フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)で、15日に放送された『酒と涙と女たちの歌2 ~塙山キャバレー物語~ 前編』。茨城県日立市の国道沿いにトタン張りの小さな建物が肩を寄せあうように立ち並ぶ飲み屋街「塙山キャバレー」の人々を追った作品で、常連客・のぼるちゃんの死に向き合う姿や、最愛のパートナーを亡くして悲しみに暮れるママの姿があった。

取材ディレクターの映像作家・山本草介氏が、塙山キャバレーの人々に感じた“支え合い”の精神や、“隠さない”美学とは。そして、22日に放送される「後編」の見どころも聞いた――。

  • 塙山キャバレーのママたち (C)フジテレビ

    塙山キャバレーのママたち (C)フジテレビ

■「あした死んでもいい」「一緒に死んでもいいかな」

2021年5月30日・6月6日放送回の続編となる今作。前回の放送を受け、塙山キャバレーには新規の客も増えたそうだが、「コロナ禍なので、県外の人や一見さんはあまり入れないようにしていたみたいです」といい、結果として現時点でクラスターも発生していない。

全国の飲食店が苦境に立たされる中で、塙山キャバレーは1軒も閉店していないどころか、新たに1店舗増えるという状況だ。山本氏は「みんな1人でやっていたら、さじを投げたり、『もう辞めよう』という人もいたと思うのですが、ピンチになると『頑張ろうよ!』とつながりができて、支えになってるんですよね」と、塙山キャバレーのママたちの結束力を要因に挙げた。

この支え合いは、ママ同士だけではない。前編では、「ラブ」のママが最愛のパートナーを亡くして「もう辞めたい。あした死んでもいい」と吐露したり、後編でも大切な人が重い病にかかり「一緒に死んでもいいかなって思う」とつぶやくママの姿が。自らの命を口にするほど、強く支え合って生きていることが伝わってくるシーンで、山本氏は「今回はいろんな愛の形が出てきます」と語る。

  • 「酔った」のママ (C)フジテレビ

■なぜか人見知りが消える「1人じゃ飲めない(笑)」

支えを受けているのは、もちろんお客さんも。前編に登場した岡田さん(29)は、過酷な労働環境で精神を病み、転職した会社でもほとんどしゃべらないで過ごすにもかかわらず、塙山キャバレーではなぜか人見知りがなくなり、頻繁に通っている。

この現象については、「塙山キャバレーって、1人で行っても、1人じゃ飲めないんです(笑)。『どっから来たの?』とか『仕事休みなの?』とか、ママも含めて巻き込んできて、あそこに行けば誰彼構わず話せるんですよね」と解説。

ただ、「人見知りが消えてしまうというのは、不思議ですよね。年配の方だったらああいう場所に慣れてるでしょうけど、まだ20代の若者の心も開いてしまうんだというのが分かって、それはうれしいですね」と、驚きながら話した。そのことを、とある常連客に話すと、「人の心は昭和も令和も変わらねえ。いいものはいいんだ」と言われたそうだ。

  • 塙山キャバレーの夜景 (C)フジテレビ

■何かを隠すということがカッコ悪い

取材をすると、塙山キャバレーの人たちから次々にドラマのようなエピソードが出てきて、今回の放送に入りきらなかった話もいくつかあったそう。それは、皆が自分をさらけ出し、打ち明けてくれるからだ。

「人は自分の弱いところを隠したり、カッコつけたがると思うのですが、塙山キャバレーの人たちは、何かを隠すということがカッコ悪い感じなんですよね。ウソっぽいことは、パッと見ぬかれてしまうんです」

ただ、「塙山キャバレーが特殊なのではなく、どんな人もドラマを持っていて、それを覆い隠すのか、“何が悪いんだ!”って見せるのかくらいの違いだと思うんです。だから、新しくお店を開いたあーちゃんもいろんなものを抱えているし、それを見せてくれる。岡田さんのような方も、この時代にはたくさんいると思いますから」と見解を示した。

  • 新しく店を開いたあーちゃん (C)フジテレビ

最後に、番組の見どころを聞くと、「前編は前回の続きで“あの人は今”みたいな場面が多かったと思いますが、後編はいろんなママがいて、いろんな人生を見せてくれて、塙山キャバレーの奥行きが感じられると思います」と予告。

今後の取材については、「また何かきっかけがあれば行きたいですね。例えば、結婚したあーちゃんに赤ちゃんが生まれたら、お店をどうするのか。『めぐみ』のママなんて、営業しながら2人の子どもを育てて、お店の座敷に寝かしてお客さんにかわいがってもらったり、他のママが助けに来てくれたりしていたそうなので、あーちゃんも今の時代らしい形でやってくれるかもしれないですから」と期待を膨らませた。

  • 山本草介氏

●山本草介
1976年生まれ、東京都出身。早稲田大学卒業。ドキュメンタリー映画監督の佐藤真氏に師事し、06年に映画『もんしぇん』の監督で商業デビュー、第6回天草映画祭「風の賞」を受賞した。映像作家として『ザ・ノンフィクション』のほか、『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK)、『情熱大陸』(MBS)といった番組や、ドキュメンタリー映画『エレクトリックマン ある島の電気屋の人生』などを制作。21年、初の著書『一八〇秒の熱量』(双葉社)が、第52回大宅壮一ノンフィクション賞・第20回新潮ドキュメント賞の候補作に選ばれた。