オリックス・山足達也 [写真=北野正樹]

◆ 猛牛ストーリー【第86回:山足達也】

 2023年シーズンにリーグ3連覇、2年連続の日本一を目指すオリックス。監督・コーチ、選手、スタッフらの思いを、「猛牛ストーリー」として随時紹介していきます。

 第86回は、ユーティリティープレーヤーとしてチームに欠かせない山足達也選手(29)です。二軍で若手と汗を流すことが多かった6年目の今季ですが、7月末に一軍昇格し、先発起用された8月1日の楽天戦(京セラドーム大阪)では先制の口火を切る二塁打を放って勝利に貢献しました。

 祝勝会でのクラッカーのフライングから生まれた「時代は山足」。目立つことを好まない職人肌の野手が、そのギャップを楽しみながら、時代の再来を静かに待っています。

◆ ファームでは若手の見本に

 「低めのチェンジアップ。カウント2-2と追い込まれていたので、一応頭には入れていたのでよかったです」と、山足は静かに殊勲の打席を振り返った。

 2回二死、楽天の左腕・早川隆久の真ん中低めのチェンジアップをとらえ左へ二塁打。早川が投じた5球の中で最も難しいボールを仕留めたことで、早川にも影響を与えたのだろう。紅林弘太郎も二塁打で続き、山足が先制のホームを駆け抜けた。

 6年目の今季は開幕を二軍で迎え、この試合が一軍で今季10試合目。安打は5月4日のソフトバンク戦(PayPayドーム)以来、3本目。ベンチで迎える選手らが、山足以上に喜びを爆発させたのは、山足の日頃の努力を知るからだろう。

 今季は多くの時間を若手選手と過ごした。50試合に出場して打率.266(128-34)、1本塁打。二軍で50試合以上出場するのは2年目の2019年(58試合)以来で、147打席も2年目(201)、1年目(180)に次ぐ多さ。40度近い酷暑の舞洲での日々を「いっぱい打席に立てて、やりたいことも出ました。一軍で仕事をすることが一番なのですが、久しぶりにたくさん野球をしたという感じでした」と振り返る。

 自分を磨くことに徹したのだろうが、その姿は若手の見本となった。

 右へ流して安打を放ち、走者を置いた打席ではいとも簡単に進塁打でチャンスを広げる。途中出場となった6月29日の広島戦(杉本商事BS舞洲)では、こんな場面もあった。

 3点を追う9回二死一・二塁。松本竜也に2球で追い込まれたが、5球連続ファウルで粘った。最後は遊ゴロに倒れたが、ストレートとフォークボールに食らいつく姿勢に、監督代行を務めていた風岡尚幸守備総合コーチは「凡退しましたが、相手に嫌がられる打撃は、チームにとって明日につながります」と高い評価を与えた。

 「あっさりと終われないタイプなんです。結果を出さないと(一軍から)呼んでもらえないし、そういうのも一つの自分の武器だとも思っています。年齢も年齢ですので、あっちにいてはダメなのですが、向こうにいる間は弱い部分は見せない、というところは意識していました。技術うんぬんでなく、そういう姿勢をね」と山足。

 暑さの中、どのようなモチベーションで過ごしていたのかを尋ねると、「モチベーションというより、とにかく上手になりたいという気持ちだけでずっとやってきたので、その気持ちだけですね」と明かす。

 「僕、野球がめっちゃ好きで、プロになって全然打てていないので、何とか打ちたいという思いだけで、ずっとやっているんです。どうやったら打てるようになるだろうか、何かきっかけがないかと思っても、練習をしなければそのきっかけもつかめませんし」

 選手の誰しもが練習熱心と認める所以だろう。

◆ 「チームが苦しい時に何とか出来るように」

 昨年、「時代は山足」で一気に知名度を上げた。

 きっかけは、2021年の京セラドーム大阪で行われた優勝祝賀会。宮内義彦オーナー(当時)、福良淳一GMら球団幹部が居並ぶ壇上で、吉田正尚選手会長(同)が「全員で勝つ」と選手に呼び掛け、全員でクラッカーを鳴らす直前、山足のクラッカーが“暴発”した。

 厳かな式典に水を差すフライングだったが、そこは上下関係も緩やかで選手間で仲のいいチームだけにお咎めはなし。逆に、普段は地味で真面目な山足の失敗だけに、先輩や後輩から優しくいじられ、「みんなより一歩先を行く男」ということから、いつしか「時代は山足」というキャッチフレーズが生まれることに。

 昨年も仙台市内での優勝祝賀会や、京セラドーム大阪でのファンフェスタでも、雰囲気を読んでクラッカーのフライングをして場の盛り上げに一役買った山足だが、「面白いことは好きなんですが、プレー以外で目立つのは苦手なんです」という。

 それでも、「誰が名付けてくれたのか分かりませんが、そのおかげでタオルまで作っていただきました。そういう話題も作ってもらいありがたいことです」と感謝することも忘れない。

 7月26日に一軍昇格を果たし、29日の日本ハム戦(エスコンフィールド)から試合に参加した。

 初めての球場でいきなり「9番・一塁」での出場となったが、「エスコンフィールドで試合が出来ることにワクワクしました。今日(8月1日)も夏の陣のユニフォームを着ることが出来たことがうれしくて」と語る表情は、野球少年そのもの。

 「チームが優勝争いをしている時に呼んでもらって出してもらっているので、意気に感じて、縁の下の力持ちではありませんが、チームが苦しい時に何とか出来るように頑張りたいですね」

 自分の役目は分かっている。

取材・文=北野正樹(きたの・まさき)