フードテックとは?

フードテックとは、「Food(フード)」と「Technology(テクノロジー)」を掛け合わせた言葉です。食の最先端技術を指し、経済産業省では「サイエンスとエンジニアリングによる食のアップグレード」とも定義しています。

身近なところでは飲食店のモバイルオーダーや、大豆ミートの開発などが挙げられるでしょう。また、農業ではアグリテックと呼ばれる分野もフードテックに含まれ、人手不足を解消するロボットの開発や、生産の効率化を促すAI・ICTの活用などが期待されています。

フードテックが注目される背景

フードテックはその市場規模の大きさから、世界中で注目されています。米国のフードテックイベントでは2025年までには世界で約700兆円規模にのぼるという試算も打ち出されており、日本でも2020年には24兆円規模だった市場が2050年に約280兆円規模になると見られています(農林水産省資料、三菱総合研究所調べ)。

この背景には世界的な人口増加などによる食料需要の拡大や、環境負荷低減の推進などが挙げられます。また、フードテックは生産・製造・流通・保存・調理などの各方面で活用できるため、さまざまな業界から注目が集まっていると言えるでしょう。

今後の市場活性化をめざして農林水産省や経済産業省もフードテックを推進しています。また、SDGs(持続可能な開発目標)においては、目標12「つくる責任、つかう責任」などと深く関わっており、フードテックに大きな期待が寄せられています。

フードテックで解決できる問題

・食料不足・飢餓の深刻化
・フードロス問題
・食品の安全トラブル
・労働力不足や高齢化
・増加する菜食主義者への配慮

今、世界が直面している食の問題はたくさんあります。フードテックの最大の目的はそれらに対する課題を解決、あるいは深刻度を低減することです。ひとつずつ具体的に見ていきましょう。

食料不足・飢餓の深刻化

温暖化がもたらす異常気象によって作物の生産性が低下しており、国連機関の発表によれば世界では飢餓状況に苦しむ人が2021年に8億人以上おり、およそ10人に1人が栄養不足で飢餓に苦しんでいるという現状があります。効率的かつ安定した食料の確保のために、フードテックの発展に期待がかかります。

フードロス問題

世界の食料不足に相反して、日本でも売れ残りや賞味期限切れなどによって食べられる食料を捨てるフードロスの増加が問題となっています。
消費者庁などの発表によると、日本の年間のフードロスは2020年には522万トンにおよび、これは世界中の飢餓で苦しむ人々に送られる世界の食料支援量の約1.2倍と言われています。ここでもロス防止のためのフードテックが役立つことでしょう。

食品の安全トラブル

近年の食品の安全性をめぐる問題点として、異物混入、細菌・ウイルスによる食中毒、幼児・高齢者の誤飲による死亡事故、外国産農産物の残留農薬、産地偽装表示などが挙げられます。
こうした問題への対応策としても、フードテックは有効でしょう。

労働力不足や高齢化

増え続ける世界人口に対し、日本の人口は年々減少しており、2022年の労働力人口は前年より約5万人減少するなど厳しい状況にあります(総務省調べ)。
特に食の分野では、農業従事者の平均年齢は高齢化が進んでおり、後継者問題も無視できません。農業や外食産業における省人化や無人化を支えるフードテックには、その解決策が強く求められています。

増加する菜食主義者への配慮

ベジタリアンやビーガンと呼ばれる菜食主義が、最近では特別視されなくなってきました。そこで、肉や魚などの代替品として、植物性のタンパク質が求められる傾向が強まっています。
フードテックによって今後、栄養バランスを細かく調整した食品が生まれ、ますます食の多様化が進んでいくでしょう。

フードテックの主なテクノロジー例

・代替肉や大豆ミートなどの代用食品
・植物工場
・特殊冷凍技術
・人に代わるロボットやAIの技術
・トレーサビリティー管理

環境への負荷を減らし、安定した生産力を保つ。品質を確保し、市場を広げる。そして人材不足を解消する。現代社会の食品をめぐる問題点の改善を図り、経済の活性化に貢献するフードテックは日進月歩で成長しています。どんな技術があるのか、その一部を見てみましょう。

代替肉や大豆ミートなどの代用食品

植物由来の成分で作られた「大豆ミート」は菜食主義志向の人も食べられる肉(タンパク源)として急速に普及が進んでおり、大手食肉加工品メーカーも積極的に製品開発に取り組んでいます。
また、動物の可食部の細胞から作る培養肉も、環境への負荷が少なく厳密な衛生管理が可能といったメリットが注目され、研究開発が進められています。

