伊藤園お~いお茶杯第64期王位戦(主催:新聞三社連合、日本将棋連盟)は、挑戦者決定リーグ紅組の羽生善治九段―服部慎一郎六段戦が4月27日(木)に関西将棋会館で行われました。対局の結果、115手で勝利した羽生九段がリーグ成績を3勝0敗としました。敗れた服部六段は1勝3敗となっています。
角換わり腰掛け銀の新定跡
ここまで2局を終えて2連勝の羽生九段と、3局を終えて1勝2敗の服部六段の対局。羽生九段は得意の角換わり腰掛け銀の序盤戦に誘導します。服部六段が後手番特有の待機策に出たことで局面はこの戦型特有の手待ち合戦になることが予想されましたが、先手の羽生九段は20分の考慮のすえ、早々に4筋の歩を突いて局面を打開しました。
類型的な局面ながら、お互いの玉の微妙な位置関係によって前例はわずか1局に絞られています。先手有利とされる通常の先後同型定跡と比べると、先手玉が戦場に一路近いことが服部六段の主張。先手の仕掛けが一段落したところで、後手の服部六段は9筋に遠見の角を放って先手の玉と飛をまとめて狙う構想を打ち出しました。
細い攻めつなぎ羽生九段が3連勝
形勢は互角で、盤面全体を使ったねじり合いが続きます。後手からの押さえ込みを逃れようとする羽生九段が3筋の拠点に角を打ち込んで王手を掛けた局面が、本局の中盤における分岐点となりました。感想戦で、後手の服部六段としては玉をかわしつつ先手の拠点の歩を金で払う手の価値が高いとされました。この展開なら先手は飛車の活用が見込めません。
実戦の服部六段はこの角を金で取って駒得の実利を主張しましたが、代償として作られた羽生九段のと金に悩まされることになりました。反対に攻勢を強める羽生九段は手順に飛車もさばいて後手玉への寄せを開始。このと金と持ち駒の桂を使って模範的な挟撃体制を築いて勝勢を確立しました。
終局時刻は18時57分、最後は「玉の腹から銀を打て」の格言通りの銀打ちで詰めろをかけた羽生九段が服部六段の玉を寄せきって勝利。無傷の3連勝を飾って紅組優勝に向けて大きく前進しました。一方で敗れた服部六段は1勝3敗となってリーグ陥落が決まっています。
※2023年04月28日午後1時18分、記事初出時、記事文頭に誤りがございました。お詫びして訂正いたします。
水留 啓(将棋情報局)
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