大きな進展と考えています」と挨拶。ICT技術の活用やDX推進が社会的課題となっているなか、高専の果たすべき役割や寄せられる期待にも近年変化していると語った。
「ひとつには地域との連携、地域の課題解決が高専の非常に重要な役割であるということが強調されるようになっています。また、起業家育成を意識した人材育成にも近年大きな期待が寄せられております」(山﨑氏)
その上でNTT東日本と連携して地域に根ざした教育・研究活動を推進する考えを述べた。 「NTT東日本様は重要な通信インフラを運用し、地域の諸活動に密接に関係した事業、地域活動を支える事業を展開しており、さまざまなご支援をいただいております。今回の協定書の締結はこうした時代の流れに適ったものです。各分野での取り組みを加速・強化し、教育へと結びつけていくことも今後の重要な点だと思っています」
■倒木リスク予知で防災時のインフラ維持につなげる
「弊社はこれまでも地域密着を合言葉として情報通信サービスを中心に、さまざまな取り組みを行なってまいりました。政府が提唱するSociety 5.0の実現に向け、高専機構では「Society 5.0型未来技術人財」育成事業を進められていると伺っています。社会・産業・地域のニーズ変化を捉え、諸課題に取り組むその理念はまさに弊社の方向性と合致しています」とは、NTT東日本千葉事業部長の境氏。
NTT東日本千葉事業部は同校の学生向けにNTT通信トンネルやNTT高所作業訓練の見学会、VR技術を用いた高所作業体験などを通じ、両者の関係性を深めてきたという。 「産学による地域全体の発展に寄与したいとの思いから本協定の締結に至ることができました。地域の未来を支えるソーシャルイノベーション企業として、時代に合わせてしなやかに進化をされている御校と地域のバリューパートナーとして、力を尽くしてまいります」(境氏)
NTT東日本と高等専門学校との連携協定は仙台高専に続き2例目。今後は鳥獣害対策と防災対策といった地域課題に組んでいくとした。 「木更津では鳥獣害対策が大きな問題となっており、より高度な獣害センサーの開発などに取り組みます。また、令和元年の台風災害では千葉県内、ここ木更津でも大きな被害をもたらされました。そこで私どももさまざまな反省と教訓を得て、現在は各自治体様や企業様と災害時の連携協定も結んでいますが、さらなる技術的なアイデア創出や仕組みづくりでも、高専の皆様と力を合わせていきたいと考えています」(境氏)
獣害問題の根本的解決には、被害をもたらす野生鳥獣の適切な頭数管理を強化する防除事業を科学的な根拠に基づき判断・実行していく必要があるとのことで、島﨑氏は次のように解説した。
「防除事業の効果検証に必要なデータを蓄積していくため、本校はさまざまな画像認識技術や自動撮影カメラを使い、野生動物を撮影した画像を分析して、どこにどんな種類の動物がいるかを把握しています。現在は設置した自動撮影カメラを後で回収して、何十万という画像を解析することで事後的に把握していますが、NTT東日本様のICT技術を活用し、カメラで得られた情報のリアルタイムな分析を可能にしていきたい」
また、台風災害では場所ごとに風倒木が発生するリスクなどの情報を共有。地域の通信インフラ維持のため、より早く適切な初動を限られたマンパワーでも取れる防災体制の構築も進めていくという。 「風台風と言われる令和元年の台風15号は房総半島で広域の停電や通信の途絶、交通障害といった被害をもたらしました。森林が適切に管理されず倒木が発生することで、そうしたネットワーク系インフラに障害が起きるわけですが、我々の持つ人工衛星を用いたデータ解析などにより、風倒木被害の予測や早期の把握につなげていきます」(島﨑氏)