福岡市地下鉄七隈線の延伸区間(博多~天神南間)が3月27日に開業した。開業日から2日間の利用者数は七隈線全体で156%になったという。便利になった喜びにわく中で、七隈線をさらに福岡空港国際線ターミナルへ延伸する構想がある。

  • 福岡市地下鉄七隈線の延伸区間が開業。博多駅で発車を待つ橋本行の列車(3月27日、編集部撮影)

読売新聞2023年3月25日付「鉄道が乗り入れていない福岡空港・国際線ビル『ずっと不便だと』…次の接続先の議論加速」で、七隈線の福岡空港国際線ターミナル延伸を紹介していた。

高島宗一郎市長は昨年11月の市長選で4選を果たした後、記者会見で、博多駅から国際線ビルへの地下鉄七隈線延伸について「たくさんある検討案の一つ」と述べた。関係者によると、約3キロを結び中間駅を設ける構想があるといい、経済界の一部などは「次の有力な延伸区間」として注目する

1993年、福岡空港のターミナルビル直下に地下鉄が乗り入れた。1991年に開業した成田空港駅、1992年に開業した新千歳空港駅と合わせて、都心に直結できる空港アクセス鉄道の重要性を示した。筆者にとって福岡空港は、「地下鉄で博多や天神へ直行できる便利な空港」という認識だ。

それゆえに、「福岡空港国際線ビルが不便」という記事の見出しについて、筆者の感想は「そうだっけ?」だった。福岡空港発着の国際線旅客機を利用した経験がないから、「ちょっと歩く程度」だと思っていた。ところが、地図を見ると、国際線ターミナルの位置が変わっていた。

  • 福岡空港の国内線ターミナルと国際線ターミナルは離れている(地理院地図を加工)

航空需要の拡大にともない、国際線ターミナルビルは1999年に現在の場所に新築移転した。それまでの国際線ターミナルビルは国内線第3ターミナルビルになった。さらに第1ターミナルビルと第2ターミナルビルの一部を取り壊して駐機場を拡張した。後に第2ターミナルビルと第3ターミナルビルを増築して国内線ターミナルビルになった。

地下鉄駅のある国内線ターミナルに対して、国際線ターミナルは滑走路を隔てた向かい側にある。国際線ターミナルに鉄道アクセスはない。国内線ターミナルとの間を無料のバスが連絡しており、所要時間は約10~15分。わざわざ連絡バスに乗らないと地下鉄に乗れない。

福岡空港の国内線ターミナルと国際線ターミナルの距離は約1.4km。これは羽田空港の第1ターミナルと第3ターミナルの距離に匹敵する。羽田空港は無料の連絡バスのほか、京急電鉄と東京モノレールの駅がある。福岡空港国際線ターミナルビルにも鉄道がほしい。国内線ターミナルビルを経由せずに博多駅、天神駅へ直行できる。ちょうど七隈線を天神南駅から博多駅へ延伸すると決まったことだし、そのまま福岡空港国際線ターミナルビルに延伸すればいい。

読売新聞電子版は、昨年(2022年)の11月21日付の記事「地下鉄七隈線、福岡空港国際線へ延伸検討…高島市長」の中で、4選を果たした市長が七隈線のさらなる延伸を検討していると報じた。ただし、市長の談話として、「たくさんある検討案の一つ」とし、「将来に向け総合的に考える」とも書いている。

さらに今年(2023年)、1月10日の市長会見で、記者の質問に対して「福岡空港の国際線までの延伸ありきのような話になっていますが、これはもう全くないです。(中略)そもそも地下鉄ということだけではなくて、福岡市全体として、普段の日常の生活交通の足もどうしていくのか(中略)バスだとか、タクシーだとか、それから、西鉄の電車があって、地下鉄があってという、これを総合的にどううまくネットワークをつくっていくのかというところの議論のほうが、まず大事」と回答した。

  • 七隈線延伸ルート(報道などをもとに地理院地図を加工)

前掲の読売新聞記事では触れていなかったが、国際線ターミナルのバス便は充実している。博多方面は8時台から20時台まで運行され、11~17時は1時間あたり5~6本の直行便がある。所要時間は約15分。他にわずかながら長崎・佐賀・大分・熊本を結ぶバスがある。地下鉄に乗る場合は国内線ターミナル行のバスが8分おきに出ており、所要時間は約15分かかる。その手間と時間を考えると、博多駅にはバスのほうが早く着く。

