制度の開始まで残り約半年に迫った「インボイス制度」。請求書のフォーマットやシステム、保存方式などが変わり、個人事業主やフリーランスだけでなく全事業者に大きな影響が出るとされている。請求書を受け取る買い手側の事業者が特に注意すべきポイントを解説するオンラインセミナーが開催された。
GMOペパボ、GMOクリエイターズネットワーク、Wiz 、freee、セブンセンス税理士法人の5社主催による「インボイスを受け取る側の準備を徹底解析! インボイス制度セミナー」では、セブンセンス税理士法人 大野修平氏、freee 渡邊元登氏が登壇。タイトル通り、インボイスを受け取る側に着目したセミナーとなっており、その中から、インボイス登録をしない取引先への対応を中心に紹介していこう。
■インボイス制度と消費税の関係
たとえば、10万円のイヤリングを購入して、1万円の消費税を支払った場合の消費税の負担と納付の流れを、イヤリングを購入した「消費者」、イヤリングを販売した「百貨店」、イヤリングを作成した「クリエイター」、イヤリングの素材を販売した「手芸店」に分けて見てみると、現行では、「百貨店」「クリエイター」「手芸店」のそれぞれが受け取った消費税と仕入れ時に支払った消費税の差額が納付されることになる。
「百貨店」が「クリエイター」から7万円で仕入れていた場合、消費税は7,000円となるので、「消費者」から受け取った1万円と「クリエイター」に支払った7,000円の差額となる3,000円を「百貨店」は納付。同様に、「クリエイター」が「手芸店」から素材を5万円で購入していた場合は、「手芸店」に消費税として5,000円を支払い、差額の2,000円を納付。そして、「手芸店」の仕入れ以前を割愛すると、「手芸店」は「クリエイター」から受け取った5,000円を納付することになる。
消費税は、負担する人と納付する人が異なる特殊な税金だが、このケースでは、「百貨店」が3,000円、「クリエイター」が2,000円、「手芸店」が5,000円を納付することになるので、それぞれが納付する消費税の合計は、消費者が負担するのと同じ1万円になることがわかる。
しかし、これは全員が、消費税を納付する義務のある“課税事業者”であることが前提。たとえば、「クリエイター」が、2期前の課税売上高が1,000万円未満などの条件により消費税の納付義務がない“免税事業者”であった場合、納税義務がないため、「百貨店」から受け取った消費税はそのまま売上として「クリエイター」の収入となる。
課税事業者は、受け取った消費税と支払った消費税の差額を納付することになるが、インボイス制度が始まると、請求書や納品書などの“インボイス”がないと支払った税額を差し引くことができなくなる。この“インボイス”が、課税事業者しか発行できないのが大きなポイントで、先程の例で言えば、「クリエイター」が免税事業者の場合、インボイスを発行できないため、「百貨店」は「クリエイター」に支払った消費税を差し引くことができず、「消費者」から受け取った1万円をすべて納付しなければならなくなり、消費税の負担がかなり大きくなることがわかる。このことから、「百貨店」の立場で考えると、消費税の負担増を回避するために、インボイスを発行できない事業者への対応を検討する必要が生じる。
■インボイス登録をしない取引先への対応
納税額を増やさないためにインボイスの発行を望む「百貨店」に対して、実際に発行するかどうかの意思決定は「クリエイター」側に委ねられるので、「クリエイター」との話し合いが非常に重要となる。しかし、「百貨店」側が「クリエイター」の立場や状況を理解しないと交渉が上手くいかないので、まずは「クリエイター」側の悩みを考慮する必要があることを押さえておきたい。
先述の通り、インボイスが発行できるのは課税事業者のみ。しかし、課税事業者になると、これまでは益税として手元に残った消費税を納付する必要が生じるため、税負担が増えるだけでなく、申告の手間も発生する。さらに、インボイス登録をして課税事業者になると、免税事業者に戻ることに制限がかかるのも大きなハードルになってしまう。
「クリエイター」側がインボイス登録をしない場合の「百貨店」の対応としては、「今後、免税事業者と取引しない」「免税事業者との取引について値下げを要求する」「重要な取引先については、消費税負担を受け入れる」といった3つの選択肢が考えられるが、それぞれに一長一短があり、経営判断や社内での意識統一が必要となってくる。
「クリエイター」とスムーズに交渉するために、支払った税額ではなく、仮定の割合(みなし仕入率)で税額を控除できる「簡易課税制度」や、インボイス発行のためだけに課税事業者になる場合は、2026年の申告まで、納税額を売上税額の2割にできる「2割特例」などを提案するのも一つの手となりそう。逆に、「百貨店」側も、免税事業者から仕入れる場合、インボイス制度実施後6年間は、一定割合の控除が可能となっているほか、自身が「簡易課税制度」を選択していれば、「クリエイター」がインボイスを発行できるかどうかは関係なくなるので、相手側の状況だけでなく、自らの状況についてもあらためて整理しておきたい。
■取引先との交渉における注意点
外注先がインボイス登録をしているか、あるいはする意思があるかを確認しておくことが重要で、登録しない取引先に対して、取引の見直しや値下げ交渉を行う場合は、独禁法や下請法などに違反していないかを注意する必要がある。大前提として、どのような条件で取引するかは自由だが、現実問題として、「百貨店」と「クリエイター」では交渉力に差があるため、取引条件が一方的に「百貨店」有利になりやすい。そして、有利な地位を利用して不当な不利益を与えると独禁法などの問題になる可能性がある。
免税事業者との取引によって消費税が差し引けなくなることを理由に値下げ交渉をしたり、インボイス登録事業者になることを要請すること自体は問題ないが、一方的な通告にならないように、必ず十分な話し合いを持つこと、そしてできる限り書面で残すことが重要となる。