アサヒビールは6日、2023年の事業方針説明会を開催。同社では、主力ブランドの「スーパードライ」「アサヒ生ビール」を伸ばしていくとともに、20代~の若年層に向けたビールの開発にも積極的な姿勢で取り組んでいく考えを示した。

  • 「スーパードライ」および「アサヒ生ビール」

2022年はビール類が大きく伸長

冒頭、登壇したアサヒビール代表取締役社長の塩澤賢一氏。まずは昨年(2022年)の市場動向を振り返り「ビール類が大きく伸長し、またコロナ禍で売上が落ちていた業務用市場も回復しました。ビール類市場として18年ぶりに前年を上回る見込みです」と報告する。

  • アサヒビール代表取締役社長の塩澤賢一氏(右)と、アサヒビール専務取締役マーケティング本部長の松山一雄氏(左)

アサヒビールとしては2022年2月、主力ブランドの「スーパードライ」について1987年の発売以来36年目にして初めてとなるフルリニューアルを実施。特徴の辛口はそのままに、キレの良さを追求しながら飲みごたえを向上した。

また開栓するときめ細かい泡が自然発生する「生ジョッキ缶」は生産体制を強化して2022年7月より通年発売とし、10月より「大生」も発売。このほか「アサヒ生ビール」ブランドには好調のマルエフに加え、新たに黒生をラインナップに追加した。塩澤社長は「結果として、スーパードライの販売数量は前年比113%、ビール類の売上金額でも前年比110%と大きく伸長できました」と手応えを口にする。

  • 2022年の総括。ビール類市場は2004年以来18年ぶりに前年を上回る

次に2023年の見通しについて。酒類市場では2023年10月に2度目の酒税改正が行われ、ビールは減税となる。これを受け、塩澤社長は「ビールへの回帰がさらに加速するものと思われます」との見方を示す。また、新ジャンルは増税して発泡酒と税額が同一となるが、RTD(Ready to Drink、栓を開けてそのまま飲める低アルコール飲料)の酒税は据え置きとなる。このことから「缶チューハイなどのRTDに関心が高まるのでは」(塩澤社長)とした。

  • 2023年の見通しについて。ビール回帰の流れが加速する?

そして、アサヒビールの2023年の事業方針については「ビールの魅力向上と新たな価値の創造に努め、当社のビジョンである”すべてのお客さまに、最高の明日を。”の実現に向けて取り組んでまいります。ビール市場では、スーパードライ、アサヒ生ビールに注力して、美味しさ、楽しさを体験できる機会を創出したい。またRTDでは複数の新ブランドをエリア限定で発売します。お客様の期待を超える商品を開発していければ」と説明した。

  • スーパードライ、アサヒ生ビールの2つのブランドに注力していく

  • ビール類以外の種類の取り組みについて。RTDでは新ブランドを開発、洋酒は「竹鶴」「余市」などのプレミアムレンジに注力する

2023年の取り組み

続いてアサヒビール専務取締役マーケティング本部長の松山一雄氏が登壇し、まずは昨年の市場動向について振り返った。松山氏によれば2022年2月~11月において、ビール購入者は市場全体で50万人も増えており、しかも同時期にスーパードライの購入者は90万人あまり増えている。このことから「フルリニューアルしたスーパードライが、ビール市場を牽引したのではないか」とアピールする。

  • スーパードライが市場を牽引。顧客が抱いているブランドの価値を可視化したグラフ(画像右下)も右肩上がりとなっている

ここ数年、スーパードライの購入者数は減少傾向にあったが、生ジョッキ缶の発売、フルリニューアルの実施により増加傾向にV字回復した。松山氏によれば2012年以来10年ぶりに購入者数が2,000万人超となったという。

  • スーパードライの購入者数

またアサヒ生ビールのマルエフについても、購入者数が1,218万人に拡大するなど好調に推移中。「家庭用と業務用を連動させることで、ぬくもりある世界観を醸成してきました」(松山氏)と説明する。

