僕は前にこのマイナビニュースで、古いフィルムカメラを使ってエモい写真を撮ることの悦びについて書いた。

その後も相変わらずフィルムカメラは楽しんでいるのだが、ここのところもうひとつ、カメラ系で新しい趣味が増えている。 “オールドコンデジ”である。

■フィルムカメラブームに続き巻き起こっている“オールドコンデジ”ブーム

今のスマホカメラにも到底敵わない、ロースペックで低解像度の古いコンパクトデジタルカメラが、いつの間にかZ世代を中心とする若者たちの間でブームになっていた。 そんなバカなと思う方は、今すぐInstagramやTikTokで、#オールドコンデジや#オールドデジカメを検索してほしい。
ね。ホントだったでしょ。

若者を中心とするフィルムカメラブームは今も継続中だが、それを追うように、オールドコンデジを使う趣味がじわじわと浸透中なのである。

では、オールドコンデジって何? ということだが、誰もはっきり定義はしていないので、人によって解釈はいろいろだ。
私見ながらざっくりいうと、主に'00年代に発売されたアマチュア用普及機が、もっともオールドコンデジらしいのではないかと思う。

というのも、1990年代のデジカメはおもちゃに毛が生えたようなものだったし、2010年代以降に発売されたデジカメは機能性が向上しすぎ、言われなければ古いカメラで撮ったとわからないからだ。
その点、2000年代に発売されたデジカメは、十分鑑賞に耐えうる画質でありながら、明らかに今のデジカメやスマホカメラで撮ったのとは違う“何か”が感じられる。 それは発展途上のロースペックゆえに醸し出されるものに違いないが、それこそがオールドコンデジの魅力そのものではないかと思うのだ。

■何十台ものデジカメを使ってきた筆者が、生まれて2台目に買ったデジカメ

'00年代は、コンパクトデジカメの全盛期だった。
ディケイド(decade 十年起)の終盤には、iPhoneが発売(2007年)されたことによるスマホ革命が進行し、徐々にコンパクトデジカメはお役御免になっていくのだが、それより前は、かなり画質が悪くてメモや写メ程度にしか使えなかった携帯電話のカメラ機能では足らず、多くの人がコンパクトデジカメを求め、持ち歩いていた。

その頃はまだユーザーもフィルムカメラ時代の記憶が強かったので、フィルムカメラ並の画質を実現しながら、あと何枚撮れるかをほとんど気にせず撮りまくることのできるコンパクトデジカメは、夢の道具のように感じられた。
各カメラメーカーも、ますます需要を喚起させられる画期的で魅力的な商品の開発に、しのぎを削っていた時代である。

昔からカメラと写真が好きで、しかも新しいもの好きな僕は、庶民の手の届く価格のデジカメが発売されるやいなや、すぐに手に入れた。
最初に買ったデジカメは、1996年発売の富士フイルム『DS-7』だ。
初めて手にした未来の道具のようなデジカメに感動し撮りまくったが、解像度が低すぎて、まだフィルムカメラで撮った写真の方がずっと綺麗だった。
何しろ『DS-7』の画素数は、わずか30万だったのだから仕方がない。

しかしその後、2000年に同じ富士フイルムが発売した『FinePix 4700z』を購入して使ったところ、まさに目から鱗が落ちた。
わずか数年の間に、デジカメは驚くほど進化していたのだ。

  • 2000年に購入した富士フイルム『FinePix 4700z』

『FinePix 4700z』に搭載されているのは、1/1.7型、240万画素のイメージセンサ。
富士フイルムが独自開発した、画質を補完する機能を持つ八角形構造のイメージセンサ「スーパーCCDハニカム」を使っているため、実質430万画素数相当の解像度を実現!
と謳われていた。

当時、一般ユーザー向けのデジカメで300万画素のものはすでに他のメーカーから発売されていたから、この富士フイルムの「240万画素だけど、実質430万画素の画質だから」というドーピング的言い分には、各方面からツッコミが入ったりした。
だが一般ユーザー側からしてみればそんなことはどうでも良く、僕は『FinePix 4700z』で撮れる写真の質の高さに、ただただ驚いていた。

当時でもまだデジカメは商用写真の撮影に導入できる段階ではなかったが、日常のスナップや記念写真に使う程度のアマチュアユーザーに、『FinePix 4700z』で撮った写真はフィルム写真となんら遜色ないように見えたのである。

