年々、社会におけるスタートアップの存在感が高まっており、「2022年はスタートアップ創出元年」という言葉もしばしば聞かれる。

2022年12月15日、ビズリーチと慶應義塾がスタートアップ創出に向けた連携協定を締結した。

本連携を通じ、両者は世界を変革する可能性を秘めた研究成果を持つ研究者と、起業をリードする経営プロ人材をマッチングする「慶應版 EIR(客員起業家)モデル」を構築することで、グローバルに活躍できるディープテックスタートアップの起業を推進する。

  • 左:慶應義塾 塾長 伊藤公平氏、右:ビズリーチ 創業者 南壮一郎氏

存在感を増す大学発スタートアップ

少子高齢化をはじめ「課題先進国」ともいえる日本において、スタートアップの存在感は年々高まっている。それを裏づけるように、国内スタートアップの資金調達額は、2021年までの8年間で9倍に増加している。

中でも大学発のスタートアップは、ディープテック(科学的な発見や革新的な技術に基づいて、社会に大きなインパクトをもたらす技術)領域を含む、先端技術などを事業化する研究成果スタートアップが半数以上を占めている。また、世界共通の社会課題の課題を目指したものが多いことから、世界レベルで社会に大きなインパクトをもたらすイノベーションの担い手として期待されている。

実際に、国内における2021年の大学発スタートアップの資金調達額は、スタートアップ全体の資金調達額の14%を占めており、スタートアップ創出に欠かせない存在となっている。

一方、国内の大学発スタートアップの設立数は、2015年以降増加傾向にあるものの、2016~2020年の日本の大学発スタートアップ設立数は、米国の2割程度にとどまっているのが現状だ。

  • ビズリーチ 創業者 南壮一郎氏

こうした現状に対して、ビズリーチ創業者 南壮一郎氏は「アメリカとの差は大きな伸びしろであり、機会と捉えている。今回の連携協定を通じて、新たな価値を、新たな仕組みを日本のスタートアップ創出元年に合わせてスタートさせたい」と語る。

大学発スタートアップ起業における「ヒト」のボトルネック解消へ

大学発スタートアップをさらに活発化するには、経営の3要素である「ヒト・モノ・カネ」の支援が欠かせない。ところが、大学発スタートアップの起業に際しては「ヒト」の要素が依然として大きな課題になっている。

たとえ世界を変革する可能性を秘めた研究成果を持つ研究者であっても、研究者は「経営のプロ」ではないからだ。そのため、企業にあたっては研究者に伴走し起業をリードする「経営プロ人材」が必要となるが、研究者が起業のパートナーとなる「経営プロ人材」を見つけるのは容易ではないという現実がある。

今回、こうした「ヒト」のボトルネックを解消するために、170万人のプロフェッショナル人材が登録するビズリーチが慶應義塾と連携協定を締結。両者のリソースを掛け合わせることで、世界レベルのディープテックスタートアップ創出を目指す。

本連携はビズリーチのSDGs達成に向けたサステナビリティプログラム「みらい投資プロジェクト」の一環で、特にプロフェッショナル人材の力を必要とする領域を中心に、社会の課題解決を通じてより良い未来の実現を目指すものだ。

起業を目指す研究者と客員起業家をマッチング

ビズリーチと慶應義塾の連携によって始動したのが、「慶應版 EIR(客員起業家)モデル」だ。ビズリーチの人財活用プラットフォーム「HRMOS(ハーモス)」を活用し、副業・兼業の客員起業家のデータベース化を実現。起業を目指す研究者と客員起業家のマッチングを可能にする。

ここでいう「客員起業家」とは、研究者に伴走しながら起業を目指す経営プロ人材。起業経験者や新規事業立ち上げ経験者など、「0→1」フェーズに必要な事業計画策定、マーケティング、ファイナンス等のスキルを持ち、企業の際は経営者(CEO/COO)のポジションを担うことが想定されている。

ビズリーチ会員を対象とした調査では、「大学発ベンチャーに興味がある」と回答した人は69.3%にのぼっており、勤務形態は「副業・兼業」を希望する人が最多の45.8%を占めた。

「客員起業家」の勤務形態を副業・兼業とすることで、経営プロ人材は転職することなく、社会貢献性の高い大学発シーズに起業前から関わることができる。それを可能にする「慶應版 EIR(客員起業家)モデル」は、研究成果の事業化を目指す研究者はもちろん、自身の可能性を広げたいプロフェッショナル人材にとってもメリットの大きいスキームとなるだろう。

南氏は「今回の新しいモデルを通じて、日本経済に元気を与えるとともに、日本のプロフェッショナル人材により多くの選択肢と可能性を提供していきたい」と意気込む。

「慶應版 EIR(客員起業家)モデル」の第1弾として、12月15日、「ナノカーボンを用いた新しい集積光(ナノカーボン光源)デバイス」の世界初の実用化を目指す、慶應義塾大学理工学部物理情報工学科の牧英之教授とともに起業を目指す客員起業家の募集を開始した。

ビズリーチは、今回の慶應義塾との取り組みをモデルケースとして、他大学への展開も視野に入れているという。

スタートアップ創出へ、本格支援に乗り出した慶應義塾

近年、大学発のスタートアップが大きな潮流となっている中でも、目立った存在感を発揮しているのが慶應義塾だ。2020年から2021年にかけての慶應発スタートアップ企業増加数は国内第1位。2022年上半期の大学発スタートアップにおける大学別資金調達額割合は、22.8%を占めて第1位となっている。

創設の経緯や歴史から見てもスタートアップは慶應義塾の「伝統」であり、慶應発のスタートアップは、社会的に大きなテーマを扱う企業が多いのが特徴だ。「教育」や「研究」に加えて、大学に「社会貢献」の要素が求められる中、慶應義塾は本格的なスタートアップの創出・成長支援に乗り出した。

本連携に先立って、2021年11月、イノベーション推進本部にスタートアップ部門を設立。実務家教員からなるチームが、ワンストップでスタートアップの創出・成長支援に取り組んできた。

  • 慶應義塾 塾長 伊藤公平氏

今回のビズリーチとの連携は、こうした取り組みをさらに一歩先へと進めるものになるだろう。慶應義塾 塾長 伊藤公平氏は、「本協定を通じたスタートアップ創出の支援により、世界レベルで切り拓いてきた最先端の学問を社会実装することで、社会の発展を加速させたい」と期待を寄せる。

慶應義塾は、スタートアップ創出支援の強化により、2026年までに300社のスタートアップ創出を目指している。また、ビズリーチは「慶應義塾との取り組みをモデルケースとして、他大学への展開を目指す」としており、「EIR(客員起業家)モデル」の今後の展開にも注目だ。