たばこ、医薬、加工食品事業を中心とした事業活動を展開するJTグループでは、日本国内において、 パートナーシップを基盤に地域社会のさまざまな課題と向きあう「Rethink PROJECT」という社会貢献活動に取り組んでいる。その一環として、森林保全活動の「JTの森」を展開しており、全国9か所の森林を「JTの森」として、森林整備の支援を行っている。

  • 6月中旬「JTの森 小菅」にて、「森づくりの日」が開催された

山梨県北都留郡小菅村にある「JTの森 小菅」では、2006年3月より森林保全活動を開始。東京都への水道水源林の一角にあたり、多摩川水系、相模川水系の分水嶺に位置しているところから、「水源林の混交林化と環境教育の拠点づくり」を目的に整備活動が行われており、その一環として「森づくりの日」(森林保全活動)が、年に1~2回の頻度で開催されている。

これまではJTの社員およびその家族を対象に行われていた「森づくりの日」だが、今回初めて、社員以外の参加者も募り、JTの東京支社・神奈川支社・埼玉支社の社員のほか、山梨県の職員や山中湖観光協会、山梨学院大学の教職員や学生、神奈川県秦野市の職員などおよそ60名が参加した。

  • 苗木は鹿などの動物から守る“ウッドガード”で保護されている

  • 森林環境教育を意識した展示物も

今回の「森づくりの日」イベントは、梅雨真っ只中の6月中旬に開催。雨も心配されたが、当日は見事な晴天に恵まれた。バスで集合した参加者は、山の中腹に位置する「JTの森 小菅」まで20分程度の山登りからスタートする。

  • 安全のためのヘルメット着用で作業の説明を聞く参加者

「JTの森 小菅」に入ると、まずは「蔦刈り」。苗木に巻き付く“蔦”をカマで刈り取る作業だが、蔦が絡まると苗木が成長しにくくなるため、森づくりには非常に重要な作業となっている。大人も子供も一緒になって、手にカマを持ち、一心不乱に蔦や周りの雑草を刈り取っていく。

  • カマを手に「蔦刈り」を行う

  • 蔦が巻き付くと苗木の成長が阻害される

  • 大人も子供も一緒になって蔦刈りで汗を流す

およそ1時間弱の蔦刈りを終えると、次は森の理解促進に繋がるフィールドビンゴを実施。あらかじめ用意されたお題には、「もの」だけでなく、「おと」や「てざわり」なども含まれており、ビンゴを成立させるためには、五感をフルに活用する必要がある。さらに「本日のスペシャル」として、「あなたにとってのこの森の宝物」を探すことがお題となった。

  • フィールドビンゴのお題。行や列を揃えるというよりも、五感を使って森を愉しむことが目標

  • 9つの班に分かれて森の中を探索

  • 各班が森で集めたものを発表

参加者は9つの班に分かれて森の中を探索し、森の素晴らしさを五感で体感。表彰式では、北都留森林組合の参事である中田無双氏より、「良い森とは“明るい森”です。我々森林組合が一生懸命に作業しているのは、暗い森を明るくするため。この言葉を覚えて帰ってください」との言葉が贈られた。

  • 優秀チームを表彰

蔦刈りとフィールドビンゴで汗を流した後は、セレモニーとして、小菅村の舩木直美村長とJT山梨支社の奈良忠克支社長による主催者挨拶。参加者の労をねぎらいつつ、フィールドビンゴの「あなたにとってのこの森の宝物」というお題に対して、「宝物は”この森”という言葉を聞いたときは、涙があふれるくらい嬉しかった」と笑顔を見せる舩木村長は、「山の生活は厳しいだけでなく、楽しいところもいっぱいあります」と伝え、「今回の活動を通して、山を守る大切さを体験していただき、本当にありがとうございました」と、参加者にあらためて感謝の意を表した。

  • 小菅村の舩木直美村長

その後、小菅村の幸をふんだんに取り入れたお弁当と小菅汁と呼ばれるけんちん汁で昼食。さらに手作りのバームクーヘンと淹れ立てのコーヒーを楽しみながら、森の空気を存分に浴び、「JTの森 小菅」のすばらしさをゆったりと堪能し、一日の疲れを癒やした。

  • バームクーヘン作りに挑戦

■山梨県内にこんな良いところがあることを知ってもらいたい

2006年に「JTの森 小菅」がスタートして以来、18年にわたって展開されている「森づくりの日」だが、今回の大きな特徴は、JTの社員以外が新たに参加したところ。「小菅村は東京寄りに位置しているところもあって、山梨県の方でもあまり訪れたことがない」と話すのは、今回の施策を担当したJT山梨支社 課長代理の加山善紀氏。「我々の活動を知ってもらいたいというのはもちろんですが、山梨県内にこんな良いところがあるということを知ってもらいたかった」との思いが今回の企画に繋がったという。