  • アサヒ生ビールについて

続いてアサヒビールの2023年の取り組みについて。同社では、酒税改正、ラグビーW杯2023フランス大会といった機会を最大限に活かしてブランド価値をさらに高めていきたい考え。松山氏は「たとえばラグビーW杯を活用して販促、広告活動を強化します。生ジョッキ缶による驚き、ワクワクも多くの人に伝えていきたい。工場できたてのうまさ実感パックの拡大、樽生品質の価値向上なども実施していきます」とし、複数の取り組みを統合的に継続的に行っていくと説明する。

  • アサヒビールの2023年の取り組み

  • スーパードライはラグビーW杯2023フランス大会のオフィシャルビールに選ばれている

アサヒ生ビールについては、家庭用に缶250mlを新発売する。また業務用に中瓶500mlを新発売し、顧客接点の拡大を目指す。

  • アサヒ生ビール(マルエフ・黒生)について

このほか、ビールカテゴリーに新セグメントを創造。若い世代に向けて開発した「アサヒ ホワイトビール」「アサヒ ヨルビール」「ユルユルエ~ル」を展開することで、飲用シーンの拡大、若年層需要の拡大を目指す。松山氏は「すでにお客様からは、ビールらしくない、アサヒビールらしくない、というある種のお褒めの言葉もいただいています。これで終わらず、第2弾、第3弾にも取り組んでいければ」と意欲をみせる。

  • ビールカテゴリーの新セグメント

お酒を飲む人も飲めない人も一緒に楽しめる社会の実現に向けて立ち上げた「スマドリ」の取り組みも積極的に進めていく。渋谷センター街には2022年6月30日に、お酒を飲めない人も楽しめるバー「スマドリバー渋谷」をオープンさせたが、「まだまだ世間の認知が不十分だと感じています。今後、5年、10年をかけて社会に浸透させていきたい」と松山氏。2025年までにスマドリ認知率40%を目指す、と説明した。

  • スマドリの取り組み。吉本興業とのコラボも決まっている

ブランドの淘汰を予想

最後に質疑応答の時間がもうけられ、塩澤社長、松山氏が記者団の質問に回答した。

アサヒビールでは2029年に全工場でカーボンネガティブを実現することを目指している。そこで同社のサステナビリティの取り組みについて聞かれると、塩澤社長は「もともと我々は、ビールの製造過程で生じる炭酸ガスを使って三ツ矢サイダーを作るなど、サステナビリティにも積極的に取り組んできました。いま全国に6つの工場を持っていますが、その中でモデルとなる鳥栖工場では、煮沸時間はどうあるべきか、など製造過程から変えていこうとしています。もちろん再生エネルギーも使っていきます。今後、鳥栖で実現できたものを水平展開していく考えです」と説明する。

  • サステナビリティの取り組み

発泡酒、新ジャンルは今後、どうなっていくのだろうか。これについて塩澤社長は「この2つのカテゴリは2023年秋の酒税改正で税率が一緒になり、その後、2026年にはビールの税率とも統一されます。弊社でもこれまで新ジャンルの商品を開発してきましたが、今後は逆風が吹き、そこまで多くのブランド数は要らなくなるのでは、発売しても店舗の棚に置いてもらえなくなるのでは、と予想しています。かつて1980年代の後半、ビールカテゴリには数え切れないくらいの新商品が出ましたが、現在は定番商品しか残っていません。それを考えると、発泡酒、新ジャンルも相当数のブランドが淘汰されていくのではないでしょうか」との見方を示す。

では、アサヒビールが注力する商品は?これについて、松山氏は「発泡酒については、過去最高の売上を2年連続で更新している糖質ゼロの『アサヒ スタイルフリー』をしっかりやっていきます。新ジャンルのカテゴリでは、プリン体ゼロ、糖質ゼロの『アサヒ オフ』という商品がございます。また『クリアアサヒ』『アサヒ ザ・リッチ』という2つのブランドにも注力していきます」と説明した。