俳優の吉沢亮が主演するフジテレビ系ドラマ『PICU 小児集中治療室』(毎週月曜21:00~)が、10日にスタートした。駆け出しの小児科医・志子田武四郎(吉沢)が先輩医師・植野元(安田顕)と共に、どんな子どもでも受け入れられるPICU(=小児専門の集中治療室)を作るため、そして、1秒でも早く搬送できる医療用ジェット機の運用を実現するために奔走する姿を描く作品だが、初回では幼い命をめぐる痛ましいシーンが2度も登場し、SNSでは「初回からこんなにつらいなんて」「フィクションでもしんどい」「言葉が出ない…」と衝撃が走った。

そうした反応も覚悟していたという金城綾香プロデューサーは、「医師たちが現実をどう受け止めて頑張っていくのかを見せたい」と、このシーンに込めた思いを語る――。

(※以下に第1話のネタバレがあります)

  • 『PICU 小児集中治療室』に出演する安田顕(左)と吉沢亮 (C)フジテレビ

    『PICU 小児集中治療室』に出演する安田顕(左)と吉沢亮 (C)フジテレビ

■PICUのパイオニアと対面「これはドラマにするべきだ」

このドラマを制作することになったきっかけは、金城Pが担当していた『グッド・ドクター』(18年)で医療監修をしていた杏林大学医学部の浮山越史教授からの提案。「とても素晴らしい『グッド・ドクター』という韓国ドラマのリメイク作品だったので、次はオリジナルで小児医療をテーマにした作品を作りたいと思っていたんです。その取っ掛かりを探していたときに、浮山先生から『PICUをドラマにしてみてはどうか』と言っていただきました」という。

コロナ禍になる前の2019年、浮山教授に誘われて小児救急外科の学会に参加し、その懇親会で、安田顕演じる植野のモデルとなった日本のPICUのパイオニアの一人である埼玉県立小児医療センター小児救命救急センター長の植田育也医師と対面。日本の小児医療業界が置かれている環境の厳しさや、日々困難に立ち向かう医療従事者の人々の話を聞き、「これはドラマにするべきだ」と決心した。植田医師は、今作でPICU担当の医療監修として参加している。

ドラマを作るにあたって、主人公のモデルを植田医師でなく、経験の浅い小児科医に設定したのはなぜか。

「ある程度リアルをベースにすると、やはりその現場を伝えるのが一番衝撃があり、ドラマはドキュメンタリーに勝てないところがあると思っているので、ここはドラマの中に物語を持たせたいというのが1つ。それと、資格を取って医者にはなったものの、PICUが何なのかよく分かっておらず、その後の人生がどうなるのか全く想像がついていないような若者が主役になったほうが、彼の目線でいろいろなことが描くことができ、単にPICUの再現ドラマにはならないと考えました」

  • (C)フジテレビ

■実際のPICUでは日々、子どもの死と直面している

第1話では、冒頭でドラマ撮影中の子役が、そして終盤で救急搬送されてきた女の子が命を落とすという場面が登場した。日本の地上波GP帯連続ドラマで、子どもが亡くなるという衝撃的な展開が1話の中で2回も描かれることは異例と言えるが、PICUをテーマにした作品の初回だからこそ、欠かすことはできなかった。

「放送後に、あまりにも痛ましすぎるというお声を頂くのではないかとも思いました。2人も亡くなるというのはドラマだとすごく激烈に見えますけど、いろいろ取材させていただくと、実際のPICUでは日々、子どもの死と直面されています。手を尽くしても亡くなったり、脳死状態になるお子さんがいらっしゃる。そうした中で、植田先生の言葉ですごく印象的だったのが『子どもたちには、僕たちのことなんか全然覚えていなくていい。PICUに入ったことすら忘れてほしい』というもの。病気で苦しくてつらかったことを忘れて元気になってもらうのが一番だけど、亡くなってしまうと、その子たちはそこで止まってしまう。だからこそ、PICUの先生たちは、亡くなってしまった子のことは決して忘れないようにしようという気持ちがあると伺ったんです。

たしかに、命が助かるシーンで、ドラマに救いを求めるということもあると思いますが、いいことばかりを描くより、子どもが亡くなってしまった現実を、医師たちがどう受け止めて頑張っていくのかを見せたい。第1話で亡くなった2人のお子さんのことが、登場人物全員の頭の中にあって、それからどんな患者さんに対しても一生懸命向き合う医師の礎のように見えてくるのではないかと。

ある先生が、『亡くなってしまった小さなお子さんたちに、生まれてきた意味がなかったということはない。ご遺族はそういう気持ちにすぐはなれないかもしれないですが、自分たちが医師を続けていくために、また、別の子どもたちが助かるために、彼らは大切なものを残してくれたんだと思うようにしている』とおっしゃっていたんです。そういうケースにほとんど立ち会うことがなかった志子田先生が、視聴者の皆さんと一緒に経験していくというのが、いいのではないかと考えました」

  • 懸命に治療する植野(安田顕/中央)ら

  • ミーティングで思いを述べる志子田(吉沢亮)

  • (C)フジテレビ

第1話で女の子が亡くなった後のミーティングで、「なんで何もなかったように、淡々と話せるんですか…? おかしくないですか、人が1人、死んじゃったんですよ…」と涙で訴える志子田に対し、植野が「僕たちは経験を自分たちの血と肉にするために話すんです、分析するんです」と説く場面は、その狙いを象徴するシーンだった。