多数のカレンダーサービスが存在する中で、簡単にだれかとスケジュールを共有できることで支持を広げてきた「TimeTree」。その人気は国内にとどまらず、いまや全世界にユーザーが存在している。TimeTreeがスケジュール共有にこだわった理由、そして多くの人に愛されるに至った経緯について、同社代表取締役の深川泰斗氏に伺った。

  • TimeTree 代表取締役・共同創業者 深川泰斗 氏

■ユーザー数4,000万のカレンダーシェアアプリ

「TimeTree」は、だれかとスケジュールを共有し、コミュニケーションを取れるカレンダーシェアアプリ。8月には全世界の登録ユーザー数が4,000万を突破し、その勢いはますます増している。TimeTreeは「世の中の時間をつなげて、世界中の人々がよりよい明日を選択できるようにする。」をミッションとして掲げているが、その思いはユーザーにも届いていると感じる結果だ。

いまや定番のカレンダーアプリとなった「TimeTree」だが、リリース当時はニュースサイトにも取り上げられない、きびしい現実もあったという。TimeTreeはどのように作られ、そして成長していったのか。代表取締役の深川泰斗氏に伺ってみよう。

  • 全面ガラス張りで、入り口から社内が一望できるTimeTreeオフィス

■「このメンバーなら面白いものが作れる」という思いから創業へ

TimeTreeの前身であるJUBILEE WORKSの創業は、2014年9月。ヤフージャパンでコミュニケーションサービスに携わっていた深川氏と、ヤフージャパンや出向先のカカオジャパンのメンバーを合わせた5人によって立ち上げられたという。

「カカオジャパンの出向を解除されるときに、『この5人でもうちょっとチャレンジしてみたい』と思い独立しました。バンドみたいなノリですね。以前からカカオジャパンにいた人とヤフージャパンから出向していた人がいたので、いつかはバラバラになってしまう状況だったのです。このメンバーと仕事を続けたら面白いものが作れそうだと感じていました」

こうしてJUBILEE WORKSが誕生したものの、TimeTreeというサービスが先にあったわけではなく、あくまでメンバーありきだったそうだ。共有カレンダーというアイデアはどこから生まれたのだろうか。

  • 「このメンバーなら面白いものが作れる」という思いが会社を立ち上げたきっかけだったという

「本格的な起業前から、仕事終わりにみんなで喫茶店に集まって、『毎日こんなのどう?あんなのどう?』とディスカッションを進めていました。その中にあったアイデアのひとつが共有カレンダーです。デザイナーが仕事効率化アプリのオタクで、僕自身、過去にYahoo!カレンダーのディレクターを担当したこともあり、カレンダーへの知見が豊富だったことから一番しっくりきたものを選んだ感じですね」

深川氏はもともと「Yahoo!カレンダー」の担当を希望してヤフージャパンに入社したという。これに加えコミュニケーションサービスにも関わっていたことが、共有コミュニケーション機能が入ったカレンダー「TimeTree」の開発に繋がっていく。

「予定は、相手がいて約束が発生して決まることが多いのに、その当時、世の中にはひとりで使う手帳をデジタル化しただけのツールしかありませんでした。これは不便ですし、おかしいなと思ったのが根っこです。そこからコンセプトを深掘りして、"毎日使う"、"コミュニケーションできる"などの条件を組み合わせて、カレンダーシェアに行き着きました」

■あるツイートから広がっていったTimeTree

こうして2015年3月にリリースされた「TimeTree」。深川氏は同カレンダーの特長を次のように端的に説明する。

「もともとひとり用のカレンダーで、共有もできるというサービスは他にもあります。しかしTimeTreeは、共有とコミュニケーションのためのカレンダーです。とにかく簡単に共有できることを前提に開発しました」

だが、リリース当初はプレスリリースを出してもまったく反応がない状態が続いたという。この状況を変えたのが、フリーライターとして働いていた深川氏の奥さまが発信したツイートだ。そのつぶやきは2~3日の間に1万ほどリツイートされ、TimeTreeに取材が舞い込むようになる。

