美味しいのはもちろん、さまざまなブランドとのコラボ商品を発売したり、ユニークな企画で常に我々を楽しませてくれる「ブラックサンダー」。製造・販売を手掛ける「有楽製菓」では、10年ほど前にマーケティング部が立ち上がり、「一目で義理とわかるチョコ」や「それもありでしょ?バレンタイン」といった、ユニークなプロモーションを活発化したことで、売り上げも順調に伸びてきたという。

  • 「ブラックサンダー」のユーモア溢れる発想の源を探るべく、有楽製菓豊橋夢工場にて社員のみなさんに話を聞いてみた

年間20種類以上の新商品を生み出しながら、時には「下駄箱」や「マネキン」をブラックサンダーと共に販売してしまう、そのあまりにも自由かつ斜め上を行くぶっ飛んだ発想には、驚かされると共についつい笑顔になってしまう。有名企業でありながら、守りに入ることなく攻めまくる姿勢はどこから来るのか? そのバイタリティとユーモア溢れる発想の源を探るべく、豊橋夢工場にて社員のみなさんに話を聞いた。

【インタビュイー】
杉田晶洋さん(マーケティング部/流通営業部 部長)
牧宏郎さん(マーケティング部企画課 広告宣伝係 係長)
鈴木達也さん(マーケティング部企画課 広告宣伝係 主任)

■「心」を大事にする商品

1955年創業、当初はウェハースを作っていたという有楽製菓。味・品質にこだわり、お手頃にお菓子を楽しんでほしいというのが、創業当初からの思い。経営理念にも、「夢のある安くておいしいお菓子を創造する企業を目指します」と掲げている。

今や子どもから大人まで、多くの人に愛されている「ブラックサンダー」だが、1994年の発売当初の売り上げは芳しくなく、1年後に生産終了。しかし、当時九州にいたある営業マンが「これは絶対売れる」と上層部に訴え、再生産を始めたところ徐々に売れ始めたのだという。その後、2003年に大学生協で人気となったことから大手コンビニで販売が始まり、2008年にはとある国際スポーツ大会に出場した選手の好物として紹介され、爆発的なヒットとなった。

「ブラックサンダーの特徴を言葉にすると、『腹と心をお得に満たす』。会社の共通の思いとして"安いのに美味しい"ではなく、"こんなに美味しいのに安い"を目指したいということです」(杉田さん)

  • 杉田晶洋さん(マーケティング部流通営業部 部長)は入社した際に有楽製菓は「イメージ通りの元気な会社」であることを感じたという

中でも、「心」の部分を大事にしており、ユニーク・自由・遊び心を商品パッケージやコミュニケーションに盛り込むことで、お客さんの「心の満足」につなげたいという。そうした思いは、働く側の心に余裕がないと提供できないもの。だが、終日行われた工場での取材では、社員のみなさんの会話から仕事へのやりがいと明るく楽しい雰囲気が感じられた。その良い雰囲気はどこから来ているのだろうか。

■尖ったままのアイデアを出せる環境

「うちは風通しの良い社風で、すぐに近くに役員がいる状態です(本社には)。社長室がなくて、例えば私のすぐ後ろに社長の席があるんですけど、私の机に広げてあるサンプルを見て『牧、それ何?』って聞いてきたりとか。そういうところが明るい社風につながってるんじゃないかなって思います」(牧さん)

「大きな企業だと社長と話をしたい時はアポを取って時間を取ってもらわないといけないと思うんですけど、うちの社長は開発・マーケティングの社員に『いつでも何でも持ってきていいよ』という感じで、『初期段階から持ってきてくれれば相談に乗るよ』って言ってくれているのですごく助かってますね」(杉田さん)

「私はデスクの横に行って『社長、ちょっとご相談なんですけど……』ってアドバイスをもらうことがよくあります。もちろん、しっかり企画を決める時には場を設けますけど、それ以外の部分ではすごくフランクにお話を聞いていただく機会は多いですね」(牧さん)

  • 牧宏郎さん(マーケティング部企画課 広告宣伝係 係長)は新商品が完成すると「美味しかった?パッケージはどう?」と反響を訊いて回ってしまうという

普段から社長に気軽に相談できるなんて、この規模の会社ではなかなかできないはず。そうした風通しの良さが、年間20種類を越える新商品の発売につながっているようだ。

「担当者がチームで考えた草案をまとめた段階で、『社長、ちょっといいですか?』という感じで聞いてもらって、OKが出れば関連部署とのすり合わせを会議で行って正式に決定します。でもまあ、正式に決める前にだいたい社長のOKをもらっちゃってますけど(笑)。でも、これってすごく大事なことだと思っていて。担当者レベルですり合わせを重ねて、最後に社長のところに持って行くと、尖った企画もトゲが取れて丸くなってしまうんです」(杉田さん)

