NTT東日本グループでは自治体をはじめ、地域の団体、様々な企業のDX化をサポートしている。
同社 神奈川事業部 神奈川西支店では、藤沢市医師会が抱える課題の解決に向けてネット環境の構築、各会議のペーパーレス化などを推進中。直近では2022年末、医師会の配信映像も制作したという。関係者に詳しい取り組み内容と進捗について聞いた。
ペーパーレス化は進んだが
藤沢市医師会とは、市内の医師(約530名)を会員とする、公益性・公共性を重視した事業を行う公益社団法人。はじめに藤沢市医師会館(神奈川県藤沢市片瀬)にて、藤沢市医師会 副会長の石原宏尚氏、同理事の西川正憲氏に話を聞いた。
NTT東日本とは、いまどんな取り組みを進めているのだろうか。
そんな問いかけに、石原氏は「まずは理事会においてペーパーレス化を進めました。それまで資料は紙ベースで作成していたので、相当な紙の量が必要でした。コストもかかるし、エコにも反しますね。とはいえ、私たちはインターネット環境も十分に整っておらず、館内のインターネット整備からNTT東日本さんには入ってもらったんです。その結果、多くの医師がiPadで資料を閲覧しています」と説明する。
導入はスムーズに進んだのだろうか。そして、どのような効果があったのだろう。
西川氏は「はじめのうちは戸惑いもありました。けれど今では、従来の頃よりも便利さを実感しています。資料の管理が簡単になり、字が見にくい時も拡大して確認できる。理事を務める皆さんは、それなりにお歳のかたもいらっしゃるので」とにこやかに話す。
これに、石原氏も「医師会では様々な資料を参照する必要があるので、それを整理して、いつでも何処でも閲覧できるというのは本当に助かりますね」と応じる。しかし、次のようにも続ける。
「ただ理事会以外では、まだペーパーレス化が進んでいません。ほかの会員の、デジタル化に向けた意識も変えていく必要があるんだと思います。基本的に医者の仕事は、患者と対面して診療すること。無理にデジタル化を進めると弊害も出てくるのかな、と考える先生もいらっしゃいます。まずはできるところから、ですね。スピードはゆっくりになってしまうかも知れませんが、必要なところからDXを進めていく考えです」。
従来は映像を手作りしていた
これまで藤沢市医師会では、地域の住人に向けた「藤沢の医療を考える集い」を定期的に実施してきたという。どんなイベントなのだろうか。
これについて西川氏は「藤沢の医療体制について市民の皆さんに知ってもらい、市民病院、クリニック、診療所などの上手な使いかたについて一緒に考えていく機会とするため、2006年に第1回を開催したのが始まりです。その後、年1回のペースで実施するようになりました。これまで、がん検診、新型インフルエンザ、介護、在宅医療、といったテーマを取りあげ、『いま医師会ではどんなことをしているのか』その活動内容を地域のかたに知ってもらえる良い機会にもなっています」と説明する。
それまでは市民会館で開催していたが、新型コロナウイルスが蔓延して以降は、オンライン開催に変更を余儀なくされた。
そこで医師会は自分たちで動画を撮影し、パワーポイントの資料なども織り交ぜ、YouTubeで映像配信するようになったという。そして今年からは、その映像制作にもNTT東日本のサポートが入るようになった。
西川氏は「自主制作していた頃の映像も、まぁ手作り感が満載で良かったんですが」と笑いつつ、「NTT東日本さんのお力を借りしたら、より見やすい、分かりやすい、発信力がある映像になりました」と続ける。
「従来は1年に1回、市民会館でのみ聞けていたものが、映像配信するようになってからは1ケ月間(医療関係者を含めて)市民の皆さんに好きな時間に視聴してもらえるようになった。その映像も今回パワーアップした、ということです」(西川氏)。
「新型コロナウイルスに対して、医師会では地道な努力を続けました。市民病院の医師たちと我々会員も、ときには専門分野をまたぐ形で支えあった。例えば発熱外来がパンクしそうなとき、専門外の医師が応援に駆け付けたこともある。今年はそうした、藤沢市の医療体制が一丸となって取り組んでいた姿を、皆さんに知ってもらえる市民集会にもなりましたね」と石原氏は補足する。
