都心へと向かう電車の車両が、突如、未来の荒廃した世界にワープしてしまうという奇想天外な設定のTBS系金曜ドラマ『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』(毎週金曜22:00~)。主演の山田裕貴らキャストは、その世界観を見事に再現したセットのクオリティにも舌を巻いたとか。とことんリアリティを追求したセットや小道具のこだわりを本作の美術スタッフに聞いた。

  • 『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』のセット

『恋はつづくよどこまでも』(20)などの人気脚本家・金子ありさ氏のオリジナル脚本をドラマした本作。飛ばされた未来の世界では、乗客たちがそれぞれの知恵を駆使して、過酷なサバイバル生活を繰り広げていく。主人公のカリスマ美容師・萱島直哉役を山田が、正義感溢れる消防士・白浜優斗役を赤楚衛二が、高校の体育教師・畑野紗枝役を上白石萌歌が演じている。

インタビューに答えてくれたのは、美術プロデューサーの二見真史氏と、美術デザイナーの野中謙一郎氏だ。二見氏は「昨年の7月末から企画書を見ながら打ち合わせをスタートし、いろいろな規模感を決めたあとで、年末から野中さんに入ってもらい、具体化していきました。正直、最初は、普通の連ドラでここまでの規模のものをやれるかな? と思いました」と当時を振り返る。

「あまりにも荒唐無稽な話なので、バスや図書館、カフェなどに設定を変更した方がいいんじゃないかという話も出ました。打ち合わせを重ね、最初の企画意図を大事にして、電車のままで行くことになりました」

その後、電車は「つくばエクスプレス」に決定し、車両を借りつつも、緑山スタジオには広大なオープンセットも建てられたと、二見氏が経緯を話す。

「駅での撮影もあるし、電車を借りる必要があるということでいろいろと交渉し、つくばエクスプレスさんが企画に乗ってくれたのが11月頃です。それで使ってない電車のパーツの中身をまるっと外して、緑山スタジオに移築する方法をとることにしました」

野中氏は「トータルにしてオープンセットの建て込みは約1カ月かけて作りましたが、よく短い期間であそこまで作り込めたなとは思っています」と自負する。

「外装はうちで作りましたが、パンタグラフの部分も含め、なるべく本物に似せたものにしました。他にも樹海の岩や木などには苔などもちゃんと施しました。本作はSF要素が多いので、画としてのリアリティがないと、視聴者が見て冷めてしまうと思ったから、とにかくリアルに近いものにしたいと思いました」

二見氏も「時間があればあっただけ使っちゃう人たちなので(苦笑)」と野中氏の職人気質について前置きしたあと「電車のセットは3Dモデルを起こし、3Dプリンターででかいものを出して、けっこう細かいところまで作り込んでいます。与えられた期間は1カ月でしたが、最低限の期間で一番見栄えのいいものを狙えたかと」とセットのクオリティを満足気に話す。

完成したつくばエクスプレスの車両について二見氏は「かなりフォトリアルなものを設計したので、そこは間違いないなと思いました」と太鼓判を押す。

「でも、僕が出来上がった車両を見て不安だったのは、ちょっと土に埋もれすぎているというか、車両に傷がついているから、それを見てつくばエクスプレスさんが心象を悪くするんじゃないかと思ったことです」

車両の傷とは、電車ごと未来に飛ばされるという設定だからこそ、敢えて与えたダメージのことだ。

二見氏は「実は最初に完成した時は、今よりももっとダメージが施されていたので、僕はちょっとやりすぎだなと思ったんです。でも、つくばエクスプレスさんに来てもらったら、中に入って『これってもう本物じゃないですか!』と、すごく喜んでもらえたのでよかったです」と胸をなでおろしたとか。

オープンセットの広さについて、野中氏が「200坪ぐらいです」と言うと、二見氏が「僕たちが手を加えたところが200坪ですが、実はその先に緑山の元々の地形を使った山みたいなところも使っています」と補足。野中氏も「それを入れると600~800坪くらいです」とうなずく。

二見氏は「僕が携わった作品で緑山にオープンセットを建てたのはTBSドラマ『天皇の料理番』(15)以来です。野中さんもTBSドラマ『この世界の片隅に』(18)以来かと。まさに数年に1回しかできない規模です。地面にもともとあるように見える木も、近い距離で撮影しているものは、ほとんど美術スタッフが植えているので、カメラマンでさえ『これも植えてるの!?』と驚くほどです」とのこと。