昨年、石畳の厳しいコースレイアウトから、“北の地獄”と異名を持つ、クラシックレース“パリ~ルーベ”に投入された第4世代のトレック「ドマーネ」。
ツール・ド・フランスよりも長い歴史を誇るこのレースは、過酷なコースで最上級の快適性が求められ、エンデュランスバイクがデビューする格好の場となっている。エリサ・ロンゴ・ボルギーニを優勝に導いた姉妹グレード『SLR7 Gen4』を試乗した。
エンデュランスバイクとは、ロングライドなど長距離・長時間を走るのに適したモデルである。通常のレーシングバイクと比べてハンドル位置が高く、距離も近いため前傾姿勢を浅くできる。
また、タイヤもワイドタイヤが標準装備され、ホイールベースも長い。すなわち、荒れた路面でも振動を太めの低圧タイヤでいなし、直進安定性のハンドリングを実現している。
■さらなる軽量化に成功
さらに、ドマーネには2012年に発売された初代モデルから、「ISO スピード」と呼ばれる振動吸収システムが搭載されている。これはフレームの一部を積極的に動かすことで、サドルの上でお尻が跳ねるのを防ぐ効果を発揮する。
ペダルに体重を分散してお尻の荷重を減らすなど、ライディングテクニックの差こそあれ、走っているとお尻が痛くなるのは、初心者もベテランサイクリストでも同じ。お尻の位置を安定させ、無駄な摩擦を減らすのが痛みを解消する王道である。
また、ISOスピードによって身体は安定し、視線も乱れなくなるため、ダウンヒルや路面の悪い平坦路でも乗り心地が大きく改善する。最新モデルはフロント側のISOスピードを廃止すると同時に、リア側も構造を見直して、トータルでGen3よりも300gの軽量化が図られている。
『Gen4』は仕様が異なる9モデルがラインナップ。フレームは素材の異なる2種類のカーボンフレームがあり、ベースモデルの『SL』は「500シリーズ」、上位モデルの『SLR』は軽量で上質な「800シリーズ」を採用している。
■もっと遠くまで、楽に走れる
ロードバイクのような軽快感と、ツーリングバイクにも使える極上の快適性。それ自体は、いつものドマーネである。ただ、最近は未舗装路をターゲットにしたグラベルロードが人気を博しており、エンデュランスバイクの存在感が薄くなりつつある。そんな潮流を取り戻すべく登場した4世代目は、期待を上回り、大きく洗練度を上げている。
『Gen4』の大きなトピックはフロント側の衝撃吸収システムISOスピードを廃止し、リア側も調整機構をなくして軽量化に舵を切ったことだろう。空気量の多いワイドタイヤが流行し、緩衝システムの必要性が従来よりも落ちてきているものの、システムを簡素化するのは予想外だった。
フレームをシンプルにした分、進化したのはホイールだ。標準仕様は 「Bontrager(ボントレガー)」の「Aeolus Pro37 TLR Disc(アイオロス プロ37 TLR ディスク) 」に32Cタイヤ(ボントレガー・R3 Hard-Case Lite TLR)を装着している。
ホイールの規格やフレームのクリアランスを考慮すれば、28~35C程度が標準的ではあるが、コースや好みに合わせて25~38Cまでタイヤ幅を選択できる。
リムの内幅は旧型よりも1㎜増えて21㎜となり、走行時のタイヤの剛性感が増している。タイヤが太くなった分だけ、より空気圧を落としてフワフワにして乗ることもできるし、フレーム素材の振動減衰性が向上した分を利用して、空気圧を少し上げて巡航時の軽快感を重視したセッティングも可能だ。ホイールは1506g(ペア)とミッドレンジでは標準的なスペックなので、空気圧を高めにしたほうが私の好みだった。
フレーム設計とホイールシステムが一新され、ハンドリングも大きく改良されている。姉妹車でピュアレーシングモデルの「マドン」と比べ、Gen3は直進安定性が強い分、アジリティを重視する人には不満の残る面があった。
『Gen4』は路面コンディションの悪さを気にさせない安定感と、タイトコーナーでもコンパクトにまとめていく秀逸さを兼ね備えている。フロントの次世代ISOスピードに期待していたので、廃止されたと分かったときは残念だったが、『SLR7 Gen4』を走らせている最中、ISOスピードがなくなったことを忘れるほど、不満のないハンドリングだ。
ペダリングの軽さにしても、フレームに関して不満はまったく感じなかった。加減速を繰り返し、反応性を重視するライドをするならタイヤを1サイズ細くして28Cにするか、レース用ホイールを用意すれば不満は解消するだろう。
安くないホイール交換を推奨すると標準ホイールが良くないように思うだろうが、そうではない。ホイールさえ交換してしまえば200万円クラスのトップモデルと伍して走れる実力を有しているという意味であり、それこそレースの戦績がドマーネの実力を物語っている。
これさえあれば、もうナニもいらない。そうは言わない。やはり速く走ることに特化したマドンも十二分に存在意義がある。ただ、ドマーネの快適性は体力を温存させてくれるので、あなたをもっと遠くまで、さらに楽に走らせてくれるはずだ。
もし、スポーツバイクを1台しか…だったら、選ぶのは間違いなくドマーネだろう。
文/菊地武洋 写真/和田やずか