  • 反応がなく家の中で突っ伏していた深川氏を救ったのは奥さまのツイートだったそうだ

「最初のころは妻のTwitterアカウントに『これできないんですか?』とか『こうしたら落ちました』みたいな連絡が来てしまって、慌ててTimeTreeの公式Twitterアカウントを作りました。そこから1週間は質問に返事をしつつ、寝る間もなくヘルプページを作成しました。ユーザーさんと直接やりとりができてすごく良かったと思います。ちょうど子供がまだ幼いころでしたので、抱っこしながら一生懸命やっていたことを覚えていますね(笑)。」

地道な活動が実を結び、TwitterやYouTubeでTimeTreeを紹介する人も現れる中、2015年末に大きな転機が訪れた。Apple社が選ぶベストアプリ「Best of 2015」に選出され、TimeTreeの知名度が大幅に向上したのだ。そして翌年2016年2月には、登録ユーザー数が100万人を突破する。このころから海外ユーザー数もどんどん伸びていった。

「海外で使ってもらう工夫もしました。カレンダーって国ごとにいろいろな違いがあるんですよ。たとえば欧州だと週番号がすごく大事なんです。あと、中国や韓国では旧暦がないと困るそうです。そんなこと全然知らなかったので、現地の友人にカレンダーを送ってもらったりしました。そういう細かい対応がたくさんありますが、基本的な部分は変えていません。予定を伝え忘れて夫婦げんかとか、もう全世界で起きてることで、共通の課題なんですよね」

2019年9月には社名をサービス名である「TimeTree」に変更し、全国テレビCMも放映した。

「テレビCMをやっていたときに、Appleのティム・クックさんがオフィスに来て、それをツイートしてくれて、それでまた欧米圏に知ってもらえました。最近だと、海外の女子大生がTikTokで共有スケジュールを公開し、充実した毎日をアピールするという使い方をしていて、ここでまたユーザーが増えましたね」

TimeTreeは家族向けのカレンダーというイメージが強い。テレビCMでも家族の繋がりをテーマとしており、多いときは6~7割が家族利用で、次いでカップル利用だったという。だが現在は使い方も多様化してきており、家族利用はおよそ5割程度に減少。カップル利用や前述した海外での使い方の他に、建築土木・医療介護・飲食店や美容院といった現場仕事でも使用されているという。

「最近では、高校生・大学生がゼミやサークル、部活などで使う例も増えています。それとゲームですね。オンラインゲームの仲間同士で作ったチームのスケジューリングやコミュニケーションに使うんです。あと、"推し活"をしている人同士でカレンダーを共有するために使っている例もあります」

  • 家族での共有から、サークルやゲーム仲間、推し活のスケジュール共有など、使い方は多様化しているそう

■目標は人類の予定管理のアップデート

現在TimeTreeのメンバーは全体で約70名。日本を含め8つの国籍の人たちが参加し、ともに働いている。その働き方は独特で、社内では全員がニックネームで呼び合うそうだ。ちなみに深川氏のニックネームはFred(フレッド)。社員同士であっても本名を知らないという人もいるという。また、経費は3万円までは自由で、社員が必要だと思ったものを各自の判断で購入できるという。このような社風も、新しいアプリやサービスを生み出す源泉なのかも知れない。

  • だれかがコーヒーを淹れたらボタンを押して全員に共有

  • 冷蔵庫にはアルコール飲料もあり、いつ飲んでもかまわないそうだ

最後に深川氏に、TimeTreeの今後の展望を伺ってみよう。

「今後は共有とコミュニケーションをもっと推し進め、決定事項を書いておくだけではなく、やりたいことが決まっていったり、相談しやすくなったり、そういう方向に強化していきたいと思います。予定管理はすごく不便が多いままなのに、世の中には選択肢ばかりが溢れていると私は感じます。これはとても不幸なことですから、人類の予定管理をアップデートしたいと思っています。そのためにも世界中でもっともっと使ってもらって、『TimeTreeがなかったころ、どうやって予定管理していたか思い出せないね』と言われるくらいのアプリにしたいですね」