忙しい日々を送るビジネスパーソンにとって、心の支えともいえる有給休暇。法律で定められている正当な権利である一方で、利用にあたっては多くの注意点があることをご存じですか?

この記事では、有給休暇の申請期限や、希望した日に休めないケース、有給の無駄遣いを防ぐ方法など、申請前に知っておきたい5つのポイントを紹介。

体調を崩しがちな季節の変わり目や、まとまった休みを取りたい夏に向けて、有給休暇の基本をお届けします!

※有給休暇…法律で定められている"年次有給休暇”と規定

  • ※画像はイメージです

申請期限:必ず就業規則を確認

  • ※画像はイメージです

有給休暇を取得するにあたり、「いつまでに申請すれば良いのか」は知っておくべきポイント。しかし、申請期限を調べる際に、「インターネットを使いたい」と考えている方は注意が必要です。

有給休暇の申請期限は、ネットの情報ではなく、会社の就業規則に基づいて把握しなければなりません。

実は、有給の申請ルールに法律的な定めはなく、大半の会社は自社の就業規則によって、事前の申請期限を規定しています。

そのため、インターネットの検索によって自社の申請期限に関する明確な答えを把握することはできません。

なお、一般的な企業では、昭和57年の有給休暇に関する判例をもとに、「有給を取得したい場合は2日から1週間前までに請求」するよう定めているケースがほとんど。(電電公社此花電報電話局事件)

自分や家族の急病や災害時には当日の申し出が認められる場合が多いものの、すでに休みたい日がわかっている有給は、遅くとも1週間前までに申請しておくとよいでしょう。

時季変更権:申請した日に必ず休めるわけではない

「10日付与されたから、好きな日に10日分休もう!」というわけにはいかないのが有給休暇。

有給を申請しても”会社に日程を変更される”可能性があるため、休暇の日時が確定する前に予定を詰めすぎないよう注意が必要です。

企業は労働者の有給休暇を別の日程に変更できる権利を有しており、この権利のことを時季変更権と呼びます。

根拠となっているのは、労働基準法の第39条5項。以下の文言で時季変更権の正当性を保証しています。

請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。
(労働基準法第39条5項より引用)

ちなみに、時季変更権の行使にあたっては、社員の有給希望日に会社が"その社員の勤務が不可欠"かつ"代替者の確保が困難"といった状況であることが要件。

安易に行使される権利ではないものの、社員の有給申請がすべて希望通りに通るわけではない点には留意しましょう。

繰越期限:2年で消滅!?

意外と見落としがちなのが、有給休暇の繰越期限。「気づいたら有給がなくなっていた」といった事態を避けるためには、有給を効率よく消化するための工夫が求められます。

有給休暇の繰越期限は与えられた日から2年。例えば、2023年の7月10日に付与された有給は、2025年の7月10日に時効によって消滅します。

また、余った有給を会社が買い取ることは原則として不可能。時効直前で有給が大量に残っていると気づいた場合、「有給があるとわかっていたのに、使い切れずに消滅してしまった」なんて悲劇も起こりえます。

そのような事態を防ぐには、新たな有給が付与されたタイミングで既存の有給がいつ時効を迎えるのかを確認することがおすすめ。

加えて、消滅時効を迎える1〜2か月前には有給の大半を使い切るようなスケジュールを立てるとよいでしょう。

特別休暇:有給を無駄遣いしてるかも?

  • ※画像はイメージです

自分や家族の誕生日や結婚記念日など、会社を休んでお祝いしたい各種の記念日。会社の休暇制度をよく知らないまま通常の有給休暇を申請すると、貴重な有給を無駄遣いしてしまうかもしれません。

有給の誤った利用を防ぐためには、通常の有給休暇を取得する前に、まずは”会社独自の休暇”がないかどうかを確認するクセをつけましょう。

有給には、会社が必ず付与しなければならない法定有給休暇のほかに、会社独自に設ける”法定外有給休暇”が存在します。

法律で定められた日数を上回って支給される有給は一般的に特別休暇と呼ばれ、特別休暇の制度がある会社では、必要な条件を満たせば通常の有給を使わずに会社を休むことが可能です。(※1)

※1: 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署(2019)『年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説』.p.21

しかし、特別休暇は定義が曖昧であり、ルールが分かりづらいのが難点。「有給か無給か」「法定か法定外か」など、運用規定は会社によって大きく異なります。

なお、勤務先によっては、社員本人や家族の誕生日が企業が作成する"法定有給休暇の年間取得計画"に組み込まれている場合も。(※2)

※2:厚生労働省『労働時間ガイドライン3校』p.6

有給休暇を最大限活用するためには、「バースデー休暇」「イベント休暇」などの制度を福利厚生の中から探し、「法定外の有給」であれば積極的に申請するとよいでしょう。

有給休暇中の副業:法律的にはOK、モラル的には微妙

従業員の権利として定められている有給休暇。しかし、休暇とはいえ本業の給料が支払われている有給休暇中に、副業は認められるのでしょうか?

法律上は、有給休暇を使って副業をすることはOK。1973年の判例には有給休暇をどのように使うかは”労働者の自由” と記載されており、有給中の行動に制限がかかることは基本的にありません。

年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由である、とするのが法の趣旨であると解するのが相当である。
(『林野庁白石営林署賃金カット事件』最高裁判所第二小法廷判決1973年3月2日、未払賃金請求事件、昭41(オ)848判例より引用)

ただし、副業はあくまでも本業に支障が出ない範囲で取り組むもの。副業によって疲労がたまり、本業の仕事に悪影響が及ぶと、懲戒解雇となるケースもありえます。(※3)

※3:労政時報 第3978号/19.9.13 p.130-131

そのため、有給休暇中の副業は、会社や上司の許可を得たうえで無理のない範囲で行うのがベター。

また、そもそも就業規則で副業が禁止されている場合もあるため、有給休暇を使って副業に取り組もうと考えている方は、まずは自分の上司や自社の人事部に相談しましょう。

有給休暇を正しく使って、ワークライフバランスを整えよう

体調を崩したときや急なイベント、家族のお祝いなど、さまざまな場面で活用できる有給休暇。「職場の人に嫌な顔をされないか」「空気が読めないと思われそう」といった心配を抱える方も、注意点を踏まえ、有給を申請してみてはいかがでしょうか。

働き改革が叫ばれる現代、何よりも大切なのは自分の心身。有給休暇を正しく利用して、自分も周囲も笑顔で過ごせる環境を作りましょう。