こんにちは。弁護士の林 孝匡です。宇宙イチわかりやすい法律解説を目指しています。今回は事前に募集した「これってパワハラじゃないの?」という、マイナビニュース読者の声をもとに解説していきます。

今回、読者から届いた「パワハラでは?」というシチュエーションは次の7つです。

・深夜にメールが来る
・上司の指示が不明瞭すぎる
・仕事を押し付けて上司は定時に帰る
・「明日休みの人、手をあげて!」と言われる
・自社商品の買い取りを強制される
・有給をとろうとすると「なんで? チッ」と言われる
・「オマエは使えない! 帰れ!」とみんなの前で言われる

結論……すべて"パワハラ"です(条件つきのものもありますが)! 早速、わかりやすく解説していきます。

■パワハラって、何?

まずは簡単に基礎知識を。典型的なパワハラは以下の6つです(カッコの中は正式名称)。

1. 手を出す(身体的攻撃)
2. 言葉ぜめ(精神的攻撃)
3. 仲間はずれ(人間関係の切り離し)
4. 無理やん…(過大な要求)
5. 仕事を取り上げる(過少な要求)
6. プライベートに土足(個の侵害)

  • 【画像】どんなことがいけない? 典型的なパワハラ行為6つ

    【画像】どんなことがいけない? 典型的なパワハラ行為6つ

この6つは厚生労働省が「これパワハラね」と言っているものです。これを前提に質問を見ていきましょう。さらに詳しく知りたい方は厚生労働省作成のあかるい職場応援団をご覧ください。

それでは、読者からの声に1つずつ回答していきます。

■なんでこんな時間に!? 深夜のメール

Q. 真夜中に業務メールが大量に送られてきて、返信を求められます。これってパワハラじゃ?(53歳・男性/技能工・運輸・設備関連)

A. パワハラですね。プライベートに土足で侵入してるので、第6類型の【個の侵害】にあたります。勤務時間が終わればあなたは自由に羽ばたけます。会社はあなたに一切連絡をとったらダメなんです。無視でいいですよ。

▼裁判例
1つ裁判例をご紹介します。深夜にメール&電話をしたケースです。裁判所は「違法です」と認定。こんな事件です。

上司が部下に午後11時頃にメールをし、その後、電話をして留守電を残す。ブチギレた口調で留守電に残した内容は「私、怒りました。明日、本部長のところへ、私、辞表を出しますんで、本当にこういうのはあり得ないですよ」というもの(いやいや、あり得ないのは夜11時の電話だって!)。

さらに休みの日の深夜に電話して留守電に残す。留守電に残した内容はなんと「ぶっ殺すぞ!」(ザ・ウィンザーホテルズインターナショナル事件:東京高裁 H25.2.27)興味ある方は事件名で検索してみてくださいね。

「ぶっ殺すぞ」と言った発言がなかっとしても緊急事態じゃないのに深夜、部下に連絡をとることは違法になるでしょう。

●ほかのプライベート土足

ほかの【個の侵害】は以下のとおりです。
・労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること
・労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること

また、厚生労働省指針に記載がありますので気になる方はこちらも見てみてください。

■上司の指示が意味不明

Q. 上司から「いい感じにやっといて」「よきにはからっておいて」という指示だけをもらいました。いい感じとはどういうものなのかを見極めたくて質問すると「俺の時間を奪うな」と拒否され、途中確認も無視され(提出しても見てくれず)、出来上がってから「自分の想像していたものと違う。クオリティが低いのは、君の能力がこの会社で働くレベルにないからだ」と詰められてしまいました。これはパワハラなのでは?(33歳・女性/その他技術職 ※医薬・食品・化学・素材他)

A. 「よきにはからえ」とは……殿様なのでしょうか。「バカ殿=パワハラ」ですね。第4類型の【過大な要求】にあたります。指示があいまいだし、途中経過も確認することなく最終的な完成物に「ぜんぜん違う!」と理不尽にブチギレているからです。優秀な上司は、部下が飲み込みやすいように指示をかみ砕きます。

■「これ、やっといてね!」仕事の押し付け

Q. 上司があからさまに担当者に仕事を押し付け、自分は定時で帰宅。サービス残業を押し付けられていたのですが、これはパワハラではないでしょうか……?(52歳・男性/事務・企画・経営関連)

A. 「あからさま」具合にもよるんですが、第4類型の【過大な要求】にあたる可能性アリですね。担当者だけに仕事が集中しているのに他の社員や上司は定時で「サイナラ」のような状況だと過大な要求にあたる可能性が高くなります。

似たような事例で厚生労働省があげているものは以下のとおりです。

・肉体的苦痛を伴う過酷な環境下で、長期間にわたり、勤務に直接関係のない作業をさせること
・新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること
・業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせること

▼ 押し付け裁判例
1つ裁判例を。女性社員があり得ない量の仕事を押し付けられたケースです。

・慣れていない業務を担当させる
・すべて一人で担当
・仕事中は座れない
・休憩がとれない
・トイレや昼食もとれない
・早朝から深夜まで働きづめ
・土日出勤も多かった
・イジメ(ホワイトボードに「永久欠勤」と書かれる……)

裁判所は「パワハラだね。慰謝料150万円!」と判断(国際信販事件/東京地裁H14.7.9)

また、今回はサービス残業をさせられていますので、残業代の請求もできますね。残業代を請求するには『証拠が命』なので証拠を残しておきましょう。もし残業代の知識を知りたい方は、こちらの記事を参考にしてみてください。

