「毒」という、なんとも刺激的なタイトルの特別展が、国立科学博物館で開催されています。各研究分野のスペシャリストが、「毒」について徹底的に掘り下げ、“科博”ならではの視点で解説する展覧会。そこには、怖いのになぜか惹かれてしまう「毒」の奥深い世界が広がっていました。

  • 「毒とはいったい何だろう、人間はなぜ毒に魅せられるのだろう」を問いかける、科博初となるテーマの展覧会。科博ならではの視点で、毒を徹底的に掘り下げる

「毒とはいったい何だろう、なぜ存在するのだろう、人間はなぜ毒に魅せられるのだろう」を問いかける、科博初となるテーマの展覧会。暮らしの中の身近な毒から、生物・植物・菌類・鉱物などが持つ毒、毒が招いた進化、そして毒の人類史まで、動物学、植物学、地学、人類学、理工学の各分野にまたがり、250点以上の展示を通して、「毒」を徹底的に掘り下げています。

ひとことで「毒」といっても、人体に有用であっても取り過ぎると毒になるものや、アレルギー反応のように一部の人にとって毒となるもの、また、攻撃するための毒もあれば、防御のための毒もあります。スイスの医学者パラケルススは、「あらゆる物質は毒である。毒になるか薬になるかは、用量によるのだ」という言葉を残したそう。

  • 【写真】ひときわ目を惹く、オオスズメバチとハブ、イラガの幼虫の3体の巨大な拡大模型。「攻めの毒」と「守りの毒」それぞれの毒を持つ生物が実物の30~70倍のスケールで並んで圧巻の迫力!

    手前がオオスズメバチとハブの巨大な模型。カッと口を開けたハブの迫力がすごい

会場でひときわ目を惹くのが、オオスズメバチとハブ、そしてイラガの幼虫の3体と、イラクサの巨大な拡大模型。捕食などの「攻めの毒」と、外敵から身を「守る毒」、それぞれの毒を持つ生物が実物の30~70倍のスケールで並んで圧巻の迫力!

  • 約100倍の大きさの、イラガの幼虫の拡大模型。外敵から身を守るために、危険を感じた時に毒とその注入器を利用し、捕食に使用することはない

展示の見せ方、情報の伝え方にも、さまざまな趣向が凝らされています。たとえば声優の中村悠一さんによる「音声ガイド」が、各章のテーマごとに詳しくナビゲート。展示物やパネルを見ながら、耳からはイケボな解説が入ってくるので、「毒」への理解がいっそう深まります。

  • オフィシャルサポーターを務める伊沢拓司さんは「自分から摂取したいものではないにせよ、どこか蠱惑的な、危ないのに惹かれてしまう魔力があります」と語る

また、クイズ王・伊沢拓司さん率いるQuizKnockから様々な「毒クイズ」が出題され、難解なトピックスも素通せずに興味を引くような工夫があちこちにされています。

  • 多様なスズメバチたち

筆者に特に強烈な印象を残したのが「ハチ毒」の、“どのハチに刺されるのが一番痛いのか”を数値化した「シュミット指数」。たとえばレベル2のハニービーに刺されたときの痛みは「焼かれるような、蝕まれるような痛みだが、どうにか耐えられる。燃えたマッチ棒が落ちてきてやけどした腕に、まず苛性ソーダをかけ、次に硫酸をかけたような」痛み。

  • 読むだけで痛みが走りそうな解説文に加えて、音声ガイドのイケボ解説が、エア激痛に追い打ちをかけてくる

レベル4の、世界最大級のタランチュラホークに刺された痛みになると、「目がくらむほど凄まじい電撃的な痛み。泡風呂に入浴中、通電しているヘアドライヤーを浴槽に投げ込まれて感電したみたいだ」そうで、激痛が伝わる凄まじい描写です。 実際にハチに刺されて痛みを相対的に数値化したこの研究で、ジャスティン・シュミット博士はイグノーベル賞を受賞したそうです。

  • 毒きのこは、痙攣、腹痛・下痢、幻覚、悪酔い、細胞破壊など、症状も多様で恐ろしい

また、人間に身近な毒といえば「きのこ」ですが、私たちのきのこに関する豆知識のほとんどは、迷信かもしれません。「派手な色のきのこは毒きのこ」だとか、「縦に割くことができるきのこは食用」だとか、これ全部ウソ、迷信なんですって。

  • 特別展「毒」の監修統括をつとめる、細矢剛先生(国立科学博物館 植物研究部長)

それでは、毒きのこと食用きのこを見分ける方法はあるのでしょうか? この問いには、「ない」というのが正しい答え。“数あるきのこの中でもトップレベルで派手といえるタマゴタケは、食用で美味しい”のだそうです。

  • 植物が出すラテックスが原料の天然ゴムはタイヤや輪ゴムなどに利用され、今や欠かすことのできない存在

狩猟や戦、処刑や暗殺など、古代から現代にいたるまで、さまざまな場面と用途で使われてきた「毒」。そして、毒を研究して「薬」を生み出すなど、毒を操り巧みに利用してきたのが、私たち人間だということ。この世界に存在するさまざまな「毒」を知り、あらためてその怖さと不思議さ、そして面白さをじっくりと味わえる、見どころだらけの展覧会でした。

  • 物販コーナーには、「毒」にまつわるさまざまな書籍がずらり

なお物販コーナーには、「毒」にまつわる書籍の豊富なラインナップに加えて、キュートな「ベニテングタケぬいぐるみ(税抜2,640円)」や、毒のある生物を細かい部分まで再現した「カプセルトイ ピンバッチ (500円/全7種)」など、力作ぞろいのオリジナルグッズも充実しているので、ぜひさまざまな角度から隅々まで、「毒」の世界を探求してみてください。

  • これ欲しい! 「マルマン 塗り絵付スケッチブック」税抜748円

  • ボツリヌス菌のイラストでデザインされたバッチやバッグも!

■information
国立科学博物館 特別展「毒」
期間:2023年2月19日まで/9時~17時
料金:一般・大学生:2,000円、小・中・高校生:600円
東京都台東区上野公園7-20