これに西川氏も「神奈川県内のなかでも、最も適切だった、と言って良いくらいの対応が藤沢市はできました。だから市民の皆さんには『安心してください』というメッセージを送りたかった。NTT東日本さんのおかげで、より分かりやすい画面でお届けできたと感じています」と振り返った。
NTT東日本が映像配信もサポート
ここでNTT東日本 神奈川事業部の直近の体制についても簡単に触れておきたい。同事業部では2022年6月1日、横浜中華街・玄武門に隣接するショールームに「光HOUSE YOKOHAMA」をリニューアルオープン。同施設は、PR動画の撮影・配信、オンラインセミナーの配信、商品のPR動画の撮影などに対応した多目的スタジオだ。
そして既述の通り、今回は「藤沢の医療を考える集い」で配信する医師会の映像をNTT東日本が制作した。
具体的には、光HOUSE YOKOHAMAのスタッフが医師会に出向く形で撮影を進行。最終的には、藤沢市医師会 会長の鈴木紳一郎氏の挨拶、藤沢市長の鈴木恒夫氏の挨拶、医師会会員による複数の講演、からなる90分の映像を完成させている。
NTT東日本が入ったことで、やはり映像のクオリティは上がったのだろうか。
そんな問いかけに、西川氏は大きくうなずきながら「ええ、まず映像が綺麗になりました。鮮やかになった。言葉も聞き取りやすくなりました。これまでは医師たちが自前の機材で収録するのが当たり前だった。プロの技術が入るとここまで変わるんだ、と驚きましたね」と話す。
また石原氏も「今回の取り組みを通じて、こちらも映像配信について多くの学びがありました。現場のプロから適切なディレクションをいただいたことも良い経験です。次回以降、さらにスピーディに、より適切な映像を発信できるようになるのでは、と期待しています」と満足げに話していた。
医師会からの要望は?
NTT東日本の関係者にも話を聞いた。対応してくれたのは、神奈川事業部 神奈川西支店 BI部の小澤美月氏と、神奈川事業部 企画部の天津良子氏。
小澤氏は、これまで主に医療法人、社会福祉法人などを担当してきた経歴がある。そして以前、NTT東日本グループ主催のイベント「Solution Forum」に藤沢市医師会が出演したことがあり、その縁で今回の依頼につながったと明かす。
また日頃から光HOUSE YOKOHAMAの運営に携わっている天津氏は「今回は医師会の理事会に参加して、実際に先生が動画を通じてどんなことを伝えたいのか、それを知るところから始めました。普段、先生が使っている資料についても『どうやったら動画の画面で映えるか』など、時間をかけて検討しました。もちろんイチバン大切にしたのは、どう撮れば先生の思いが伝わるか、というところです」と説明する。
医師会からは、どのような要望が寄せられたのだろう。
小澤氏は「人によってもこだわりのポイントが違いました」とし、ある医師は資料を見やすくしてほしい、別の医師は資料を際立たせたいので自身は映像に登場しなくて良い、そんな要望があったと明かす。
さらには、グリーンバックで撮影した映像の背景に合成する素材について「江の島をバックにしてほしい」とリクエストする医師も。藤沢エリアならではのエピソードだ。天津氏は「医師の皆さんの思いも、それぞれ。編集者としては、映像に統一感が出るようにまとめる苦労もありました」と話す。
今後、医師会のDX化はどのような方向に向かっていくのだろうか。
そんな問いかけに、小澤氏は「まず打ち合わせが多いということで、議事録をAIで作成できないか、というお話をいただいています。新しいICTソリューションにも積極的で、地域に医療を提供する際に大切な『医療機関のBCP対策』のマニュアル作りとか、そうした分野にも最先端の技術を導入する意思を示されています。いま医師会全体で、とても良い流れができつつあるのを感じています」と話していた。