6月24日、NTT東日本と鎌ケ谷市立南部小学校は当該地域で過去に発生した災害の内容や特徴を知る被災経験者からの講義、そしてARを用いた拡張現実システムを授業に導入。児童の防災意識向上と正しい災害対応を身につけるための授業を実施した。
マスコミや保護者たちが見守る中で行われた当日の模様をお伝えしよう。
企業と教育機関のコラボレーションが実現
今回行われたのはNTT東日本と教育機関が連携しておこなう「体験型防災授業」だ。この取り組みでは、当該地域で過去に発生した災害の内容や特徴などを知る被災経験者からの講演や、AR技術を用いた仮想映像により、災害を疑似体験することが可能。
これにより、児童が正しい防災・減災についての知識を身につけることと、将来的な地域を支える災害対応の担い手への育成を目指すのだという。
舞台となった鎌ケ谷市立南部小学校は、千葉県鎌ケ谷市のほぼ中央に位置しており、多くの小河川を持つ地勢の中にある。過去には冠水の被害も発生したため、今回の体験型防災授業も浸水時を想定した内容となっていた。
会場となった体育館に集まった児童らは、自分たちの地域に多い災害について学び、全国的にもゲリラ豪雨や線状降水帯の多発など、降水量が増えている状況やハザードマップの見方など、いつもとは違う授業に対して真剣な面持ちで耳を傾けていた。
次に、2013年に起こった水害で大規模な浸水の被災地となった南児童センターの自治会長、栄邦夫氏と体育館を中継で結び、オンラインで当時の様子を聞くことになった。
水害の恐ろしさや、どんな備えが必要だったか、経験者でなければわからないアドバイスをしっかり聞いた児童たち。積極的に質問する児童もおり、栄さんも思わず会話に熱が入る様子が印象的だった。
いよいよARを用いた授業へ
座学を終え、いよいよARを用いた実践的な授業の時間となった体育館では、組み分けをする児童らの話し声であふれていく。
この授業ではARによる体験型授業の「浸水した体育館からの脱出」と、防災グッズの説明を聞きながらキーワードを入手する「防災グッズの秘密を聞き出す」という2つのミッションが設けられるインタラクティブな内容となっていた。
ARに使われたのはiPhone12以降で動作する専用アプリ「Disaster Scope(ディザスタースコープ)※開発者:板宮朋基教授(神奈川歯科大学教授 防災科学技術研究所 客員研究員)」となる。
スマートフォンのカメラが読み取る現実の体育館の中に、指定した水深のにごり水のイメージが重なるもので、当日は約60㎝の浸水が設定された。
児童らが歩くコースは約5mで、障害物に見立てたコーン標識が設置され、手に持った傘を杖のように使ってそれらを避けながらゴールを目指すというものだ。
当然、ARゴーグルを被った児童たちには地面の様子は見えないので、傘の先で足元を確認しながら障害物を感じればそこを避けつつ歩を進めていく。ゆっくり、慎重に進んでいく児童もあれば、大胆に早歩きで進む児童もいる。
何名かに感想を聞いてみると「足元が見えないのは怖かった。けれど体験して楽しかった」と高学年らしい受け止め方をする児童が多かったように感じた。
「本当に水害が起こったように感じられて怖かった」「今日は障害物だけだったけど、穴が空いていたりすればとても危険だと思った」「避難所まで歩いていく体験ができて勉強になった」「災害が起こっても良いように対策をして、みんなで行動することが大事だった」など、それぞれARで体験した授業の感想を語る児童たち
ARによる浸水体験コースの背後では、救護キャンプや被災地に届けられる食料などをまとめたコンテナなどの防災グッズが置かれており、児童らはそれをみながらNTT東日本スタッフらによる説明に耳を傾けていた。
一通りのガイダンスを終えると、スタッフからキーワードが渡される。すべての防災グッズの説明を聞き終えれば、キーワードがそろい、商品がゲットできるということになる。
楽しみながら災害を学ぶ
まじめな座学あり、インタラクティブ要素を含めた体験授業ありという充実した体験型防災授業のすべてのカリキュラムは終了。児童全員がキーワードをそろえることができたので、もれなくNTT東日本から普段の食事に使え保存期間も長い備蓄食が渡された。
ローリングストック方式など災害時の備えについて家族と話して、意識を高めてもらう目的だ。児童らは笑顔で感想を語り合い、最後に記念写真を撮影してこの日の授業を終えた。
体験型授業を終えて
「普段の教室での授業では知り得ない情報を実際に体験しながら学べたので、とても貴重な時間だったと思います。真剣に聞きつつ、笑顔も見せるなど、子どもたちの満足度も高かったでしょう。学校だけでは最新技術を用いた授業は難しく、限界もあるのだと実感しました。しかし、今回NTT東日本の皆さまにご協力いただいたように、企業の力も借りながら教育という面で連携し、児童たちの将来を考えた授業をこれからも取り入れられたら良いなと思っています」(鎌ケ谷市立南部小学校 6年生 学年担任 新田翔(にった・しょう)氏)
「鎌ケ谷市の皆さまとお話をしていく中で、体験型の授業をやってみてはどうだろうという意見が出てきたことがきっかけでこのような機会を設けることになりました。やはり、座学だけでは興味を持ってもらえないので、ARを使った実体験をベースにした授業には意味があると感じていました。実際に児童の皆さんに体験してもらうのは初めてでしたが、とても喜んでくれていて、私たちも本当にうれしく思いました。今回は鎌ケ谷市の地勢から水害をテーマにしましたが、あらゆる地域で起こりえる災害はそれぞれ違ってきます。今後もその地域にあったテーマを設けて、このような体験型の授業について拡大していけるとよいなと思っています」(NTT東日本 千葉西支店 設備部 市川サービスセンタ(松戸) 課長 今井寛人氏)
最新技術を用いた体験型授業を成功へ導いた、鎌ケ谷市および学校関係者、そしてNTT東日本のスタッフらの成し遂げた笑顔と、楽しい授業で多くを学び、目を輝かせながら体育館を後にした児童らが創り上げた貴重な時間はこうして幕を閉じた。
ARによる拡張現実を地震、津波、火災等と変化させることで、それぞれの地域に合わせたテーマ設定が行えるという点で、体験型授業の応用の場は大きく広がっていくことが期待できそうだ。今回のケースを成功例に、これからも将来を担う児童のために防災意識向上を目指した体験型授業を展開してもらいたい。