長年、家事をしながらパートで働いて家庭を守ってきたのに、離婚をしたら、夫は厚生年金で年金をたくさんもらい、妻は国民年金だけでは不公平です。そうした問題を解消するための制度が年金分割制度です。
年金を分割するといっても、夫がもらえる年金額の半分を必ずしも妻がもらえるわけではありません。モデル夫婦を想定して、いくらもらえるのか検証してみましょう。知っておいて損はない「年金分割」について解説します。
■年金分割制度とは
離婚した場合に、婚姻期間中の保険料納付額に対応する厚生年金を分割して、それぞれ自分の年金とすることができる制度です。
これは、婚姻期間中に築いた財産は夫婦の共有財産という考えに基づいています。
たとえば、夫が会社員、妻が専業主婦あるいは夫の扶養内で働くパートタイマーだった場合、家事労働を引き受けて、夫が働きやすい状況を作っているにもかかわらず、将来もらえる年金は、夫は基礎年金+厚生年金であるのに、妻は基礎年金のみというのは不公平です。
厚生年金は国民年金(基礎年金)の上乗せであり、収入(標準報酬)に応じて支払った保険料に基づいて年金額が決まります。この保険料は、婚姻期間中は夫婦の共有財産から支払っていることになるので、保険料の納付記録を分割して公平にする必要があります。
ここで気を付けたい点は、分割できるのはあくまでも婚姻期間中に支払った保険料分であり、結婚する前(独身時代)の保険料分は分割の対象にはなりません。相手の厚生年金の半分が受け取れると勘違いしないようにしましょう。また、年金の分割ができるのは、厚生年金の部分だけです。基礎年金(国民年金)や厚生年金基金、国民年金基金などは分割の対象にはなりません。
次に分割の方法を見ていきましょう。分割の制度として「合意分割」と「3号分割」の二つがあります。
*合意分割
合意分割とは、離婚をして、当事者の一方または双方から請求があった場合に、厚生年金の保険料納付記録(標準報酬)を分割できる制度です。分割の割合は双方の合意、または裁判手続によって決まった割合となります。婚姻期間中に夫婦共に厚生年金の加入期間がある場合の分割方法となります。
*3号分割
会社員の妻である専業主婦など、国民年金第3号被保険者からの請求によって、年金を分割する方法です。3号分割は、当事者の合意は必要ありません。婚姻期間中に2008年4月1日以後の国民年金の第3号被保険者期間があることが条件となります。分割の割合は2008年4月1日以後の婚姻期間中の3号被保険者期間における相手方の厚生年金記録の2分の1です。2008年4月以前の第3号被保険者だった期間、または、厚生年金に加入していた期間については合意分割となります。
どちらも原則、離婚をした日の翌日から起算して2年以内が請求期限となっているため、注意しましょう。
■年金分割によって受け取る年金はいくら?
次のモデル夫婦が年金分割をしたら、妻が受け取ることができる年金はいくらになるのか計算してみましょう。
<条件>
夫:会社員(厚生年金加入)、婚姻期間中の標準報酬総額8,000万円
妻:扶養内でパート(国民年金第3号被保険者)
2012年に結婚、2022年に離婚、婚姻期間10年
計算の手順は次のとおりです。
- (1)婚姻期間中の夫婦の標準報酬総額を合計する
- (2)分割割合2分の1で夫婦の分割後の標準報酬総額を出す
- (3)分割後の夫婦の老齢厚生年金額を出す
(1)婚姻期間中の夫婦の標準報酬総額を合計する
標準報酬とは、厚生年金保険料の算定の基礎となる標準報酬月額(月給をいくつかの等級に区分したもの)と標準賞与額(賞与の千円未満を切捨てた額)を指し、この標準報酬を基礎として厚生年金の年金額を計算します。標準報酬総額は、対象期間(婚姻期間)の標準報酬を生年月日に応じた再評価率を用いて現在価値に換算してから合計した額です。
たとえば標準報酬月額が50万円、標準賞与額が200万円で、婚姻期間中の10年間変わらなかった場合、再評価率は無視して単純計算をすると、標準報酬総額は『(50万円×12カ月+200万円)×10年=8,000万円』となります。
妻は厚生年金に加入していないので、標準報酬総額は0円となり、合計額は8,000万円となります。
(2)分割割合2分の1で夫婦の分割後の標準報酬総額を出す
夫:8,000万円×1/2=4,000万円
妻:8,000万円×1/2=4,000万円
(3)分割後の夫婦の老齢厚生年金額を出す
夫:4,000万円×5.481/1,000 = 219,240円
妻:4,000万円×5.481/1,000 = 219,240円
※5.481/1000は昭和21年4月2日以降に生まれた人の乗率です
年金分割によって、この妻は老齢厚生年金を年額21万9,240円受け取ることができます。
■退職金も分割できる?
年金分割がわかったら、次に気になるのは退職金ではないでしょうか。
退職金には、給与の後払い的な性質があると考えられています。そのため、退職金も他の財産と同様に財産分与の対象となります。
ただ、退職までにまだ何年もあるという場合は、不確実な要素が多いため財産分与の対象にならない場合もあります。退職金を財産分与の対象とするためには、退職金の支給が確実であると見込まれることが必要になります。これらの判断は専門的で複雑になるため、弁護士などに相談することをおすすめします。
退職金が財産分与の対象となった場合でも、全額が対象となるわけではなく、こちらも婚姻期間に応じた部分のみが分割の対象となります。分割の割合は基本的に2分の1となります。
支払われた退職金×婚姻期間÷勤務期間=分割の対象となる退職金
■おわりに
婚姻期間中に築いた財産は夫婦の共有財産という考えを知っておけば、専業主婦であっても、その期間に得た収入の半分は自分の働きによるものという意識が持てるので、無償の労働と思うことはなくなるでしょう。離婚によって、経済的に困窮することがないように、年金分割や財産分与は権利としてしっかり行い、老後の生活の安定を確保しましょう。