ヤマハ発動機は22日、マリン商材の新製品体験会を実施。大型船外機の需要が活況な欧州市場にて今年(2022年)春より販売している次世代電動操船システム「HARMO(ハルモ)」搭載艇について、国内のメディアにも初めて試乗機会をもうけた。
マリン事業が絶好調
昨今のコロナ禍により、グローバルの先進各国では"ステイケーション需要"が継続している。旅行やイベントは中止になりうるが、ボーティングなら近場でファミリーや仲間と楽しめる――。こうしたトレンドを受けて、ヤマハ発動機では船外機やボートの販売数が増加中。2022年の上期業績も、前年比で増収増益を達成したという。
同社 マリン事業本部長の臼井博文氏は「US・欧州などの先進国には2020年7月から新操船システム『Helm Master EX(ヘルムマスターEX)』を、そして欧州では今春より電動操船システム『HARMO』を販売開始しました」と報告。いずれも好調な売れ行きです、と胸を張る。
一方、海外ほどボート保有率の高くない日本においては目下、マリンエクスペリエンスの提供に注力している。ボートの維持費・係留費が一切不要で、リーズナブルな月会費と毎回の利用料だけでボート遊びを楽しめる会員制の体験型サービス「Sea-Style」(シースタイル)を通じて、今後もマリン人口の裾野を広げていきたい考えだ。
ちなみに昨今のコロナ禍による行動変化、そして"3密を避けられるレジャー"という認知が拡大したことで、国内のシースタイル会員は急増中。昨年(2021年)は会員数が29,000人を超え、利用回数も40,000回を超えた(いずれも過去最高の数字)。臼井氏は「キャプテンやガイド付きプランで素晴らしい体験を提供する『シースタイル・プレミアム』、ボートフィッシングを存分に楽しめる『フィッシング チャーター』など、これからも単なるボートレンタルにとどまらないサービスとして拡大していきます」と力を込める。
HARMO開発の背景
では電動操船システム「HARMO」は、どのような経緯で開発されたのだろうか。そもそも電動エンジンのメリットは低回転における高トルク、低振動 / 低騒音、簡単操作、高い搭載自由度にあり、デメリットは航続時間の短さ、価格、充電時間にあった。そこでヤマハ発動機では、敢えて低速に特化することで続時間を伸ばし、さらに同社ならではの操船技術を融合させた製品の開発を推進。それが「HARMO」として結実したという。
6km/ h以下の低速遊覧用途に優れた「HARMO」は、環境意識の高い欧州を中心にニーズが高い。ヤマハ発動機でも、アムステルダム運河、イタリアのジェノバなどに積極的に売り込んでいる。なお国内では、北海道小樽市の小樽運河にてクルーズの実証運航をスタートさせた。環境に調和した取り組みと高い評価を得ているという。
今回、筆者も横浜ベイサイドマリーナにて、電動操船システム「HARMO」搭載艇、および「シースタイル・プレミアム」などで提供予定のスポーツサルーン「EXULT36」に乗船する機会を得た。
「HARMO」は家庭用の100V電源で充電できる鉛バッテリーを搭載。約8時間程度で満充電となる。最速で5ノットほど出せるが、低速運航ならば長時間の利用が可能だという。
そして最大の特徴は、圧倒的な静粛性。「航行中も船内で快適な会話が楽しめる」という事前説明の通り、ほとんど無音のままスイスイと、前へ前へと進んでいった。まるでカヌーを漕いでいるような静かさ。これでフィッシングに出れば、ボートのモーター音に驚いて逃げてしまう魚もいなくなるだろう。
運転席ではジョイスティックによる操船も可能。スティックは360度に動き、ひねる動作で船首の向きも簡単に変えられる。ほとんど直感的に操作できる仕組みだ。
一方で、EXULT36はラグジュアリーなスポーツサルーン。靴を脱いであがる1階にはソファ、キッチン、テレビなども設置されている。
運転席は1階にも2階にもある。こちらの船はHelm Master EXシステム搭載により操船の簡便化が図られており、たとえば接岸・着岸時はジョイスティックを倒すことで真横方向に運航できるようになっていた。
ヤマハ発動機では、ステイケーションによる先進国需要は継続すると見ており、今後も大型船外機のラインナップなどを強化していく構え。生産能力の増強も図る。また国内ではボート遊びの新スタイルとしてシースタイルの認知を拡大させていく。今後は観光スポットとのタイアップなども増やしていくという。