救いの光や絆を感じる歌

――そういった活動を経て、今回7枚目となるシングル「切り傷」がリリースされます。こちらは、TVアニメ『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかIV 深章 厄災篇』のエンディングテーマ曲で、バラード調の楽曲ですね。

渡辺:アニメ制作サイドから王道な方向のバラードで、というリクエストが「sajou」にきたんです。「sajou」も王道バラードは初挑戦だったのでぜひ取り組みたいと思い、僕とキタニそれぞれで曲を作って、提案しました。

――そうして、今回はキタニさんの楽曲が選ばれた。

渡辺:単純にキタニのメロディと歌詞が素晴らしかったですし、僕は少し難しめな方向性のバラードを作っていたので、リクエストに対して正面から取り組んだ彼の曲が選ばれたんだと思います。

――改めてどういう楽曲に仕上がっているのか、ご紹介をお願いします。

sana: 『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』(以下、『ダンまち』)って、ずっと試練に立ち向かっていくストーリーだと感じていて。特に今回は重い展開が続くので、視聴者の方がエンディング曲を聞いて救われた気持ちになれば嬉しいなと思ったんです。そんな思いも含めて、キタニさんが救いの光や絆を感じる歌を作ってくれました。

渡辺:王道バラードでありつつも、「sajou」らしさを表現した曲にもなっています。バラードって分かりやすいカーブがあるのですが、それとは少し違う構成になっているんですよ。サビで一度静かになるなどの部分は、キタニタツヤのソングライティングが光っていますね。歌詞は『ダンまち』を踏襲したものに仕上がっています。主人公のベル・クラネルは仲間を守る武器として「ナイフ」を使っていますが、この曲では「ナイフ」が自分に向けられる刃として表現されているんですよ。色々と考えさせられる歌詞だと思いました。

――みんなを守るための武器が、自分に向けられる。

渡辺:自分のことを省みないって、そういうことなのかなと思います。省みない理由は、きっと自分にある。キタニ本人がいないので断言はできないのですが、色々と深い内容になっているので、歌詞にも注目しながら曲を聞いてみて欲しいですね。

――sanaさんは歌うときに、どういう気持ちを込めましたか?

sana:キタニさんから「希望を書いた曲」と聞いていたので、重たいストーリーを見たあとでも視聴者の方の気持ちが浄化されればいいなと思いながら歌いました。バラードだからサビで壮大に歌うという訳ではなく、むしろ聞いている方を包み込むような、近い距離感をイメージして歌っています。サビは息たっぷり……というよりも、ほとんど息くらいで歌うことを意識しました。

――アニメを見て気持ちが少し沈んだときにも、この曲を聞けば浄化される。

sana:『ダンまち』は浄化エンディングが求められていますから。

渡辺:確かに、言われてみればこれまでも浄化作用がある曲を書いてきましたね。

sana:あとは、余韻の響き方もすごく意識しました。例えばラストの「ふれて。」の部分。あのパートは音がなくなって、歌だけになるんです。そこはいかに声の印象を残せるかの勝負でした。レコーディングでもこだわった部分ですね。

――本曲のMVも公開されています。完成した映像をご覧になっての感想を教えてください。

sana: MVは壮大な自然のなかで撮影しました。映像のおかげで、曲に奥行きが出た気がします。

――音楽と映像が組み合わさることで感じ方も変わるんですね。

sana:アニメの映像ではリューさんにスポットを当てていて、個人の感情が表現されているという印象を受けましたが、MVはむしろ開けて広い感じがします。映像によって、歌の感じ方が少し変わる気もしますね。

大切なものは周りにある、幸せは身近にある

――続けて、カップリング曲「メーテルリンク」についてお聞きします。こちらはタイトルが非常に印象的ですね。

渡辺:この曲はオンラインゲーム『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかバトル・クロニクル』(以下、『ダンクロ』)の主題歌で、ベルについて綴った内容になっています。成長したいと願ったり、自分の理想を追い求めたりしているときって、目標を超えてもその次がくるじゃないですか。それをずっと追っていく訳ですが、結局はキリがなくて。でも、実はいちばん大事なものは近くにあるものなんです。追っているときはそれがなかなか見えないというか。ベルも、大事なものは近くにいる仲間ってことはきっとわかっているんです。でも、強さや理想を追い求めている。それがメーテルリンクさんの「青い鳥」に通ずると思ったので、このタイトルにしました。

――どういった楽曲に仕上がっていますか?

渡辺:ストリングスやピアノなどを入れず、ストイックなバンドサウンドに仕上がっています。『ダンクロ』の主題歌も僕とキタニがそれぞれで作って、制作サイドにどっちがいいか選んでいただきました。今回は僕が選ばれましたが、キタニが作った曲もめっちゃいいので、どこかで出したいなと思っています。

――楽しみです。sanaさんは曲を聞いたときどのような印象を持ちましたか。

sana:爽快感がある曲だと思いました。その後、翔さんから曲について色々と聞くなかで、『ダンまち』のタイアップで「大切なものは周りにある、幸せは身近にある」ということを歌えるのが、すごく嬉しくなりました。

――歌うときはどんなことを意識しましたか?

sana:「切り傷」は歌詞を伝えることを頑張っていましたが、この曲は音がカチッとハマる気持ちよさにこだわってレコーディングしました。どちらも作品に寄り添ったほんとうにいい曲なので、ぜひ聞いて欲しいですね。

――本日は色々とお話ありがとうございました。最後に、おふたりが思う「音楽の力・魅力」について教えてください。

渡辺:僕はエンタメのなかでも特に、ライトからディープまで度合いの幅が広いのが音楽だと思っています。それってつまりは、「誰でも楽しめる」ということだと思うんですよね。他のエンタメもめちゃくちゃ面白いですが、音楽がいちばん素敵なエンタメだと思いながら、この世界に携わっています。

sana:活動していくなかで、音楽は世界中の人たちとつながれるエンタメのひとつだと感じています。例え言語が分からなくても、その音楽を聞くだけで感動できるのが、すごく魅力だと思っています。私、ドラマやアニメでいい場面が訪れるとき、必ずと言っていいほどそこには音楽や劇伴もある気がしていて。それくらい、音楽は作品を見る方の記憶と直接結び付くものなんだと思います。例え「sajou」を知らなくても、音楽は人の記憶に残る。それが素敵ですし、その分責任も大きいと思います。その責任を忘れずに、これからも歌っていきます。

「sajou no hana」7th Single「切り傷」リリース情報

発売日:2023年2月22日
価格:1,320円(税込)
収録楽曲:
1.切り傷
2.メーテルリンク

sajou no hana(さじょうのはな) 数々の作品・アーティストに楽曲を提供する作曲家・渡辺翔、シンガーソングライター・ベーシストとして活躍するキタニタツヤ、「<アニメ限定!>スマイルカンパニー・オーディション2014」合格者のシンガー・sanaによるバンド。2018年に結成。TVアニメ『とある科学の一方通行』やTVアニメ『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』シリーズなど、さまざまなアニメ作品で主題歌を担当する。