■当時から一際ユニークな存在だった富士フイルム『FinePix 4700z』

ご存知のようにその後、デジカメの世界は脅威の進化を遂げていく。
各メーカーから、新テクノロジーを駆使した機種が続々と発表されるので、僕もまるで熱に浮かされたように、新たなデジカメをどんどん買った。
その頃は毎年どころか、年に2回は新しい機種を買っていたように記憶している。
新しいものを買ったら、それまで使っていたカメラの多くは、下取りに出すか人に譲るかしていたが、それでも今、僕の手元には8台のオールドコンデジが残っている。

  • 筆者が持っている'00年代のコンデジたち

そして、昨今のブームの噂を聞きつけ、「では僕もノってみようかな」と古いコンデジを引っ張り出して撮り比べた結果、一番面白かったのがこの『FinePix 4700z』だったのだ。

  • スタイリッシュなデザインの『FinePix 4700z』

『FinePix 4700z』は、まず見た目がとてもスタイリッシュだ。
今ではほとんど見かけなくなった縦型の筐体がユニークで、電源をオンにすると繰り出し式のレンズが出てくる。
背面にある小さな液晶や、堂々と日本語で書かれた文字も、今見ると新鮮。
手にずっしりと重たく、「メカを持っている」という気分にさせてくれるのもいいところだろう。
マニュアルモードにすれば多少の設定変更はできるが、アマチュア向けカメラなので、基本はオートモードでカメラにすべてをお任せできるように設計されている。

  • 小さな液晶と操作パネルがある『FinePix 4700z』の背面

特筆すべきはやはりその画質だ。
1/1.7型、240万画素という、今の基準で考えるとロースペックもいいところなので、撮れた写真は解像度が低くモッサリしているが、これがなんともノスタルジックな気分にさせてくれる。
僕がこのカメラを使っていたのは2000〜2001年なのだが、2023年の今このカメラで撮った写真を見ると、少しだけあの頃に戻ったような気分になれる。
まるでタイムマシンに乗ったようなその感覚こそが、僕にとっては『FinePix 4700z』を使う一番の楽しみなのだ。

鳴り物入りで登場し、各方面からツッコミを受けたいいわく付きのハニカム構造撮像素子だが、やはりこの構造がもたらす特異な色合いと質感は優れたものだと思う。
一枚一枚の写真に、深みと独特の雰囲気を与えてくれているようだ。

ちなみにこのカメラ、発売から18年後の2018年、国立科学博物館の「未来技術遺産」に選ばれている。
独自開発の「スーパーCCDハニカム」が、その後のデジカメ界全体の技術向上に貢献したことが評価されたのだ。
そういう意味でも、やはりなかなかの歴史的名機なのである。

難点を言えば、オールドコンデジ全般に言えることだが、電池の消耗が激しいことだ。 単三型の充電式ニッケル水素電池を使い、撮影状況にもよるが40〜50枚程度で充電は空になってしまうので、撮影する際は予備の電池を持っていかなければならない。 また記録メディアは、今はなき「SmartMedia」。
カメラ本体に記録機能はないので、持っている64MBの1枚が生命線で、大事に使わなければならない。
まあ、そんな面倒くささも含めて、オールドコンデジの楽しさではあるのだが。

  • 使用電池は単三型だが、アルカリ電池などは使えない

  • 今はなき「SmartMedia」

■再発見を促してくれたオールドコンデジブームに感謝

フィルムカメラとオールドコンデジは、相通ずるものがある。
両者ともに、どんな状況でも簡単に綺麗な写真が撮れる現在のスマホカメラとは違い、全自動といえども、一工夫しなければ良い写真にはならない。
まるでプロの写真家のように、自分の感性を直接写真に反映させる楽しさは、スマホカメラでは味わえない体験なのだ。

憶測だがこのオールドコンデジブームは、古いフィルムカメラを使いはじめたものの、高いフォルム代と現像代に音を上げた人たちが見つけた、新たな世界なのではないかと思う。
何しろ今なら、'00年代の普及型コンデジなら、中古屋の店頭やネットオークションで、数千円で手に入れることも可能。
うまく探せば、36枚撮りで2500円以上するフィルム一本を買うより、安い値段で始めることもできるのだ。

オールドコンデジブームがいつまで続くのかはわからない。
でも、このブームがあったからこそ僕は、『FinePix 4700z』のような古き良きデジカメの魅力を再発見することができたので、感謝したいと思っている。
そしてオールドコンデジの魅力が、これからもっと多くの人に伝わっていけばいいなと思っていたりもする。

富士フイルム『FinePix 4700z』で最近撮った写真の数々はこちら。

文・写真/佐藤誠二朗