フォルクスワーゲンでよく見かけるクルマといえば、小型車の「ポロ」だ。世界では累計1,800万台(派生モデルを含めると2,000万台超)、日本では30万台が売れたポロには、どんな魅力があるのか。何が人気の理由なのか。今回はマイナーチェンジした新型ポロに試乗してきた。
エンジンは1.0リッター、加速は?
フォルクスワーゲン(VW)のポロがマイナーチェンジした。大きな変更点は外観で、フロントグリル、リアのコンビネーションランプ、バンパー形状が新しくなった。
ガソリンエンジンは排気量1.0リッターの直列3気筒ターボで変わらない。それでも、実際に試乗してみると改めてポロの価値が確認できたし、日々改善を続けるドイツ車のよさを体感することができた。
外観の変更は近年の流行をなぞるかたちで、目つきがより鋭くなった。後ろ姿は上級車的な雰囲気。実用車として間違いのない選択であることはVWの基本的な価値だが、それ以上に、乗る人の気持ちをより豊かにしてくれるゆとりが感じられるような外観だ。
諸元上は変更点を見つけにくいが、走らせてみるとガソリンターボエンジンが改善されていることはすぐにわかった。マイナーチェンジの効果が確実に表れている。「アトキンソンサイクル」と呼ばれる効率向上の対策を取り入れ、WLTCモードでの燃費もわずかだが向上している(16.8km/L→17.1km/L)。
改良版エンジンの感触はすばらしかった。車両重量1,100kg以上の車体を苦もなく滑らかに発進させ、そこからの加速に不足はなく、自然に速度にのせてゆける。ことにターボチャージャーの過給がはじまるとグンッと速力を増し、景色の流れが早まり、爽快さも味わえる。そこからさらに回転限界付近までアクセルペダルを踏み続けたときの手ごたえは、あたかもモーターのように軽やかに回り続け、胸のすく加速だ。
当然ながら、欧州車として操縦安定性は的確で、右へ左へとハンドル操作の通り素早く向きを変え、カーブをこなしていく。直線路ではどっしり構えた安定性で、欧州車ならではの安心をもたらす。車格が上のゴルフでなくても、長距離移動を苦もなくこなせるのではないかという頼りがいを感じることもできた。
「ゴルフ」と比べても遜色なし?
ゴルフは初代から世界の小型車の規範といわれ続けているが、ポロもコンパクトカーの良品だ。現行のゴルフ8はそれなりの車格となり、車幅が1.8m近くまで拡大しているが、ポロは3ナンバー車であるとはいえ1.75mにとどまるので、わずか5cmほどの差ではあるものの、車幅を気にする場面はほとんどなかった。日常的にも長距離移動にもちょうどよく、手の内にある嬉しさがある。
ポロは初代ゴルフに遅れて1975年に誕生した。当時は、いかにも大衆のための格下の廉価版という様子だったが、次第に高性能化し、質を向上させていった。一世代前の5代目はゴルフと比べても、あらゆる面で遜色なしと思わせるほど上質で、外観も小さなゴルフといえそうなほど似てきていた。
現行の6代目ポロは2017年にフルモデルチェンジし、日本には2018年に入ってきた。そのときのゴルフは7代目だったが、1.8m近い車体の幅は、道路状況によってはガードレールや側溝が気になる場面もあり、少し大きくなりすぎたのではないかと思っていた。そこに登場したポロはゴルフと差のない価値を持ち、かつてのゴルフの持ち味を体感させてくれた。
新型ポロの車幅はゴルフが5ナンバーから3ナンバーとなった4~5代目に近い寸法だ。歴代ゴルフを愛用してきた人が乗れば、手の内にあったゴルフのことを懐かしく思いだすかもしれない。
クルマが手の内にあるという感触は、必ずしも運転が得意ではない人にとって重要な要件となる。歴代ポロの国内での所有者は、大半が女性であるという。女性以外では年配の男性が多いそうだ。彼らは、かつてのゴルフを知っている人たちだろう。
単に懐かしさだけでなく、子供が成人して家庭を離れたあと、夫婦で乗るクルマとしてポロを選ぶ人も多いとのこと。かつては大柄な車種に乗っていた人がダウンサイジングを考えたとき、ポロが間違いのない選択肢の1台になっているらしい。
暮らしのダウンサイジング、ほどよい暮らしということを考えたとき、ポロは車体寸法だけでなく、荷室の広さも十分といえるだろう。スペアタイヤをなくした荷室床下は物入れとして使える。利便性に不足はない。後席は座面がやや短く感じたが、ちょっとした移動で座る場所としては、役目を果たせる座り心地だろう。
暮らしに役立つ身近な1台として、ポロは満足のいく価値を保持し続けている。マイナーチェンジによる進化にも納得の仕上がりであった。