  • JT山梨支社 課長代理の加山善紀氏

基本的に「休日のボランティア」ということもあって、社内の参加者もリピーターが多く、それをいかに広げるかも課題になっていたという加山氏。

「リピーターの方は、本当に山や森が好きで、森林の保全活動などにも興味があって参加してくれているので、非常にありがたいですし、そこを崩したくはなかったのですが、やはりさらなるプラスアルファとして、今回は社外の方にも参加していただくことにしました」。

「森林保全が第一ですが、ただ作業をするだけでなく、遊びの要素も取り入れながら、一日を楽しく過ごしてもらえるのが一番うれしいです。そして、社内だけでなく、いろいろな団体の方が参加することで、コミュニケーションの輪が広がり、それが今後の仕事に繋がっていく。そんなきっかけづくりになればいいなと思っています」。

今後はまず、今回が初めての参加者がどのような感想を持ってくれたかのヒアリングから始めるとのことで、「秋の開催に向けて、コンテンツを決めたり、参加者を募ったり、さらなるブラッシュアップを図っていこうと思っていますが、基本的なスタンスは変わりません。『JTの森 小菅』を中心に、さらなる輪を広げていきたいです」。

■「JTの森 小菅」の維持管理を行う北都留森林組合の挑戦

「JTの森 小菅」の維持管理は、北都留森林組合によって行われている。2006年のスタート当時から携わる同組合の参事であり、森林インストラクターの肩書を持つ中田無双氏は、「JTの森 小菅」における森づくりのコンセプトについて「針葉樹だけでなく、広葉樹も一緒の元気な森を作ること」だと説明する。

「林業にとって、針葉樹は良くて、広葉樹はダメといったことはなく、いずれも大事な木です。だから、どちらも大事にする森づくりをしたかった」という森林組合の考え方にJTが共感したところから「JTの森 小菅」はスタートしている。

  • 北都留森林組合 参事の中田無双氏

混合樹林の森づくりは、国の政策としてメニューが用意されていないため、非常に困難で、「ここの森づくりは、すべてJTさんが負担してくれていて、国の補助金は入っていません。逆に言えば、JTさんが共感してくれたからこそ、ここの森づくりができている」と中田氏。

実際、2006年まではカラマツだけの森だったとのことで、「今はまだ過渡期ですが、およそ20年が経って、ようやく気持ちの良い森が作れてきたのではないかというのが、自画自賛ですが、僕らの正直な感想で、森林組合のチャレンジをJTさんに協力していただいているというイメージです」。

「JTの森 小菅」にはさらに「森林環境教育の森」というテーマがあり、「都会の人たちは、森との距離が離れすぎてしまっています。だから、気軽にやってきて、森のことを学べる、そんな森を作りたい」との意気込みで、「森林セラピーとか流行っているじゃないですか。都会で疲れた人が、この森でリフレッシュして、また都会に帰っていく……そんな場所を作りたい。もちろん、子供たちの森林学習としても活用できる森。20年かけて、その地盤がだいたい完成したので、ようやく次のステージに向かうことができます」とさらなる意欲を見せた。

そして、その次なるステージこそが、今回のイベント。「これまでは、JTの社員の方がやってきて、だた汗をかいて森を整備するだけの、いわば体育会系のイベントでしたが、これからは、社員以外の方にも来てもらって、もっと森に触れて、楽しんでもらおうという方向に舵が切れました」。実際、7月には山梨新聞主催による“森林体験イベント”が予定されるなど、森を学ぶフィールドとしての活用が始まるという。

小菅村は95%が森林に覆われているので、いかに観光資源として活かしていくかが課題であると話す中田氏だが、もちろん林業の重要性も忘れていない。「自分たちの本業は木をお金にすることです。観光資源はあくまでも空いた土地の活用で、木を売ることをまず考えています」。実際、「JTの森 小菅」も、間伐した木は放置されておらず、すべて持ち出され、売却されている。その支援もJTが行っている点を、中田氏は強調する。

「ただ植えるだけの活動をされている企業さんはたくさんいらっしゃいます。何本植えたかの本数だけを競っているような活動も少なくありません。しかし、森づくりにおいて本当に重要なのは、植えることよりも植えた後、面倒を見て、手入れをしていくことです。それを理解してもらっているからこそ、20年も付き合っていただいています」。

700人に満たない村民の半数以上が後期高齢者という小菅村だが、定住人口が増えなくても、交流人口が増えれば村は元気になるという中田氏。イベント参加者に対しても、「森の大切さや気持ち良さを体感したら、それを都会に帰って、周りの人に伝えてください。皆さんが“伝道師”なんです」と話しかける。

「私一人では限界がありますが、100人の方が100人の方に伝えれば、それだけで1万人の方に伝わるわけです。そういった活動を続けていくことで、多くの人が森のすばらしさを知り、足を運んでみようと思う。距離感を考えても、実際にそれができるのが小菅村の強みだと思っています」。