七隈線を延伸すれば、七隈線沿線の人々にとって便利だろう。しかし都心部と国際線ターミナルのアクセスとしてバスがある。だから七隈線延伸を急ぐ必要はない。福岡市としては、総合的なネットワークをつくり、必要性があると判断したら検討すればいい。

なにしろ地下鉄建設はお金がかかる。国の補助も乏しい。市長の言う「総合的に考える」には、こうした事情も含まれる。なお、高島市長は地下鉄協会の会長でもあり、国に働きかける仕事もしている。つまり、地下鉄建設の予算的な厳しさは福岡市だけではない。

  • 七隈線と福岡空港関連の鉄道構想略図(福岡県資料などをもとに地理院地図を加工)

筆者は福岡空港の地図を見ているうちに、「空港線を国際線ターミナルに延伸したほうが低コストで効果的ではないか」と思った。東京モノレールは羽田空港のすべてのターミナルビルに駅があり、U字を描くルートでつないでいる。このように、現在の福岡空港駅から線路を延ばし、滑走路の地下を通って国際線ターミナルに至る。コストの問題だけでなく、旅客案内上もわかりやすい。博多駅から福岡空港へ行くために、「国内線は空港線」「国際線は七隈線」とするより、「空港へ行くなら空港線」のほうがいい。

ところが、空港線には別の構想がある。福北ゆたか線(篠栗線)の接続ルートだ。長者原駅あるいは原町駅へ延伸し、そこから福北ゆたか線と直通運転を実施する。福岡県は2021年度にルートや予想需要などの調査に着手し、2022年7月11日に結果を発表した。長者原駅接続、原町駅接続について、福岡空港へ直行、または少し迂回して途中2駅を設置する。長者原駅から福岡空港への直行ルートの所要時間は4分。現在は博多駅経由で迂回しており、27分かかっている。飯塚市や直方市などが期待している路線だという。

ただし、福岡県が実施した調査の結果は、4ルートそれぞれ「需要が最も高い。しかし建設費も高い」「建設費は安い。しかし需要も少ない」となり、どのルートも赤字という結果になった。赤字予測は持続性の低さであり、国からの補助を得られない。福岡県は引き続き調査するとしている。

そうなると、福岡市としては「進路を南へ向けたい」とは言いづらい。しかし、福岡空港から国際線ターミナルの路線もつくり、福岡空港駅で対面乗換えできるような線路配置にすれば、筑豊地域から国際線ターミナルへ行く場合も便利になると思う。福岡空港駅の改良工事でさらにコストが増えるものの、検討の価値はあるだろう。

七隈線延伸の利点があるとすれば、経由地の山王地区と博多駅南地区の鉄道空白地域の解消と、七隈線の魅力を高めて郊外区間の開発に寄与するくらいか。七隈線は開業当初から乗客数が予想を下回り、期待していた沿線の開発も進まなかった。博多~天神南間の延伸は、低迷する七隈線の打開策として期待されていた。

七隈線は郊外へ延伸する構想もある。橋本駅から延伸し、地下鉄空港線とJR筑肥線の姪浜駅に至るルートである。具体的なルートの例として「野方・石丸経由」がある。これは建設コンサルタンツ協会九州支部が開催した「夢アイデアコンテスト」の応募作品「福岡市地下鉄環状線計画」で提案されている。

アイデアレベルでいえば、福岡の建設業界を中心に活動するシンクタンク「C&C21研究会」も複数の路線を提案しており、国際線ターミナルから博多駅を通ってウォーターフロント方面に至る「新空港線」や、七隈駅と福岡空港駅を南回りで結ぶ「長尾月隈線」などがある。どれも興味深いが、市長レベルで検討とされた七隈線延伸がもっと実現性が高く、それでも建設費負担の壁がある。

福岡市は2014年に「福岡市都市交通基本計画」を策定しており、目標年次を2022年度としていた。そろそろ次の計画が発表されるだろう。七隈線など地下鉄の新路線が盛り込まれるか注目したい。