フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)で、きょう4日に放送される『私は何者なのか… ~すべての記憶を失った男~』。記憶をなくした男性が、“本当の自分”を探す日々を追った作品だ。

取材したのは、真壁優仁ディレクター(ネツゲン)。この衝撃的な境遇にある彼に、どのような思いを抱きながら密着したのか――。

  • 横浜駅を歩く西六男さん=『ザ・ノンフィクション 私は何者なのか… ~すべての記憶を失った男~』より (C)フジテレビ

    横浜駅を歩く西六男さん=『ザ・ノンフィクション 私は何者なのか… ~すべての記憶を失った男~』より (C)フジテレビ

■冬の夜、横浜駅前の冷たい石畳の上で目を覚ます

番組に登場するのは、「自分に関する、すべての記憶がない」という男性。冬の夜、横浜駅前の冷たい石畳の上で目を覚ましたが、持ち物は、ポケットの底から出てきた31円と、小さなカバン、汚れたタオルのみ。なぜここにいるのか、自分の年齢や名前に至るまで、すべての記憶がなくなっていた。

鏡に映った自分の姿を見ても、そこには、見覚えのない男がいるという混乱のまま、当てもなく横浜を歩き回った12日目、食事もろくに取れずに衰弱していたところを、見回りのボランティアに発見された。横浜市西区役所に保護されたが、名前が分からないままでは生活支援も受けられないため、「西六男」という仮の名前が付けられた。

医師による診断は、心に受けた大きなショックから自らを守るため、それにまつわる記憶を全て忘れてしまうという「解離性健忘症」。過去の自分をすべて消したくなるほどのショックとは何だったのか。家族はいるのか、探してくれている人はいるのか、そして自分は何者なのか…。“本当の自分”を取り戻すための“自分探しの旅”に密着する。

■テレビ取材に対する警戒心がなかった理由

真壁Dと西さんの出会いは、まさに偶然だった。日雇い労働者など様々な人生を背負った人たちが肩を寄せ合って暮らす街、横浜・寿町を取材しようと、NPO法人の支援団体を訪ねると、「実は記憶を失った人がいるんです」と紹介されたのが、西さんだ。

映画やドラマの設定のような話だが、実際に本人と対面し、会話を重ねていくうちに、デタラメを言っているわけではないと確信するようになった。

「放送ではあまり描いていないのですが、過去の街や文化など記憶が、ある一定の期間で止まっていたんです。例えば、渋谷の駅前にあった東急文化会館の話とか、流行っていたアーティストなどを聞くと、『この人の時間は、ここで止まっているんだ』と話に矛盾がなかった。もしかして目立ちたがり屋なのかなという不安もちょっとあったんですが、彼が記憶喪失を演じるメリットは全くないですし、何より、“記憶を取り戻したい”、“自分が誰なのかを知りたい”という熱意がすごかったんです」(真壁D、以下同)

テレビの取材に対する警戒心は、最初から感じなかったそう。その背景には、「番組が放送されることによって、自分のことを知ってる人から連絡が来るかもしれないという期待があったんです」という。

ちなみに、記憶喪失との因果関係は不明だが、『ザ・ノンフィクション』を知らなかった西さん。それでも、「取材が始まってから、今後自分が出るかもしれない番組だということで、毎週見ているそうです」とのことだ。