■「JTの森 小菅」をコミュニケーションのプラットフォームに

本イベントについて、当初はあくまでも社員教育の一環に過ぎなかったと、JT山梨支社 支社長の奈良忠克氏は振り返る。

  • JT山梨支社 支社長の奈良忠克氏

「いわゆるSDGsやCSRといった環境やボランティアを体験する場として続いていたイベントですが、実際の中身は作業が中心でした。朝から森に入って、草を刈って、道の駅で温泉に浸かって、帰るだけのイベント。参加者の顔を見ても、ただ疲れているだけ。森林整備を行うだけのイベントで、どこまでJTの森小菅の魅力を伝えられているか疑問でした」。

社員だけでなく、もっと地域の人たちとの連携が重要だと感じた奈良支社長は、まずは問題点の整理に着手したという。

「小菅村自体、山梨県の人にあまり知られていないという現状がありました。もちろん場所くらいは知ってますが、行ったことはほとんどない。小菅の人も同じで、山梨に行くよりも、東京に行くほうが早かったりするので、両者の関係性は非常に薄かったんです」。

山梨県と小菅村、両者を繋ぐフィールドとして「JTの森 小菅」が利用できないかという着想から、まずはその第一歩として「森づくりの日」のコンセプトを変更。作業ベースの森林保全活動ではなく、森の豊かさや大切さを知り、それを守ることこそが本来の環境教育であるというスタンスへ、昨年秋からシフトチェンジが行われた。

舩木村長をはじめとする小菅村の人々や、中田参事ら北都留森林組合の人々と相談しながら、新たなコンセプトを構築。森の素晴らしさや豊かさを体感できる楽しい企画を取り入れつつ、社員同士はもちろん、山梨の人々も含めたコミュニケーションの場、情報発信の場、そういったプラットフォームとして「JTの森 小菅」を活用するというコンセプトで企画が進められた。

「とはいえ、いきなり社外の方をお呼びするのはちょっと難しいので、まずは社内から進めました」という奈良支社長。昨秋のイベントでは、森にある秋の実りを集めて、グループごとにコンセプトを決め、自分たちだけのお弁当を作る「秋の森のお弁当箱」という企画が実施された。

「小菅の森は、針葉樹と広葉樹の混合樹林なので、秋の実りが本当に豊かなんです。それをみんなで集めて、それぞれのコンセプトにあわせたお弁当箱にして発表するという企画です」。

まさに森の豊かさを五感で体感できるイベントだが、そのときに奈良支社長は「参加者を部門の垣根を越えてグループ分けしたので、最初は遠慮もあったのですが、最後は和気あいあいと笑顔で語り合っていました。終了後のアンケートでも、森の豊かさを体感できただけでなく、初めて出会った社員とコミュニケーションが取れて楽しかったというコメントがあり、これこそが環境教育におけるひとつの成功事例ではないかと実感しました」。

そんな成功体験を踏まえての今回は、さらに大きな目的である「地域との連携」「地域への情報発信」に挑戦。

「自分たちだけでなく、小菅村も森林組合も、運営を手伝ってくれた(小菅村で観光事業を手掛ける)源さんも含めて、みんながWin-Winになれる何かを考えるのが今回の課題。外部の方を交えて、どこまでできるかの挑戦でした」。

今回は、JTの社員だけでなく、周りの自治体や大学、観光協会も参加。成功したかどうかは、今後の反応次第となるが、「少なくとも自分の実感では、皆さんの笑顔が印象的でした」と話す。

また、今回のイベントにはJT山梨支社のメンバー10人が全員参加で、運営側、つまりホストとして関わった。

「人を楽しませる企画を作るとか、人をもてなすという経験は、実際の業務にも必ず役立ってくると思っています。人数が少ない中、本来の仕事をやりながらの森の業務なので、大変ですし、正直、いやいやながらだとは思いますが(笑)、本当に頑張ってくれたと思います」。

今後は「JTの森 小菅」がプラットフォームとなることで、いろいろな人が森に集まって、コミュニケーションを図り、有機的に繋がっていくことが理想だという。

「我々の存在は関係なしに、それぞれが自由に動いて、さまざまな繋がりができて、みんながWin-Winになる。そのハブになる森ができたら幸せですし、そこに本当の価値があると思います」と森の将来を展望する。

「ビジネスも、自分たちだけではなかなかうまく行かない時代になってきました。特に我々は、どちらかというとスタンドアローンの企業で、ほかの企業さんとの繋がりが多くありません。だからこそ、この森を活かして、コミュニケーションを広げていきたい。そうすれば、ダイレクトではなくても、何らかのアイデアに繋がるかもしれませんから。森をプラットフォームにするのが目的ではなく、その先に繋げていくのが最終的な目標です。この森から何が生まれるかはわかりませんが、何かをやらなければ何も生まれません。その“何か”のひとつとして、『森づくりの日』を今後も大事にしていきたいと思っています」。

  • 「JTの森 小菅」の様子

「JTの森 小菅」で開催されている「森づくりの日」は、現在のところ、JTの社員および関係者、そして招待者のみで、一般参加などは募集されていない。ただし、「JTの森 小菅」自体は、一般開放されているので、興味のある方は一度訪れてみて、森の豊かさ、そして素晴らしさを体感してみてほしい。