本作のように「声から役を作っていくことは普段の演技ではあまりない」とのことだが、映画『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~』(2020)では声から役を作ったという。「監督の成島出さんから『もっと声を低くしてほしい』とか『日本の昔の女優さんの声を出してほしい』という話があり、そのときにこんなに喉の奥の空間を使って出す声なのだと知りました」

そこから声への意識が変わり、「自分の声に興味を持ち始めました」と明かす。「それまでもボイストレーニングはやっていましたがどこか本腰ではなくて。そこから自分の体はどういう声が出るのか、興味を持って突き詰めるようになったので、そういった経験を持った上で『僕愛』を演じられたことは有難かったです」

昔の女優の声というのは、全体的なイメージとしてだけでなく、高峰秀子さんや原節子さんなど、具体的に昭和の大女優を参考に。その挑戦によって声の幅を広げることができたという。

「現代の人というか、特に私は空間が狭くて声が前にいってしまうクセがあり、奥行きがなかったり、響きがなかったり、低音が出せなかったり、声の範囲が狭かったので、イメージした声にたどり着くのが難しかったですが、そこから声の幅が広がりました」

その経験は、主人公・渋沢栄一の妻・千代を演じた昨年の大河ドラマ『青天を衝け』、そして『僕愛』にも生きたという。

「大河ドラマでは幼少期から40代まで演じ、見た目だけでなく声も年齢を重ねていかなければならなくて、ここでも昔の女優さんの声を練習したのが役立ちました。重心が低く、響きのある落ち着いた声を意識し、なんとか乗り越えました。今回の和音さんも38歳まで演じさせていただき、高校生から大人になるという年齢の変遷を声で表現したので、(その経験が)生かせたと感じています」

『僕愛』と『君愛』は並行世界をテーマにした物語で、2つの世界が絡み合い交差して、お互いがお互いの世界を支え合っている。

本作に感じている魅力を尋ねると、橋本は「円環のように2つの作品がつながっている骨格そのものも新しくて面白いし、私が一番感動したのが、『僕愛』の暦さんがほかの世界の自分の幸せを願うシーンがあって、それは『君愛』の暦の幸せを願う言葉でもあるんだけど、つまりは今の自分の幸せを願っていることに繋がるという、ここに大きな円環ができていて、壮大な宇宙を感じて鳥肌が立つくらい感動しました」と熱弁。

さらに、「並行世界の話なので現実ではありえないはずですが、この作品はものすごく身近に感じるんです。暦の話は並行世界ありきの言葉なのに、現実を生きている私たちにもちゃんと通じる言葉になっていると思います」と続け、「自分の潜在意識にあったものが具現化されたような作品で、自分の生き方や考え方とリンクした感じがしています。でもまだふわふわしていて、時間を重ねていくにつれて合致する気がします」と話した。