マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、日銀の金融政策について解説していただきます。


7月20-21日、日銀は金融政策決定会合を開催し、大規模緩和の継続を決定しました。政策金利をマイナス0.1%とし、長期金利の目標を0%に誘導する(許容範囲は上下0.25%)「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」が続けられます。

「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」では、政策委員の大勢見通し(中央値)として、生鮮食品を除くコアCPI(消費者物価指数)は2022年度に2.3%と、日銀の物価目標である2%を超えます。ただし、2022年末にかけて、「エネルギー価格の押し上げ寄与の減衰に伴い、プラス幅を縮小していく」と予想され、23年度は1.4%、24年度は1.3%にとどまるとの見通しです。

そうしたなかで、「経済の見通しについては、当面は下振れリスクの方が大きい」こともあって、「物価目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで(大規模緩和を)継続する」との意向が改めて表明されました。

日銀が金融緩和を続ける限りは円安!?

日銀の結果が判明した数時間後、ECB(欧州中央銀行)理事会は0.50%の利上げを決定しました。ECBが利上げに踏み切るのは2011年7月以来のことで、次回9月の理事会での追加利上げも示唆しました。

ECBが利上げサイクルに入ったことで、頑(かたく)なに金融緩和を続ける日銀だけがインフレ抑制を最優先する主要な中央銀行から取り残された格好です。言うまでもなく、22年に入って円安が急速に進行しているのは、日銀と他の中央銀行との金融政策の方向性の差や、それを反映した金利差が背景です。日銀が金融緩和を続け、他の中央銀行が利上げを続ける限り、円安の流れは止まりそうもありません。

輸入インフレの半分近くは円安が原因

もっとも、円安の弊害も明らかになってきました。5月の輸入物価は前年比46.3%の大幅上昇でした。これは円ベースです。契約通貨ベースの輸入物価は同25.8%でした。つまり、両者の差である20.5ポイントが円安による輸入物価押し上げ効果だと考えることができます。我々消費者は輸入インフレを様々な場面で感じています。その半分近くは円安が原因ということです。

日銀は円安の弊害に意図して触れず⁉

ところが、日銀の公式見解から円安に対する強い懸念はうかがえません。上述した展望レポートの基本的見解は図表を除き8ページあります。冒頭の「概要」部分では為替市場の動向に関して「十分注視する必要がある」とだけ述べられています。「経済見通し」の部分では、「企業収益は・・為替円安もあって・・高水準を維持する」として、円安がポジティブに捉えられています。前回6月の金融政策決定会合では、(委員からの)主な意見として、「急激な円安の進行は・・事業計画の策定を困難にする」とありました。ただ、これはあくまで円安のスピードの問題であり、水準に関するものではありません。

また、展望レポートでは、足もとの物価上昇に関して、ウクライナ情勢に関連した「資源・穀物価格」の上昇が再三にわたって指摘されています。一方で、「円安」に言及した箇所は見当たりません。物価上昇については、「物価上昇を反映した賃金上昇率の高まり」によって雇用者所得は増加を続けるとの予想まで披露されていました。庶民感覚では「はあ?」ではないでしょうか(もちろん重要なのは、賃金上昇率が物価上昇率を上回るかどうかです)。

黒田総裁発言のトラウマ

長々と書き連ねてきましたが、要するに日銀は「金融緩和を続けることによって円安が進行し、それが物価上昇を通じて家計を直撃している」との画を自ら描くことは何としても避けたいのでしょう。6月に黒田総裁が「家計の値上げ許容度が高まっている」と発言して、激しいバッシングを浴びたトラウマを日銀は引きずっているのかもしれません。

逆に言えば、日銀が円安の弊害に真正面から向き合った時、いよいよ金融政策が変更されるのかもしれません。