NTT西日本は1月19日、地域の企業・自治体のDXを加速させる共創ラボ「LINKSPARK広島」を開設した。同社が保有するアセット、中国・四国エリアに存在する資源を活用し、地域のDX化を加速させていきたい考えだ。

  • 「LINKSPARK広島」がスタート。写真は、NTT西日本 代表取締役社長の森林正彰氏(中央)と、広島経済同友会ものづくり委員会の向田光伸氏(左)、STNet常務取締役ビジネス営業本部長の久米洋介氏(右)

■LINKSPARK広島とは?

NTT西日本ではこれまで、大阪、名古屋、福岡にLINKSPARKを設置してきた。4つめとなるLINKSPARK広島では、中国・四国エリア一帯をカバーする。広島市内の繁華街にあるNTT西日本 中国支店の一角(318平方メートルの敷地面積)に開設した。

  • 「LINKSPARK広島」が入るNTT西日本 中国支店(広島市中区基町6-77、NTT基町ビル)

館内には、地域の企業・自治体が様々な用途に利用できるいくつかのスペースを設けている。担当者は「様々な業種業態の皆さまと共創ビジネスを推進し、企業間のマッチングやデータ流通を促進し、地域の新たな価値創出や発展に寄与していきたい」と説明する。

  • 電源、ネット環境、大型ディスプレイを完備する共創ルーム。ここでDX推進に向けて議論を深めていく

  • セミナー、会議、ワークショップなどで活用できる「AGILE PLACE」

  • オンライン会議に最適な「BEYOND PLACE」。各地域のLINKSPARKとも連携する

■活用事例を体験できるデモブースも

館内にはDXに関連するデジタル技術、活用事例を体験できるデモブースも用意している。そこで、スタッフにいくつかの展示を案内してもらった。なおNTT西日本では、LINKSPARK全体で50名ほどの専任スタッフを置いて運用していく考えだ。

「AI PORT」はAIの要素技術を知り、DXの理解を深めることができる展示。入力 / 中間処理 / 出力の各スペースに処理ブロックを配置することで、AIサービスの流れを簡易的に体験できる。

  • 入力にカメラ、出力にディスプレイの処理ブロックを配置するとカメラの映像がディスプレイに出力。そこで中間処理に「音声テキスト化」「英語 / 中国語翻訳」などのブロックを置くと...

  • 世のDXサービスの大半は、既に確立されたAI要素技術(物体検知、感情推定、音声認識など)の組み合わせで構成される。ここでAIサービスの一例を体験し、DX推進のヒントにしてもらう

データを可視化するデモには、プロ野球の広島東洋カープの勝敗結果が用いられていた。テーマは「いつ観戦に行けば、カープの勝ち試合が見られるのか」。たとえば直近3年間は、春先は勝率が高いけれど夏になると下がってくる、対戦相手が東京ヤクルトスワローズだと危ない、といった情報がグラフィックで分かりやすく表示された。条件を変えるとグラフが動的に変化するため、新たな気付きにもつながるとする。ここで担当者は「仕事終わり、マツダスタジアムまでナイトゲームを見に行くのであれば、阪神戦にしましょう」と結論づけた。NTT西日本では、このようなデータの可視化、その先にある予測方法、までをサポートする。

  • ビジネスインテリジェンスツールによるデータの可視化

ちなみにNTT西日本、廿日市市、中国地域創造研究センターの3者は2018年に連携協定を締結し、ICTの活用を通じて宮島観光を起点とした地域活性化を進めている。そこでデモでは、いくつかの導入事例が紹介された。たとえば、潮の満ち引き、天候などのオープンデータに、観光地に設置したAIカメラやセンサーで得られたデータをかけ合わせ、何か月先までの混雑を予測している。さらには観光客に新開発の「GPS連動音声ガイドアプリ」の利用を呼びかけ、宮島の名所旧跡へ周遊を促すだけでなく、新たな穴場スポットに誘客することにも成功、混雑のピークの分散にも役立てた。

  • 観光地の魅力を伝えるアプリを開発

  • アプリから得た情報から、人が滞留した場所をプロットしたヒートマップを作成。今後の観光施策につなげる

■中国・四国エリアのDX化に貢献

説明会に登壇したNTT西日本 代表取締役社長の森林正彰氏は、中国・四国エリアの状況について「DX推進に取り組んでいる企業は12.7%~16%ほどで、全国平均を下回っています」と報告。そのうえで、LINKSPARK広島を拠点にし、地域のDX化に貢献していきたい、と力をこめる。

  • NTT西日本 代表取締役社長の森林正彰氏

  • 中国・四国エリアのDX推進状況は、全国平均を下回る

現状では、どんなところに課題があるのだろうか。まず、デジタル人材が不足している。そして「DXで取り組むべきテーマの設定が分からない」、また「どんなICT環境でどんな準備をしていけば良いか分からない」といった声も聞かれている。そこで同社では、NTT西日本社内のデジタル人材に加え、パートナー企業との共創によりDXを推進していく。

  • NTT西日本のデジタル人材を駆使。また「DX化できずに困っている顧客」と「パートナー企業」を結ぶ役割も果たす

「中国・四国エリアには独特の文化があり、極めて多様な産業があります。これを活かした形でDXを進めていきたい。目標として、2025年度までに中国・四国エリアで500プロジェクトの立ち上げを目指します。パートナー企業と共創していくことで、結果的に我々のビジネスにもなり、お客様のDX化にも貢献する、ということを考えています」と説明する。

  • 2025年度までに中国・四国エリアで500プロジェクトの立ち上げを目指す

ちなみにLINKSPARK大阪がスタートしたのは2019年のこと。その後、2020年に名古屋、2021年に福岡でもスタートしたが、しばらくコロナ禍の状況が続いたために「思ったほど集客できなかった」と森林氏はいう。この3年間で、3拠点で実現できたプロジェクトは650件あまりとしている。

森林氏は「現場で働くエンジニアの方から、管理職のようなトップの方まで、様々な方に来ていただき、このような場でディスカッションしていただけたら」と話し、次のように続けた。「DXに向けて、まず何から始めれば良いのか分からない、という企業の方を歓迎します。気持ちさえあれば改善できる。それを、ここで見つけて欲しい。我々と一緒にテーマを設定し、まずは小さな改善からやっていきましょう。それを膨らましていくことで、DXを推進していけます。まずはお声がけいただければ」。

このあと、パートナー企業として登壇した広島経済同友会ものづくり委員会の向田光伸氏は「今後、LINKSPARK広島が地域のDX化に向けた良き相談相手となることを期待しています。人材育成、ユースケースの共有という側面でも、DX推進の一助となっていただけるでしょう。今後の展開を考えますと、私自身も非常にワクワクしています」、またSTNetの久米洋介氏は「LINKSPARK広島の開設は、地域の情報通信会社としても大変嬉しく、また心強く思っています。今後は両社の強みを活かしながら、ともに地域社会の課題解決、デジタル化に取り組んでいければ」と挨拶した。