食品ロス削減から派生、農福連携プロジェクト
ヨコハマドライは、規格外などの理由で売り先がない野菜や果物を、干し野菜研究家の澤井香予(さわい・かよ)さんが商品開発し、“アップサイクル”した乾燥野菜。アップサイクルとは、廃棄予定のものに新たな価値を付加し、新しい製品へと生まれ変わらせる手法のことです。
ヨコハマドライは商品名であると同時にプロジェクトの名称でもあり、横浜市内の生産農家4農園、福祉サービス事業者4事業所が参画しています。
2022年12月から販売を開始し、これまでに6種類の商品をリリースしました。
「ヨコハマドライは、偶然の縁から生まれました」と話すのは、プロジェクトを主宰する合同会社グロバース代表の長谷川哲雄さん。元IT系企業の営業職だった長谷川さんは、興味のあった食分野のビジネスで社会課題の解決に寄与したいと考え、2021年10月に独立起業。SDGsの達成目標でもある食品ロスの削減に着目し、事業のテーマに据えました。
最初に立ち上げたビジネスは、飲食店間で余剰食材を流通させるフードシェアリングでした。社会課題となっている食品ロスを削減できれば地域貢献にもつながるだろうと考え、同時にコロナ禍で苦境に立つ飲食店のブランディングを支援しようと、横浜市内の飲食店のネットワークづくりを進めてきました。
規格外野菜の流通へ、農家のアイデアを事業化
フードシェアリング事業に取り組むなかで、長谷川さんが気に留めていたのが、規格外野菜の存在。知り合いの生産者から「捨ててしまう」と聞いて、ビジネスで解決できないかと思案していました。
その後、知り合いの紹介で面識があった干し野菜研究家の澤井さんに相談を持ちかけ、乾燥野菜の小売販売へ事業のかじを切りました。
「生産者が加工品を作りたくても、内製するのは労力的に大変です。外注しようにも小ロットを受け入れてくれる委託先もそう多くはありません。一方で、福祉事業所では農産加工の作業受託のニーズがあったため、農福連携によって両者を結ぶ手伝いができると思いました」(長谷川さん)
事業モデルと差別化のポイント
商品は全て各生産者からのオーダーメイド。事業モデルとしては、まずグロバースが生産者から未利用野菜の加工を受託し、干し野菜研究科の澤井さんが商品を開発。澤井さんと付き合いのある生活介護事業所つぼみの家などで野菜を乾燥加工、事業所をリレーして就労継続支援B型事業所クロスハートワーク戸塚などが計量、袋詰め、シール貼りの流通加工を行う流れ。各事業所の設備や得意分野に合わせた作業を委託しています。
材料の野菜は主に生産者が福祉事業所へ運び入れ、商品は長谷川さんが小売店に直接納入を行います。生産者がグロバースに支払う委託料は、プロジェクトによって異なりますが、商品の製造費、企画・マーケティング・販売管理などの諸経費込みで利益率は20%ほど。委託料の中から福祉事業所ごとに適正な工賃が支払われます。
単なる干し野菜では差別化しにくく、量産品と比べると価格が割高になるため、価値をわかってくれる消費者が手に取りやすいミールキット(料理に必要な食材とレシピのセット)にアップサイクル。パスタとフィットチーネの小売価格は、2人分1080円、1人分680円を軸に設定しています。
横浜市内での「地産地消」も付加価値として、長谷川さんが飛び込み営業で販路開拓をしています。横浜駅直結の商業施設・ニュウマン横浜6階で神奈川県のプロダクトを扱うセレクトショップ、2416MARKETからのフィードバックで、もともと2人分の規格だった商品を主顧客層の若い個人に合わせ、1人分の商品として作りました。こうした小売側の要望やオーダーメイドに対応できるのも手作り少量生産の強みです。
しかし、「消費者が食品ロス削減に付加価値を感じてくれるのか、正直に言って不安でした」と長谷川さんは振り返ります。そこでテストマーケティングとして、横浜で農家を営む浜農家ヒラモトの規格外の浜なし(横浜市内で生産されるブランドナシ)をドライフルーツにしてマルシェで対面販売。商品のストーリーに共感して購入する人も多く、社会課題の解決を価値と感じる消費者の存在を実感しました。2022年10月からの2カ月間で製造した200個の約半数が売れたことに好感触を得て、販売にこぎつけました。
より多くの規格外野菜を救う
食品ロス削減の取り組みは、複数の地元メディアで紹介され、市内の生産者から商品化の問い合わせも寄せられました。「規格外野菜の加工をしたいと思っていたけどきっかけがなかった」との連絡を受けてホウレンソウ生産者とのプロジェクトが実現し、7種類目となる商品が新発売されます。
「ホウレンソウは成長が進むと出荷用ビニール袋からはみ出し、それだけで規格外になると聞いて、改めて生産者さんの苦労を知り、本当にもったいない話だと思いました」と長谷川さん。収穫翌日に乾燥させたホウレンソウは色鮮やかで、他の野菜と同様に乾燥させることでうまみが凝縮。これをパスタと絡めたミールキットです。
事業立ち上げから4カ月、プロジェクトを回すなかで規格外野菜が出るタイミングや量、どれだけ売れるかがわかり、販売計画が立つようになってきました。現在は4店舗での取り扱いを10店舗に増やそうと、営業活動に奔走しています。
「横浜市では多品種の野菜や果物が作られ、若い人が農業を始めていますが、アイデアを持っていても時間がなくてできないことをお手伝いして、農産加工を一緒にやっていきたい」と抱負を語る長谷川さん。プロジェクトを拡張させ、より多くの規格外野菜を付加価値化していく構えです。
社会課題の解決への貢献が、農業のブランド価値につながる時代。SDGsの達成目標の2030年が迫るなかでプロジェクトが活気を帯びています。