植物工場

植物工場とは、屋内で高度な環境制御と生育予測をしながら、植物を育てる施設です。太陽の光が少なくても育てられることなどから、計画生産が可能です。安定供給が見込めることが、生産者にとっても消費者にとっても大きなメリットになっています。

特殊冷凍技術

従来の急速冷凍は、水産業や食肉卸業で利用されることが一般的でしたが、コロナ禍以降、全国の飲食店が通販や冷凍自販機での販路開拓を目的として特殊冷凍技術に着目しています。
急速冷凍に凍結媒体ごとの特殊な技術を加えることで、さらに高品質な冷凍を実現し、素材のみならず、料理も素早くおいしく高品質に保ったまま凍結。細菌の繁殖を抑えることができ、衛生面のメリットも高く評価されています。

人に代わるロボットやAIの技術

農場などの生産現場、スーパーなどの販売店や飲食店などの提供現場で、ロボット・AI技術を活用することによって人材不足の問題を解消する動きが活発化しています。
その最もわかりやすい例が、コロナ禍において進んだ、モバイルオーダーによる商品の注文や引き取りでしょう。こうした技術活用は今後、加速度的に進むと見られています。

トレーサビリティー管理

トレーサビリティーとは「その製品がいつ、どこで、誰に作られたのか」を明確にするため、原材料の生産から加工、消費までなどを追跡可能にすることです。
食の安全を追求するためにも、食品トレーサビリティーの管理は重要です。現在も流通経路の確認にバーコードや2次元コードが使われ、今後もAIやICT技術の活用が大いに期待されている分野です。

農業でのフードテックの事例

農業に関わる分野でもフードテックは多面的に活用され、画期的な成果を上げています。栽培・加工・廃棄の各工程において、企業やJAなどが組織ぐるみで取り組んでいる事例の一部を紹介していきましょう。

食品廃棄物半減(イオン株式会社)

国内外約300の企業で構成される大手流通企業のイオン株式会社。同社のサステナビリティー方針として、2025年までに売り上げ100万円あたりの食品廃棄物発生量50%削減を目指しています。その取り組みのひとつが3R(リデュース・リユース・リサイクル)に基づいた食品リサイクルモデルです。店舗で出る野菜くずや廃油などの食品残さを堆肥(たいひ)にし、同社の農場で利用することでフードロス削減を推進。その農場から出荷された農産物が店頭に並び、グループ企業内で完結するリサイクルループを確立しています。

ICTを活用した施設栽培(JA宮崎中央⽥野⽀店きゅうり部会)

作付面積17.8ヘクタール(2019年時点)の農地でキュウリを栽培しているJA宮崎中央⽥野⽀店のきゅうり部会では、ICT活用の取り組みとして環境測定装置・炭酸ガス発生装置を導入。環境制御技術を部会全体で共有することによって、既存ハウスにおけるキュウリの収量アップを実現しています。

この取り組み以前の平均収量は10アール当たり17トン(2010年実績)だったのに対し、導入後は24トン(2018年実績)に。費用対効果の試算では3トン増収につき約100万円の売り上げ増になっています。

大豆ミートの開発・販売(DAIZ株式会社)

DAIZ(ダイズ)株式会社は2020年より大豆ミートの開発を事業化した、この分野の代表的ベンチャー企業です。特殊条件下で発芽させた丸大豆を使用することによって、風味・食感を飛躍的に向上させ、「大豆肉」製造の特許を取得しました。

現在は味の素やニチレイフーズといった大手食品メーカーと提携し、大手スーパーや飲食チェーンなどを通じて製品を販売・提供。今後は輸出も視野に入れ、グローバルな大豆ミートビジネスに取り組む計画を立てています。

急速冷凍(株式会社ジェイエイフーズみやざき)

冷凍食品「宮崎育ちのほうれんそう」を代表的商品とする株式会社ジェイエイフーズみやざきでは、急速冷凍技術を使って宮崎県産野菜の冷凍食材を製造しています。

急速冷凍とは食品が凍結に至る温度帯(-1度から-5度)を短時間に通過させる方法で、これによって食品中の水分の氷結晶を小さく抑え、組織の損傷を最小限にできるので、おいしさや鮮度を保てます。「宮崎育ちのほうれんそう」の場合は、-30度のトンネルフリーザーで3分間急速冷凍しています。

フードテックで広がる食と農の可能性

次々と生まれる新しいテクノロジーが産業・経済に大きな影響を及ぼし、生活の最もベーシックな部分を支える食にも、その技術力による変革が始まっています。

特に農業や食品の供給に携わる人にとっては役に立つ情報が多いはずです。ぜひフードテックの知識を深めて、新しい食生活のイメージと供給手段を追求してください。