映画でおなじみの「ドルビーアトモス」(DOLBY ATMOS)に対応したクルマが買えるようになる? そんな情報をつかんだので、実際に体験してきた。ドルビーアトモス対応のクルマでは何が楽しめるのか。どんなクルマでも最新の音響技術を享受できるのか。ドルビージャパンに話を聞いた。

  • ドルビージャパンのデモカー

    「ドルビーアトモス」対応車が登場! 車内にはどんな世界が?

最新の立体音響技術で楽しい車内に?

「ドルビーアトモス」対応の作品を映画館で観たことがある人はけっこう多いはず。音が前後左右さまざまな方向から聞こえてきたり、音の発生源が動いているように感じたりするのは不思議な体験で、作品によっては臨場感が増したり、ホラーなシーンがより恐ろしくなったりといろいろな効果がある。この技術がクルマに入り始めている。

具体的には高級車の世界でドルビーアトモス対応が始まっている。例えば電気自動車(EV)の米ルシード(Lucid Motors)や中ニオ(NIO)などだ。メルセデス・ベンツ、ロータス、ボルボなども対応を決めているという。

音が立体的に聞こえるドルビーアトモスをクルマで楽しむ場合、天井にスピーカーがあるかないかは重要な要素となりそうなものなのだが、ドルビーでは天井にスピーカーが付いていないクルマ向けのソリューションもすでに開発済みだ。今回は天井スピーカーの有無で音の聞こえ方がどう変わるかを体験できるデモカーに乗り、実際に音楽を聴いてみた。

  • ドルビージャパンのデモカー
  • ドルビージャパンのデモカー
  • トヨタ自動車「アルファード」をドルビーアトモス対応にした特別なデモカーに乗り込み、天井スピーカーを鳴らすバージョンと鳴らさないバージョンで同じ音楽を聴き比べた。作品はドルビージャパン担当者がチョイスしたTiesto & Sevennの『BOOM』という楽曲だった

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    デモカーには平面スピーカー7ch、天井スピーカー6ch、サブウーファー1ch、数にすると21個のスピーカーが取り付けられていた

まずは天井スピーカーありバージョンを聴いてみると、曲中に音の発生源が動き回る立体的な音響を存分に体感することができた。自分の頭の周りを、宙に浮いたスピーカーが飛び回っているような聞こえ方だ。『BOOM』という曲の最後には、音の発生源が自分の頭の周囲をくるりと一周するような演出が入るのだが、これがなかなか面白い。

次に天井スピーカーなしバージョンを聴くと、これが不思議。上から実際に音が鳴っているはずはないのに、聞こえ方は先ほどと同じ感じなのだ。体感的には間違いなく目線より少し上、頭頂部と同じくらいの高さから音が聞こえてくる。技術的な深い話は理解できなかったのだが、曲の高い周波数帯に何らかの手を加えることにより、こういう聞こえ方にできるらしい。

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    「ドルビーアトモス」では音が動くだけでなく、ライブで曲を聴いているような臨場感を味わうこともできる。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団が演奏する『帝国のマーチ』(映画『スター・ウォーズ』のダース・ベイダーのテーマ曲)を聴かせてもらったのだが、シンバルは左前方、バイオリンは右前方でなっている感じで演奏の再現性が高かった。デモカーは「第15回 オートモーティブワールド」(2023年1月25~27日、東京ビッグサイト)で実際に見て体験できる。興味があれば試してみていただきたい

天井にまでスピーカーが付いているクルマは、市場に数%程度の相当な高級車だ。ドルビーアトモスを楽しむのに天井スピーカーが必須であるとすれば、同技術を楽しめるのは世界に数%の富裕層だけということになるが、天井スピーカーなしでもドルビーアトモスを享受できるとすれば、適応可能な車種はぐっと広がるはずだ。

とはいえ富裕層のみの贅沢品なのか?

ドルビーアトモス対応のコンテンツ(音楽、映像、ゲームなど)は増えているそうで、音楽でいえば、ビルボードTOP100の3分の2くらいは今や、ドルビーアトモス対応の楽曲になっているそうだ。これらの作品を、クリエイターの意図したとおりにクルマの中でも楽しめるようになれば、例えば自動運転で運転から解放された際の移動時間の楽しみは増すだろうし、静かな電気自動車(EV)の車内での過ごし方、特に外出先でクルマを充電している時間の過ごし方も大いに変わるに違いない。

ただ、気になるのは、ドルビーアトモス対応のクルマが多くの人の手にいきわたるかどうかだ。映画でも、ドルビーアトモスで作品を見るには料金に数百円がプラスされる。この方程式で行けば、ドルビーアトモス対応のクルマは通常版のプラス30万円、みたいなことにもなりかねないと思うのだが……。本来なら200万円のクルマを、音響のためだけに230万円で買ってもいいという人が、そんなにたくさんいるとは思えない。

クルマでドルビーアトモスのコンテンツを楽しむためには、クルマのインフォテインメントシステムにドルビーのソフトウェアを実装しておく必要がある。ドルビーはソフトウェアをクルマに入れ込むことで、自動車メーカーもしくはインフォテインメントシステムの作り手から技術料を受け取るというビジネスモデルだ。その技術料はいくらくらいで、どのくらいクルマの価格に跳ね返るものなのか。そのあたりについてドルビージャパンの担当者に聞いてみると、「具体的な金額はいえませんが、昨今のクルマの値上がり具合に比べればコレくらいのものです」といいながら、手(ハンドサイン)でつぶれた「C」の字を作ってみせてくれた。つまり、そんなに高くないというか、プラス数十万円といった感じの世界でもないらしい。

それと、もうひとつ重要だと思うポイントなのだが、今のところ、Apple「CarPlay」などでスマートフォンをクルマにつないで音楽を聴く場合は、もともとのコンテンツ(楽曲)がドルビーアトモスで作ったものであったとしても、ドルビーアトモスで再生することはできない。これは仕様上の制約で仕方がないことらしいが、ドルビーではAppleらと鋭意交渉を進めているそうだから、そのうち対応するかもしれない。現時点では、インフォテインメントシステムに最初から「Apple Music」などのアプリが入っていて、その中からドルビーアトモスで作ったコンテンツを再生しなければ、クルマでドルビーアトモスは楽しめないということだ。

というわけなので、「クルマのドルビーアトモス」は高級車の世界から始まっていくことになりそうなのだが、価格の安いクルマもドルビーのソフトを実装するようになり、CarPlayなどがドルビーアトモスでの再生に対応するようになれば、この技術を享受できる人の裾野はかなり広がるはず。実際に体験してみた感想として、立体的なサウンドで好きな音楽を聴きつつドライブに出かけてみたいという思いにはなったので、あとはドルビーアトモス対応の車種とサービスが増えることを期待して待つばかりだ。