円安や物価上昇など、お金に関する心配が絶えない昨今。たくさんの情報に振り回され、「焦り」を感じる人も多いだろう。一方で、環境問題など地球上で起きる様々な問題と向き合いながら、「豊かな暮らし」の在り方について考えさせられる時代でもある。では、本当の意味での「豊かな暮らし」とは何なのか。

この8月に『都会を出て田舎で0円生活はじめました』を出版した田村余一さん・ゆにさん夫婦は、青森の田舎で自給自足生活をしている。廃材などを再利用してセルフビルドした自宅に、電気もガスも水道も契約せずに、親子3人で暮らしている。

お金のために働くのではなく、生きるために働く丁寧な暮らし。そんな生活の中で絆を深め幸せな家庭を築いている田村ご夫婦に、田舎暮らしの魅力を聞いた。

  • 田村余一・ゆに夫妻とお子さん

■自給自足、田舎で暮らすという選択

都心から離れ、自給自足での暮らしをスタートさせたい……そんな風に考えるようになったのは、夫・余一さんの辛く苦しい経験がきっかけだったという。

余一さん「高校生の頃に読んだ漫画をきっかけに、環境問題に興味を持つようになりました。人間よりも高い知能を持った謎の生命体が来て、増えすぎた人間が減らされていくというストーリー展開に衝撃を受けたんです。その後、大学に進学して、人並みに遊んだり、働いたりという生活を送っていましたが、色々なストレスを感じるようになって……自然環境だけではなく自分までもが破壊されていくような感覚に陥って、生きることが辛いと思うようにまでなったんです。」

死ぬことを覚悟して富士山を訪れた余一さんだが、いざ死を目の前にすると、今までの出来事が走馬灯のように思い浮かんだという。死ぬことを踏みとどまり、生きることへシフトできたのは、ある記憶が蘇ってきたからだ。

余一さん「大学生の頃、お世話になった学務課の職員さんが踊りを見せてくれたんです。それはもう自由な舞踏で、何か人間の根源的なものを表現するような踊りでした。見せてもらった当時は、自分がやってみたいなんて考えたこともありませんでしたが、死のうとしたら、思い出されるのがその踊りだったんです。生きる選択をして、自分の抱える色々な感情を踊りで表現していこうと思ったきっかけになりました。」

思いもよらぬ記憶が余一さんの命を救い、踊りを通して自分を表現することに目覚めるようになったそうだ。

余一さん「僕の踊りは、全てオリジナルにこだわりました。踊るためには体が資本なので、自分の体を大切にしたいと思うようになってきたんです。この頃から、食べるものにこだわったり、自然環境を大切にしたりする暮らしへ目を向けるようになり、田舎での暮らしにゆっくりと移行していくようになりました。」

  • 田村余一さん

■生活費0円で送るハイブリットな田舎生活

こうして田舎暮らしへと導かれた余一さんだが、本格的に田舎暮らしを始めたのは10年ほど前のこと。とにかく、お金のかからない生活にこだわり、自給自足の生活を始めたという。

ガス・電気・水道を契約せず、トイレットペーパーも買わない徹底ぶりだ。用を足したら葉っぱで拭くというのも、なんとも原始的な環境。さらに自宅まで、廃材でセルフビルドしたという。

余一さん「とにかくお金をかけない生活をしようと思いました。自給自足して、ライフラインを契約しない生活です。でも家は欲しい。そう思ったら、自分で建てればいいんだと思ったんです。父親が大工なので、父にできるなら、自分にもできるかもしれないという考えもあって、解体した家屋などから、まだ使える木材などをもらって家を作りました。タダでもらったものだし、失敗しても大丈夫だと思えたので、伸び伸びと家づくりできたと思います。」

  • なんでも自分で手作りしてしまう余一さん。トイレも余一さん自作のコンポストトイレ。トイレットペーパーはキウイの葉っぱ!

自給自足にこだわる田村家だが、全てが原始的な生活ということではない。ご近所さんのお悩みを解決してまわる御用聞屋(ごようききや)の仕事をして収入を得ながら、必要だと思う電化製品は生活に取り入れている。

余一さん「洗濯機やミニ冷蔵庫などの他にも、スマートフォンやパソコンなども使っています。このような家電の電力は、全てソーラーパネルでまかなっています。4歳になる息子は、スマホで動画を見たりもします。スーパーに買い物に行くこともありますし、生活をする中で都合が悪いなと思うことがあれば、夫婦で話し合いながら改善しているので、今の生活で不便だと思うことはあまり無いですね。」

では、余一さんが、ここまで一生懸命になれるのはなぜなのか。次回は、その思いについて語っていただく。

  • 野菜や鶏を育てたり、野草をつんできたりと自給自足の食生活だが、必要に応じてスーパーも利用する

『都会を出て田舎で0円生活はじめました』(田村余一、田村ゆに 著/サンクチュアリ・パブリッシング 刊)

電気・水道・ガスの契約なし! 電源はソーラーパネル、自宅は廃材で建築、トイレットペーパーはキウイの葉っぱ! 青森の田舎で3人で暮らす自給自足家族の日常を一冊の本にしました。電源を求めて太陽を追いかけてみたり、どんどん増えるミントハーブと戦ったり、ご近所さんのお悩みを解決してまわる御用聞屋(ごようききや)の仕事で幸せな人生について考えたりと、都会の喧騒から離れた田舎暮しが疑似体験できる本です。かといって原始的な生活をしているわけでもなく、車を乗り回し、スマホやタブレットを持ち、SNSを使いこなしているまさにハイブリットな自給自足生活は、暮らしや生き方のヒントが沢山詰まった一冊となっています。