なるほど、変に丸くならずに、尖ったアイデアがそのまま世に出せるというところが、有楽製菓のユニークなさまざまな企画、商品が生まれる秘訣のようだ。

■美味しさに影響を与えなければ"ぶっ飛び"もOK

今年のバレンタインシーズンに実施していた「それもありでしょ?バレンタインBACK TO青春」では、「下駄箱」、「学習机&イスつきブラックサンダー」などをオンラインショップで販売するなど、かなり振り切った商品が話題となっていたが、さすがに自由度がすぎて反対されたりしないのだろうか?

「『下駄箱つきブラックサンダー』なので、あくまでもメインはブラックサンダーで下駄箱は付属品です(笑)」(牧さん)

「ブラックサンダー自体が雑に扱われるとか、美味しそうに見えないようなものはNGですけど、付属品で下駄箱が付いてくるみたいな、ブラックサンダーの美味しさには悪影響を与えないようなものだったら、ぶっ飛んでいても商品にはなりますね」(杉田さん)

「『ブランドはお客さまのもの』企画がお客さまに本当に喜んでいただけるものなのか、楽しくなれる、ワクワクできるものなのかを重点に置いて、すごく真面目に考えています」(牧さん)

■ファンと一緒に創るブランド

そんなブラックサンダーを愛するファンは多い。Twitter公式アカウント「ブラックサンダーさん」フォロワー数は、なんと44万人(※5月時点)。通常サイズの約35倍の大きさの「ブラックサンダー大」が当たるキャンペーンを行った際には、かなりバズったりと、発信力のあるアカウントに育っている。

これは、SNS戦略の1つとして企画されたアンバサダーマーケティング「ブラックサンダー 黒い広報室」の存在が大きいようだ。ブラックサンダー好きの方々からアンバサダーを募り、専用ページに登録すると「黒い広報員」になれるというもので、会社側から情報と場を与え、自分のアカウントでどんどん発信してもらうことで、より広い方々にブラックサンダーの情報を拡散してもらうのが狙いなんだとか。

「黒い広報室」の室長を務める鈴木さんによると、広報室員は2,200人(※5月末現在)ほどが所属しているそうで、「#ブラックサンダー黒い広報室」でツイートするとポイントがつき、部長、課長、係長といった役職(ランク)につくことができる。またオンラインファンミーティング「黒い広報室会議(略して黒会)」も実施している。コロナ禍での「黒い広報室員」とのオンラインミーティングでは、ブラックサンダーファンの熱量のすごさに圧倒されたという。

  • 鈴木達也さん(マーケティング部企画課 広告宣伝係 主任)は「黒い広報室」の室長も務めており「ガイアの夜明け」に出演した経験もあり

「ファンの方々はこんなにブラックサンダーが好きなんだ!?って、衝撃でした」(鈴木さん)

「ブラックサンダーへの愛が深い方がいらっしゃることを改めて感じますし、僕らはもっとその愛を伝えていかなければいけないなと思います」(牧さん)

ブラックサンダー好きな人々とコミュニケーションを取ることで、愛社精神が深まるきっかけとなり、モチベーションにもつながったようだ。

ブラックサンダーというブランドを使って、面白いアイデアを一緒に考えてくれる人がいるのには、ブラックサンダーが自由で楽しいイメージがあり、単なるお菓子を越えて、まさに「心の満足」をお客さんに与えているからだろう。

■今後の展望は?

そして最後に、有楽製菓が今後考えている展開をのぞいてみた。

  • この先の展望は?

「今まではどちらかというと、僕たちがやりたいことを発信して喜んでもらっていたんですけど、もっとお客さま側への理解を深めていき、そこにちゃんと刺していけるようなことを考えています。コンビニやスーパーでのブラックサンダーが置かれている棚って限られていて、もっと売り上げを作ろうとするのには限界があるんですよね。なので、ブラックサンダーブランドを使って違う売り場に行って、より多くの方にブラックサンダーを食べていただく取り組みを考えています。あとは、海外での売り上げを伸ばしていきたいと思っていますね」(杉田さん)

一連の取材を通して、ブラックサンダーがどうしてこんなに私たちの日常を美味しく、楽しくさせてくれているのか、その一端がわかった気がした。きっとこれからも、ブラックサンダーはさまざまな形で我々に「心の満足」を与えてくれるに違いない。