企業でいま、大きな問題になっているひとつが若手社員の早期離職。
一説には、入社3年以内に3人に1人が離職していると言われる。入社した側も迎え入れた側も、大きな損失に違いない。
どうしたら解決できるのか。毎年、新入社員の意識調査を実施しているリクルートマネジメントソリューションズの2023年の調査結果発表会から、そのヒントが見えてきた。
世代間ギャップを生む働くうえでの意識の変化
ある問題を解決したいと思ったら、当然ながらなぜ起こっているのか原因を調べる必要がある。そういった意味で、同社の新入社員意識調査の有用性は大きい。まずは同社の研究員 武石美有紀氏による新入社員意識調査の結果分析から見てみよう。
「働きたい職場の今年の結果は、トップは『お互いに助け合う』ですが、10年前と比較して一番ポイントがアップしたのが『お互いに個性を尊重する』でした。一方、『アットホーム』は過去最低になりました」(武石氏)
筆者は転職サイトの求人広告の原稿を手掛けることも多いが、確かにアットホームは死語になりつつある。筆者にはアットホーム=温かな雰囲気の職場というイメージがあるが、個を大切にする若者とは相いれないものがあるのだろうか。
また、「働くうえで大切にしたいこと」の調査結果も見逃せないものだった。
「働くうえで大切にしたいことでは『任された仕事を確実に進めること』が過去最高になり、『何事も率先して真剣に取り組む』が過去最低になりました。『自律』を苦手とする若手層の特徴を反映した結果だと分析しています」(武石氏)
上司世代からすると、部下には率先して仕事に取り組んでほしいところだろうが、現実はそうなっていないようだ。こんなところにも、世代間のギャップを垣間見ることができる。
仕事の価値観として内発的動機を重視するZ世代
同社では、働くうえでの意識とともに、仕事に対する価値観を問うアンケートも2020年から実施しているが、そこからもZ世代の考え方が浮かび上がってきた。
「仕事するうえで重視したいことのトップ2は、『成長』と『貢献』。一方で、『競争』は2年連続で最下位になりました。これは『競争で1位になる』などの外発的動機付けよりも、『成長実感』や『貢献実感』といった内発的動機付けを必要としていることが背景にあると考えられます」(武石氏)
昨年の結果と『成長』と『貢献』の順位が入れ替わったもののトップ2であることに変わりはなく、『競争』も不動の最下位。Z世代の仕事の価値観を物語っていると見て間違いない。育成を任せられる上司世代としては、留意しておくべき価値観だろう。
「共通目的」で世代間の違いがプラスに
では、どうすれば若手の早期離職になる事態を防ぐことができるだろうか。武石氏は調査結果を踏まえたうえで、Z世代の特徴を次のように考察した。
「ひとつは、仕事をする前から『これ、やる意味ありますか』と聞いてくるなど、物事の意味や価値を重視する傾向です。そして、もうひとつは自分に合うものを選び、合わないものは早期に見切りをつける傾向です。実際、企業の皆様と接していて、これらの特徴に頭を悩ませている方が多いようです」(武石氏)
こう考察したうえで、上司世代とZ世代が協働するキーワードのひとつとして「共通目的」を挙げる。
「やりながら納得していく上司世代と、納得してからやるZ世代とでは、当たり前が異なっているわけです。これを克服するには、何のために取り組むのかを互いに話し合って合意し仕事を進めること必要があります。個が持つ違いが、多様な観点から物事をより良くするプラス要素に転換できます」(武石氏)
イジメが依然として社会問題化しているように、人は異なるものを排除しようとする特性がある。当たり前の差異も放置しておくと、組織としての分断がどんどん大きくなり、Z世代は自分には合わないと職場に見切りをつけることになりそうだ。
セルフリーダーシップを発揮する6つのスイッチ
自分に合った環境を求めるのは悪いことではないが、あまりにも早く見切りをつけてしまうのは、企業だけなく個にとっても非常にもったいない。
2つ目のキーワードとして、同社で主任研究員を務める桑原正義氏が「セルフリーダーシップ」の重要性を解説した。
「正解がなく、職場でも人を育てる余裕もなくなってきたVUCA社会では、セリフリーダーシップを発揮し、自律的に学習して成長していくことが重要になってきます。ところが日本の若者は、OECD(経済協力開発機構)の調査で、『自分から動いて社会が良くなる』という選択肢に対し先進国の中で最も低い選択率でした」(桑原氏)
確かに、合わなければ変えるというスタンスのままでは、企業も個人もハッピーになれない。桑原氏がセルフリーダーシップを発揮する6つのスイッチを紹介してくれた。
「何が自律学習・成長を促進し、逆に阻害するのかをZ世代の研究から分析し、6つのスイッチを設定することができました。具体的には、視野の広さなど自分にないものを取り入れていく4つのスイッチと、自分の得意分野などあるものを生かしていく2つのスイッチになります」(桑原氏)
Z世代はもちろんのこと、それ以外のビジネスパーソンにとっても、これらかのVUCA社会を生き抜くスイッチになりそうだ。