NTT西日本グループではICTを活用し、地域が抱える社会課題の解決に取り組んでいる。鹿児島県では、農業・畜産業の担い手の高齢化問題、後継者不足問題などに対応するほか、『グラウンド・ゴルフ』に着目したユニークな取り組みも進めているという。NTT西日本 鹿児島支店長の井原浩二氏、およびNTT西日本 ビジネスコーディネーターの峯﨑華氏が詳細を語る。
■なぜグラウンド・ゴルフのDX?
グラウンド・ゴルフとは、専用のクラブを用いてホールポスト(カゴのポスト)にボールを入れるまでの打数を競い合うスポーツ。グラウンド・ゴルフの会員数が日本一の鹿児島県では、住宅地の近くに競技専用の運動場があるところも多く、健康志向の強いシニア世代を中心に根強い人気を誇っている。
そこでNTT西日本では鹿児島県グラウンド・ゴルフ協会と連携し、県内におけるグラウンド・ゴルフのDXを進めている。鹿児島県グラウンド・ゴルフ協会としては、限られた運営リソースで大会運営を効率的に行いたい、また協会運営に若い世代を増やしたい、といったニーズがある。一方でNTT西日本では最先端のICTを導入することで地域の活性化につなげ、新たな価値の創出も図っていきたい考えだ。両者は2021年度から検討・開発を始め、2022年度から本格的に動き始めている。
■専用アプリの開発へ
従来のグラウンド・ゴルフ大会では、競技中に各々のプレイヤーがスコアを手書きし、プレイ後に集められたシートを係員が電卓で集計し、手入力していた。当然ながら時間も手間もかかり、入力ミスの可能性もあった。そこで新たにソフトウェア開発を手がけるフォーエバー(鹿児島のベンダー企業)と連携、タブレット端末上で簡単にスコア投入と集計ができるアプリを開発した。「タブレット端末を用いてメンバーのスコアを投入していくと、プレイ終了後に集計結果が自動で出る仕組みです。これにより、手入力に費やしていた時間が大幅に削減できました」と峯﨑氏は話す。
ありそうでなかった取り組み、と自信をのぞかせるのは井原支店長。「シンプルな見やすさと操作性にこだわって開発しました」とする。しかし、どうやったらシニア世代に活用してもらえるか、これについては相当の苦労を要した。
具体的には、開発段階から高齢者のプレイヤーに使用感をヒアリングし、文字や数字を大きく見やすい表示にしたほか、スマートフォンを使いこなす高齢者であれば操作できるような簡易なUIにする、といった工夫を重ねていった。峯﨑氏は「商用化に向けて、まだまだ改善すべき点は残されています。たとえば、タブレット端末はプレイ中に持ち運びにくい。そこでスマートフォン版も開発して、ご自身のスマートフォンで気軽にスコアを投入できるようにしていきたい。今後もトライアルを重ねながら、改善すべき点を1つずつ洗い出して検討を進めていきます。シニア世代の皆さまに実際にご活用頂けることが肝心なので、そこを意識して使いやすさにこだわっていきます」と説明する。
■地域に寄り添うNTT西日本
鹿児島県グラウンド・ゴルフ協会、およびNTT西日本では、地域の住民が外の空気を吸って適度に運動すること、そして定期的に集まりコミュニケーションを取ること、この2つの側面からグラウンド・ゴルフが「健康増進」と「見守り」の役割を果たすことを期待している。
老若男女、誰もが身体を動かしたり、頭脳を働かせて楽しめるという点では、NTT西日本がかねてから注力しているeスポーツと共通する部分もある。井原支店長はeスポーツについて「心身の健康増進、認知症の予防、コミュニケーションの活性化などさまざまな効果が期待され、全国でも取り組みが加速しています。私どもも自治体や地元企業の皆さまと次々とeスポーツ体験イベントを企画しています」と紹介する。
また峯﨑氏はシニア世代の見守り支援に関連し、同社では現在、身に着けるデバイスで血圧や心拍数などのバイタルデータを収集し、健康改善や未病検知につなげる技術を構想中であると明かす。「グラウンド・ゴルフ、eスポーツの取り組みを通して多くのシニア世代と交流しつつ、いま実生活では何に困っていて、どうすれば解決につながるのか、そんな生の声を丁寧に聞いていくことで、今後とも地域に寄り添っていければ」と口にする。
■ICTの取り組みを暮らしに実装へ
ちなみに今回のグラウンド・ゴルフのスコア集計のデジタル化の取り組みは、南さつま市の本坊輝雄市長との対談からヒントを得たものだという。そしてシニア世代の健康促進と見守りに関しては、NTT西日本、南さつま市、フォーエバーとの三者間で「ICTを活用したまちづくり」に関する包括連携協定も締結。南さつま市の県立吹上浜海浜公園にて2022年9月7日に開催されたグラウンド・ゴルフ大会にあわせて、同会場で連携協定締結記念式典が行われている。
最後に、井原支店長は「スコア集計アプリをトリガーに、シニア世代の皆さまにデジタルの便利さを体感して頂き、デジタル化へのハードルを下げていくことがとても重要。その上で各地の自治体や地元企業様と連携し、シニア世代の健康見守りなどのさまざまな課題をICTで解決する取り組みへと広げ、実際の暮らしに実装していきたいと考えています。シニア世代の皆さまがいつまでも健康で幸せに暮らしていける、そのような鹿児島の未来を、これからも先進的なICTで支えてまいります」と結んだ。