■踏み絵かよ! 休日を無理やり聞く

Q. 翌日が休みにもかかわらず、「明日出社できない人は手をあげてー」という聞かれ方をしました(33歳・男性/IT関連技術職)

A. うざいですね。ただし、これは聞き方にもよります。次に例をあげていきます。

【ケース1】
例えば全体朝礼で「こんな繁忙期なのに休みとっちゃう人いるんだねぇ。誰だろ。『こんな繁忙期だけど明日休みとってるよ~』って人、繁忙期だけど手あげてもらえるかな?」という聞き方なら、第2類型の【精神的攻撃】にあたる可能性アリですね。

【ケース2】
一方で本当にただ純粋に明日休みの人を確認するためだけならパワハラにあたらないと思います。まぁ手をあげさせる必要がないですよね。「自分でシフトでも確認しろや」って感じです。

そのため今回の場合は「ケース1」にあたる可能性が高く、パワハラの可能性が高いと言えるでしょう。

■自爆営業!? 自社のものを無理やり買わされる

Q. 以前の職場で会社の商品を無理やり買わされていました(自社のものをほぼ強制に近い形で買わされる)。これはパワハラなんじゃ……?(40歳・男性/IT関連技術職 ※現在の職業)

A. パワハラですね。第4類型の【過大な要求】にあたります。

■有給をとりにくい

Q. 有給消化ができない会社で……。休暇希望を出すと、「なんで?」とかなり渋られます。「有給取得の権利がある」と思っているのですが、このような場合はどうなのでしょうか?(女性・30歳/IT関連技術職)

A. なんでって……「休みたいからだよ!」って感じですよね。というわけでパワハラです。第6類型の【個の侵害】です。有給をとるのに"理由はいらない"からです。恋に落ちるときと、有給をとるときに理由はいらないのです(キマりましたね)。

■侮辱的な言葉を人前で浴びせられる

Q. 上司から「オマエは使えない」「帰れ」とみんなの前で言われたのですが……(39歳・男性/販売・サービス関連)

A. パワハラです。第2類型の【精神的攻撃】です。6つの中で精神的攻撃が1番多いです。ここはもう少し詳しく解説していきましょう。

▼ パワハラ発言
以下、裁判でパワハラ認定された発言です。
・明日から来なくていい
・やる気がないなら会社を辞めろ
・俺の言うことを聞けないなら懲戒に値する
・まだ辞めないのか
・死ね
・うそつき
・給料ドロボー
・役立たず
・すべてひらがなで指示をして「できるかな?」と尋ねる
・腐ったミカン
・オマエの嫁、よくオマエみたいなやつと結婚したよな
・君は気持ちワルい。男が好きなのか?
・営業成績が悪いって、みんな笑ってるぞ
・ぶん殴りたい
・徹底的に追い詰めるぞ

これは氷山の一角。また、厚生労働省があげている精神的攻撃は以下のとおりです。

・人格を否定するような言葉(相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を含む)
・必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返す
・ほかの社員の前で、大声での威圧的な叱責を繰り返す
・あなたの能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を複数の社員宛てに送信

■その他のパターン

質問への回答は以上ですが、あと3つのパワハラもザッと解説しておきますね。

書類で殴られる

まずは第1類型の【身体的攻撃】。以下はパワハラです。
・殴る、蹴る
・書類など物を投げつける(書類でビシっ! レベルでもアウトです。口で言えばいいからです)

▼裁判例
裁判では【真冬に扇風機を当て続ける】という壮絶なパワハラもありました(日本ファンド事件:東京地裁H22.7.27)

無視

無視もパワハラです。第3類型の【人間関係の切り離し】にあたります。厚生労働省が例にあげているものは以下のとおりです。
・意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりすること
・一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること

仕事を与えない

辞めさせたいときにとる戦法です。
・仕事を与えない
・必要もないのに「倉庫の掃除でもしとけ!」と追いやられる。
これも第5類型の【過少な要求】です。

厚生労働省が例にあげているものは以下のとおりです。
・管理職である労働者を退職させるため、誰でもできる業務を行わせること
・気にいらない労働者に対してイヤがらせのために仕事を与えないこと

▼ 裁判例
仕事を与えないパワハラで、うつ病になった事件。高裁まで行って労災を勝ちとりました(中国新聞システム開発事件:広島高裁 H27.10.22)

■パワハラされてしまったら?

パワハラに悩んでいる、周りの人が困っている場合は以下のような手順を踏みましょう。

①社内の相談窓口に駆け込む
②ラチがあかなければ労働局に駆け込む(相談無料・解決依頼無料。損害賠償請求もできます)
③会社が労働局の呼び出しを無視すれば労働組合や弁護士に駆け込む

という手順をオススメします。

社内に相談窓口がない

Q. 社内に相談窓口がナイのですが……

A. 漆黒企業ですね。ゼッタイに窓口を設けないといけないのです。厚生労働省指針が「以下のことをしなさい!」と会社に命令しているんです。

・「パワハラを許しません!」と周知せよ
・「パワハラした奴を厳正に対処します」と周知せよ
・「相談窓口はココですよ」と周知せよ
・「相談者のプライバシーを守ります!」と周知せよ
・「相談しても何の不利益もありませんよ」と周知せよ
・相談窓口をキチンと機能させよ
・相談があればソッコーで事実関係を確認せよ
・パワハラが確認できたら、被害者をレスキューせよ
・パワハラが確認できたら、加害者にしかるべき措置をとれ
・再発防止策をとりたまえ

社内に窓口がなければ労働局 or 労働組合 or 弁護士を頼りましょう。そのときパワハラの証拠があれば有利に進めることができます。録音などの証拠を確保しておきましょう!

今回は以上です。またお会いしましょう!