■イギリス・ウエストエンドで出会ったミュージカルの世界
――そもそもミュージカルに興味を持ったのはいつ頃からですか?
父の転勤でイギリスに住んでいた2歳のときに、両親に連れられてウエストエンドでミュージカル『ライオンキング』を観たのが始まりです。そもそも歌うことや踊ることが好きな子供だったので、大好きなもの・ことが詰め込まれているミュージカルに出会ってしまって、それ以降は、弟を巻き込んで家でもずっとミュージカルごっこをするくらいハマってしまいました。
――幼少期の夢とかって変わったりすることが多いと思うんですが、熊谷さんは最初に抱いた夢を実現されたんですね。
幸せなことに夢を叶えることができました。幼稚園の卒業文集にも、ミュージカル女優と書いていましたね……。あと、小学生のときは自分で台本を書いて、お昼休みに友達と昇降口でミュージカルを上演していました! 今思うとすごく変わった子だったなと思います(笑)。でも、ありがたいことに周りの子もみんなミュージカルに興味を持ってくれて、夏休みとかに一緒に観劇したりしていました。完全に私が巻き込んだ形です(笑)。私が今のお仕事を始めてからも、みんな全作品を観に来てくれていて、そのうちの1人はカーテンコールで毎回泣いちゃうんです(笑)。小学校の昇降口でやっていたことがお仕事になっている私の姿を見て、感動してくれています。親心ですね(笑)。
■人生に大きな影響を与えた海外生活「大反対でしたが…」
――意外と行動的な幼少期だったんですね! 明確に仕事として女優をすると決心したタイミングは覚えていますか?
2、3回ありました。初めてプロの舞台に立ったのが劇団四季の『サウンドオブミュージック』で11歳のときでした。そこで初めてプロの厳しさを目の当たりにして、泣いたり悔しい思いもたくさんしましたが、ステージに上がるとやっぱり楽しくて。そこで本気でこの世界でやっていきたいと思いました。ただ、その後に父の転勤でマレーシアに行くことになってしまったんです。私はミュージカルを続けたかったので、大反対でしたが、当時の恩師に「本当に俳優をやりたいなら、色んな世界を自分の目で見て体験してくることが大事」という言葉をかけてもらって、心を決めました。
――かなり難しい選択ですね。マレーシアでの生活は実際どうでしたか?
大好きすぎて今度は逆に帰りたくなくなっちゃいました(笑)。今まで見たことのない新しい世界で、そのときの経験が今でも活きているなと『リトル・ゾンビガール』で強く感じました。
マレーシアでできた親友はイスラム教徒のイエメン人の女の子なんですが、その子は日本のアニメが大好きでした。AKB48さんが大好きなインドネシアの部族の子もいました。日本にいたら出会うことのなかったかもしれない人たちと出会えて、“人間はみんな一緒で、大事なのは中身なんだ”と気付くことができました
――中学生でその経験をするのは貴重ですね。そして日本に帰国されてからは、またミュージカルの世界を目指すと。
帰国してから中学3年生で声楽を始めましたが、実は進路に悩んでいたんです。周りは受験に向けて勉強している中で、私はいいんだろうかと考えてしまって。でもそのときに出場したコンクールで優勝できて。その審査員の方に、「君はこのまままっすぐ進んでいってほしい」と言っていただけて、背中を押してもらいました。それでも、高校に進学してからも不安で、この仕事はなりたくてなれるものじゃないですし、毎晩のように泣いている時期もありました。
高校2年のときに、『レ・ミゼラブル』のオーディションに合格して、最大の転機を迎えたと思います。おかげさまで今もこうして好きな世界で生きているので、周りに恵まれていると思いますし、本当にありがたいです。
■ミュージカルを飛び出し、映像作品にも意欲
――では最後に、今年も残りわずかとなりましたが、やり残したこと、またこれからやりたいことはありますか?
先ほどからお話しを聞いていただいていて、お分かりの通り、私はやりたいと思ったら即行動する人間なので、やり残したことは本当にないんですよね……。強いて言えば、大掃除ですかね~。やっていないのはやりたいと思っていないからなんですけど(笑)。やらないと! と思いながら、ついつい後回しになってしまっています。
やりたいことは、これからも演じ続けること。私にとって“演じる”ことはいちばんの楽しみで、生きがいなので、やったことのある役ももちろん、今作のような新しい役やジャンルも幅広く演じたいです。自分の中にその要素がない役こそ、やってみたいですね。演じることで自分の中の要素を引っ張り上げて、新しい自分を見つけていきたいです。ミュージカルだけでなく、映像でのお芝居や海外作品への出演などまだまだ挑戦していきたいです。
■熊谷彩春
2000年4月2日生まれ。千葉県出身。2019年にミュージカル『レ・ミゼラブル』のコゼット役に史上最年少で抜擢され、2021年に上演された同作にコゼット役で再度出演した。ミュージカル『魍魎の匣』(21)や、ミュージカル『笑う男 The Eternal Love -永遠の愛-』(22)になどミュージカルを中心に活動し、NHKみんなのうたミュージカル『リトル・ゾンビガール』(22)では主演も務めた。ミュージカル『東京ラブストーリー』に海キャスト・関口さとみ役で出演。東京公演は11月27日から東京建物 Brillia HALL、大阪公演は12月23日から大阪・梅田芸術劇場シアター ドラマシティ、愛知公演は2023年1月14日に刈谷市総合文化センターアイリス 大ホール、広島公演は2023年1月21日・22日にJMSアステールプラザ大ホールで上演される。