6月24日、北海道・真駒内『RIZIN.43』でRIZINフェザー級王者クレベル・コイケ(ブラジル/ボンサイ柔術)が、まさかの計量失格。彼の腰からベルトは剥奪され、王座は空位となった。
そのためベルトの行方に注目が集まっていたが、新王者決定戦が電撃決定している。7月30日、さいたまスーパーアリーナ『超RIZIN.2』での朝倉未来(トライフォース赤坂)vs.ヴガール・ケラモフ(アゼルバイジャン)がタイトルマッチに認定されたのだ。勝って新チャンピオンになるのはどっちか? 関係者の間では「朝倉優位」の声が多く聞かれるが、本当にそうなのか─。
■ベルトなんてどうでもいい
「どっちでもよかった。今回の試合(ケラモフ戦)に勝って、クレベルとやって勝つのが自分の目標なので、(ベルトは)ただついてきたという感じです。ベルトどうこうよりも強さを証明したい。勝った奴が一番強いんです」
7月9日夕刻、東京・六本木アリーナで開かれた公開練習。設置されたリングの上で朝倉未来は、そう話した。
この直前に「朝倉vs.ケラモフを王座決定戦とする」と榊原信行RIZIN CEOが電撃発表。多くのファンも集まっていた会見場はどよめいたが、朝倉は至って冷静だった。
「クレベルにリベンジしたい」
朝倉は、それを目標に掲げ闘い続けている。公言していた「30歳で引退」を撤回したのも、そのためだ。
本来なら、7月の『超RIZIN.2』でケラモフに勝利しRIZINフェザー級王者のクレベルには大晦日のリングで挑むつもりだった。だが、まさかのクレベル失態。それでも目指す処は変わらない。
(ベルトなんてどうでもいい)
それは本音だろう。
おそらく朝倉は、ケラモフとクレベルに連勝したなら、その場での「引退表明」を決めている。
■屈強なる肉体と強靭なメンタル
この日の公開練習の前には、佐々木憂流迦(セラ・ロンゴ・ファイトチーム)、金原正徳(リバーサルジム立川ALPHA)、石渡伸太郎(引退/CAVE)がリングに上がりトークショーが行われた。
そこで3人が、朝倉vs.ケラモフについて話していたのだが少々驚きを感じた。全員が「朝倉勝利」を予想していたからである。
「打撃対組みの闘い。未来選手のヒザ蹴りやハイキックは当たると思う。(クロスファイトのまま終われば)RIZINの判定ではダメージが優先されるので未来選手が有利。それで『あの判定はどうなの?』とファンの間で物議を醸す。そこまでがワンセット(笑)」(金原)
「未来選手が危なげなく勝つ。相性がいいと思う。(ケラモフの組みで)尻餅をつくまではいくかもしれないけど、それ以上はない。(朝倉が)カウンターを合わせられる」(石渡)
「僕も未来選手が勝つと思う。しっかり自分の武器を使って完封するんじゃないかな」(佐々木)
このトークショーが行われている時、朝倉はステージ横のテント内にいて話の内容は聞ける。だから気を遣ったのだろうか。いや、そんなはずはなかろう。
この3人に限らず「朝倉優位」と予想する選手、関係者が圧倒的に多いのである。
だが果たして、そうだろうか。
私は「6-4」でケラモフが優位と見ている。
打撃でダメージを与えたい朝倉と、組みからグラウンドの展開に持ち込み削り合いをしたいケラモフ。早い段階で得意の打撃をクリーンヒットさせることができれば朝倉ペースで試合は進もう。
しかし、効果的な打撃を見舞うためには、相手に対してプレッシャーをかける必要がある。それを、これまでの試合と同じように朝倉ができるか否かが大きなポイント。
スタミナにも自信を持つケラモフは、フィジカルの強さも活かして序盤から距離を詰めて組み合ってくるだろう。そこから片足タックル等でテイクダウンを狙う。この場面で朝倉が逆にプレッシャーをかけられ後手を踏んだなら、試合の主導権をケラモフが握ることになる。
フィジカルの強さには定評のある朝倉だが、それは日本人、あるいは日本のジムに在籍する選手との試合に限ったもの。ここ3年、海外のジムで練習を積むパワーファイターとは対戦していない。ケラモフは、これまでに22戦18勝(14KO&一本)4敗の戦績を誇る。そして、KO、一本で負けたことは一度もない屈強なファイター、劣勢になっても最後まで粘り強く闘う強靭なメンタルも持ち合わせている。
ケラモフは、簡単に勝てる相手ではない。
だから朝倉は言った。
「凄く緊張感のある試合になると思う。一つのミスでどっちかが負けることになる、そんな強者同士の闘い。皆さん、そんな緊張感を楽しんでください」
7・30『超RIZIN.2』では未来の弟、朝倉海もバンタム級王座決定戦(vs.ファン・アーチュレッタ)に挑む。兄弟揃って腰にベルトを巻くことができるのか?
ちなみに、二人がトップファイターとなった過去4年で『RIZIN』同時出場は3度。兄弟一緒に美酒に酔ったことは一度もない。
苛烈なる闘いを凝視しよう。
文/近藤隆夫