シトロエンには変わったクルマ、面白いクルマが何台もあるが、今回は1971年製の「SM」に出会うことができた。ステアリングに連動して左右に動く角型ヘッドライト、ボンネットの中にある謎の球体など、現代のクルマでは見られない珍しい機構が盛りだくさんの1台だ。

  • シトロエン「SM」

    シトロエンの名車「SM」に遭遇!

開発目標が高すぎた?

「AUTOMOBILE COUNCIL 2023」(オートモビルカウンシル2023)というイベントに京都のシトロエン専門店「アウトニーズ」が参考出品していたのが1971年製の「SM」だ。

全長5m近いゴールドカラーの巨体。フロントにはカバーがついたCIBIE製イエローバルブの可動式角形6眼ヘッドライトが輝く。流線型の長いノーズ、キャビンから後方へとなだらかに絞られていくボディライン、地面に張り付くように鎮座しているその姿には圧倒的な存在感がある。

  • シトロエン「SM」
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  • 見た目の存在感は抜群

「前輪駆動で200km/hを超える」という、当時は不可能とされた開発目標を達成するため、シトロエンがSMに搭載したパワートレインは、提携関係にあったマセラティ製の高性能な2.7L90度V型6気筒(後期は3.0Lモデルあり)DOHCエンジンだった。最高出力は170PSを発生。5速MT(展示車も搭載)によって前輪を駆動し、1,460kgの車体を超高速域まで引っ張っていったという。設計時には高性能を狙ってロータリーエンジンや星型エンジンを搭載することまで計画されていたというから、シトロエンはやる気満々だったのである。

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    高すぎる開発目標を達成するためマセラティ製エンジンを採用。見慣れない緑の球体が付いているが、これはいったい?

その高性能エンジンを拝むためボンネットを開くと謎の緑の球体が! これが、ハイドロニューマチックシステムの要となる「スフィア」だ。内部には窒素ガスとLHMという特殊なオイルが密閉されていて、金属スプリングとダンパーの代わりとして4輪の足回りを支えることになる。ブレーキとパワステにもこれを使用していて、全てが1本の油圧ラインで連携しているため、壊れると大変というイメージがつきまとい、同システムを搭載するシトロエンに乗ることに二の足を踏むという方も多いと聞く。しかし、アウトニーズのような経験を積んだ専門店が販売している個体については心配無用だろう。

ちなみに、この個体はオリジナルの欧州仕様なので、ステアリングに連動して角形ヘッドライトが左右に動くシステムとなっている。この動作もハイドロが担っているという。日本に入ってきていたSMは、米国仕様の固定式丸型4灯モデルが多かった。

コンパクトな2+2の室内にあるドライバーズシートはかなり低い位置に取り付けられている。眼前には「DS」のような8時の位置ではなく、真下の6時がセンターになる太い1本スポークスタイルのステアリングが備わっている。

  • シトロエン「SM」
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  • シートは低い位置に取り付けられている

その奥の楕円のスピードメーターは、ぐるりと一周した先に0の代わりの260km/hの数字が刻まれている。横方向にしかゲートが切られていない5速MTのシフトノブ(縦方向はプレート自体がスライドする)、パーキングブレーキレバーの横にあるAM/FMラジオ、踏み代がほとんどない丸いボタンのようなブレーキペダル、極端にクイックな小径ステアリング、シート左下の車高調整レバーなど、オーナーにはSM特有の“作法“に慣れることを要求してくるけれども、今時こんな面白いクルマはなかなか出てきそうにないのも確かだ。

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