日本酒の原料である米作り~酒造りまでを一貫して手掛ける22の酒蔵で構成される「農!と言える酒蔵の会」は、9月16日~10月16日・10月25日~11月13日の期間限定で日本酒バーを東京・渋谷に開店した。
おじさんがたしなんでいるイメージの日本酒が、なぜ若者の聖地「渋谷」にやってきたのか。どんな楽しみ方ができるのか。アラサー筆者が早速調査に行ってきた。
■「Bar農!Farming & Brewing 2022」とは?
「農!と言える酒蔵の会」が主催するイベント「Bar農!Farming & Brewing 2022」では、酒造りだけでなく米作りも担う22の酒蔵の日本酒が味わえる。本イベントは、若年層をメインターゲットに日本酒の販路拡大・消費喚起が目的とあって、若者が多く集う「渋谷ストリーム」にポップアップの日本酒バーをオープンさせた。期間は、9月16日~10月16日・10月25日~11月13日までの全44日間だ。
本イベントでは、期間中蔵元自らが店頭に立ってお酒を提供する『酒蔵店長企画』を実施。日替わりで店長を務める酒蔵から直接、日本酒や土地の魅力を聞けるというなんともうれしい内容だ。
■1杯500円~! 日本酒を気軽に楽しめる
実は、日本酒の原料である「米」を自分たちで作り、酒を醸すという蔵は決して多くはない。そんな中、原料作りから行うことで米の特徴をよく理解し、それを酒造りに生かしてできたお酒を当イベントでは堪能できる。1杯500円~という手頃な価格帯で、エリア・原料米問わず全22種類が飲み比べ可能だ。
また酒蔵によっては日替わり店長を務める日限定で、メニューには載っていない日本酒も提供するとのこと。そのほか、マイグラスを持参すると「50円割引」となるエコ割など、イベント限定企画を利用して、お得に日本酒を味わってみるのもおすすめだ。
ということで筆者も早速、蔵元の話を伺いながら数種類のお酒をいただいてみた。
■蔵人と語らいながら酒を味わう
はじめに愛知県にある関谷醸造の代表取締役 関谷健氏に、米作りをはじめたきっかけを尋ねてみた。
「うちは地元の米を使ってこその"地酒"だろうと考えています。ですが、高齢化から毎年のように農家さんが減っていってしまうんです。そうすると、どんどん耕作放棄地が増え、景観が悪くなったり、害虫が発生したりするのはもちろん、何よりも原材料を供給してくれる農家さんがいなくなってしまうんです。うちはやむにやまれぬ状況下から米作りをスタートしました」。
米作りをはじめた当初は、社員の家族に農法を尋ねたり、機械を借りたり、試行錯誤を重ねる日々だったと言う。だが、そうしてできた米で造られたのが「蓬莱泉 純米大吟醸 摩訶」。自社で製造する酒米の中からいいものを厳選して造っている「蓬莱泉」シリーズでも珠玉の逸品だと言う。
筆者も早速一口いただいてみる。雑味のないクリアで華やかな香りと、超軟水を使用することで生まれるやわらかい口当たりが印象的。日本酒を飲み慣れていない人にも飲んでもらいたい、きれいなお酒だ。
続いて、いただいたのが三重のお酒「KINO」。同商品を醸す元坂酒造の専務取締役 元坂新平氏に酒の特徴を尋ねてみると、「農業に価値観を返していけるような酒でありたい。そう思って造ったのが、農に帰ると書いて『KINO (帰農)』です」と答えてくれた。
自社で米を作ることは、裏を返せば農家の仕事を奪ってしまうことでもあると話す元坂氏。だからこそ、"米から造るお酒"の価値を高め、そこで得た利益をきちんと農家に還元していきたいと考え、醸しているお酒だそう。
「KINO」は、米のふくらみとうまみ感じるふくよかなタイプで、味わいの余韻を長く楽しめるのが魅力。さらに、冷やから常温へ温度が変化するたびに、それまでとは違った美味しさが顔をのぞかせる……なんともクセになる一本だ。
また、本イベントについて元坂氏にコメントを求めると、「お店で食事と一緒に日本酒を飲むのはもちろんアリですが、ここでは一人で酒と向き合わず、酒を通して誰かとつながってほしいです。コミュニケーションツールとして酒を楽しんでもらえるとうれしいですね」と話してくれた。
"しっぽり"や"たしなむ"といった言葉がぴったりの日本酒。だが、秋風を頬に受けながら、スタンディングでわいわい飲むシチュエーションは、これまでと違う新たな美味しさと楽しみ方を届けてくれた。
最後に、華やかでうっとりするような香りが特長の「竹林」を飲みながら、丸本酒造 代表取締役の丸本仁一郎氏に、米作りと酒造りの関係性について尋ねてみた。
「お米の栽培がお酒にどうつながるか、まだまだ謎が残るんですね。ただ、農業も酒造りもずっとやってきた人には、おぼろげに関係性が見えているんです。こんなお酒にしたいからこんな栽培をする。土・米・酒が少しずつ、つながってくるんです。これが『農!と言える酒蔵』のメンツです」
蔵元たちは、若造の筆者にも最後まで熱い思いを楽しそうに伝えてくれた。「若者だから」「素人だから」と言った心配は無用。ただ、"日本酒を楽しんでみたい"という好奇心さえあれば十分だろう。"蔵人の話"という贅沢な肴と共に、ここでしか味わえない日本酒をぜひ飲み比べてみてはいかがだろうか。
■Information
Bar農! Farming & Brewing 2022
【期間】9月16日~10月16日/10月25日~11月13日
【営業時間】15:00~22:00
【場所】渋谷区渋谷3-21-3 渋谷ストリーム 1F カクウチベース POP UP SHIBUYA