日本テレビ系ドキュメンタリー番組『NNNドキュメント’22』(毎週日曜24:55~)で、23日に放送される『ワタシからボクになる~元女子プロレスラーの覚悟 密着600日~』。「花月」のリングネームで活躍した元女子プロレスラー・石野由加莉さんが、悔いなく生きるため性別適合手術を決意し、男性「石野結(ゆう)」となって第二の人生を歩む姿を追った作品だ。

従来のトランスジェンダー(=心と体の性が一致していない人)を取材したドキュメンタリーは、“社会がどう受け入れるのか”といった切り口が多いが、今回の番組はそこから一歩進み、1人の人間が男性になるという希望をかなえたことで、前に進んでいく様子が描かれている。

密着したのは、難波裕介ディレクター(テレビ東京制作)。手術を受ける決断の背景にあった盟友・木村花さんへの思いを通して見えたこと、そして、石野さんの姿から伝えたいことなどを聞いた――。

  • ヒールレスラー「花月」として活躍していた石野さん (C)NTV

    ヒールレスラー「花月」として活躍していた石野さん (C)NTV

■天性の明るさで愛される存在

プロレス界に人脈のある知人に紹介されて石野さんに出会った難波D。「Tシャツに短パン姿で、かわいらしさも覗く少年のような方だなと思いました」と、当時の印象を語る。

紹介されたのは、石野さんが性別を変えるという行動を発信することで、同じような悩みを持った人たちの力になりたいという思いから。難波Dは「何か強いものを秘めているのを感じて、非常に興味がわきました」と、密着を開始した。

石野さんが男性になりたい動機は「もっとカッコよくなりたい」「モテたい」という純粋なもの。その背景には、「幼少時代から人知れずコンプレックスを抱いていたと思うのですが、プロレスと出会って発散し、カッコよさを見せる喜びを味わったことが、石野さんの中の“男性”というものの美学になっている気がします」と想像した。

そんな石野さんから感じるのは、天性の明るさだ。魅力的な性格で、仕事場ではカミングアウトしても変わらず溶け込み、「上司も先輩も、石野さんを“光が差し込むような存在”と言って愛されているんです」とのことで、その明るさは取材を通して両親譲りだと知った。

トランスジェンダーの人を追ったドキュメンタリーでは、家族の葛藤が描かれることも多いが、石野さんの場合は最初から理解があり、密着取材も受け入れてくれた。男性になった石野さんの新たな名前を両親が命名するという微笑ましい場面も登場するが、「石野さんは、自分のお父さんとお母さんの家庭が理想で尊敬しているので、そんなご両親から第二の人生を頂いたと思って、命名をお願いしたそうです。親御さんも、新たに息子が生まれたと思って名前を付けたそうで、すごく親子愛を感じました」と話す。

  • 男性になったことを家族でお祝い (C)NTV

■花さんの分まで自分が悔いなく生きていく

番組の中で大きな要素として描かれるのが、女子プロレス時代の仲間・木村花さんへの思い。SNSでの誹謗中傷の果てに自ら命を絶った彼女の追悼試合に出場するが、それを決断するには相当な覚悟があったという。

「プロレスを辞めてからは、その世界から離れてひっそり暮らそうという固い決意があったんです。辞めて1年経った頃に、花さんの母親の木村響子さんから追悼試合のオファーが来たのですが、再びリングに上がるとなるとブランクがあるので、体を作らなければならない。“出場するからには、花の前で恥ずかし試合はできない”という思いがあって、非常に悩んだそうです」

それでも、亡き盟友のために出場を決意。これが、性別適合手術を受ける後押しにもなった。

「受ける計画はずっとあったのだと思いますが、女性として生きづらいという思いがある中で、花さんの死というものに、期するものがあったようです。石野さんは“悔いなく生きたい”をモットーにしているのですが、花さんは悔いを残したのではないか。だからこそ、花さんの分まで自分が悔いなく生きていくんだという思いで、そのためにちゃんと性別を変えて、自分らしく生きていこうと決断されました」

「花さんの追悼試合までの1カ月間は、減量や体作りで相当きつかったらしいんですけど、それを支えたのは試合の1週間後の手術で、自分が男性になれるんだという希望だったんです。花さんのためにも、自分のためにも頑張った試合だったんですね。試合では結構打たれまくって体がボロボロだったんですけど、翌日にお会いしたら笑ってるんです。『昨日までは花のためだったけど、今度は自分の人生のためのステージなんで、楽しみです』とおっしゃっていたのが印象的でした」