ゴッホと言えば「ひまわり」の絵。以上! ……という人は、そう多くはないだろう。名前は知らなくても作品のいくつか、たとえばベッドと椅子がある小部屋とか(「アルルの寝室」)、渦巻き模様の夜空がなんだか不穏な絵とか(「星月夜」)、あとは自画像なども思い浮かぶかもしれない。それから、生前の彼は作品が評価されず挫折ばかりだったことや、悲劇的な最期も知っているかも。

そんな誰もが知る“愛され画家”、ゴッホの世界に360度の巨大映像空間で没入できるという、日本初の体験型ゴッホ展「ファン・ゴッホ~僕には世界がこう見える」が、6月18日から開催。これ、絶対に見逃せないやつでは!? さっそく、角川武蔵野ミュージアムに行ってきた。

  • 角川武蔵野ミュージアム「ファン・ゴッホ~僕には世界がこう見える」

今回の展覧会の特長が、展示された絵画をただ鑑賞するのではなく、アートと物語を全身で浴びる没入型(イマーシブ)の体験型だということ。観客は音楽とともに壁と床面に360度で映し出されるデジタルアート空間の中を自由に歩き、写真を撮ったり、ハンモックで揺られたり、寝転んだりしながら、思い思いのカタチでゴッホを感じ、“ゴッホの目にはこう見えていたのかもしれない”世界を追体験できるのだ。

入り口では、ゴッホの自画像と無数のひまわりがお出迎え。一面ひまわりの壁と床を眺めていると、そこかしこに、ゴッホの言葉が。

「私は作品に全身全霊を傾けるうちに、我を失ってしまった」「考えれば考えるほど、他人を愛すること以上に芸術的なものがないのがわかる」……ううう、これはエモい。早くもグッときながら、さらなるゴッホの言葉を求めてあちこち探してまわる。デジタルアート空間に入る手前で、すでに“ゴッホ的世界”に入り込んだ感じだ。

お目当ての第1会場では、壁と床360度に投影される映像と音楽で、「ゴッホが見た世界」を体感する。第一幕の若き日のゴッホから第八幕のエピローグまで約30分間、作品が描かれた時代順に、彼の生涯を追体験していく。

作品の中に描かれた太陽が、力強い空と雲が、鳥が、キャンバスの絵の具が、動きをつけて音楽とともにガンガンに迫ってくる。鮮やかな色使いや力強い筆致に圧倒されたり、きらめく光の動きにうっとりしたり。

場内にはあちこちにハンモックが吊るされていて、自由に座ることができる。腰かけながらゆらゆら浸っていると、体の揺れに感情もシンクロして、さらに心が揺さぶられてしまった。

そこにいる観客全員、もちろん自分の体にも映像が投影されて、まるで自分も作品の一部になったみたい。これが全身でゴッホを浴び、ゴッホまみれになる没入感なのかも。

映像と音楽でゴッホの作品をたっぷりと味わった後は、隣の第2会場へ。さきほどまでの体験型とはガラリと変わって、こちらはゴッホの人生を、彼の残した手紙と絵画をちりばめた年表でたどる展示だ。

「フィンセントよ、どこへいく? 何をやってもうまくいかない前半生」と、のっけからパネルの解説文がかましてくる。出来事がこまかに記された年表は、彼の浮き沈みが折れ線グラフ仕立てになっていてわかりやすい。仕事をクビになり、女の子にフラれ、父とケンカ……迷走を続ける若き日のゴッホには正直、共感しかない。

パネルには、彼の生涯を献身的に支え続けた弟のテオや盟友ゴーギャンのイラストが、さりげなくコミカルに描かれていて、それを見つけるのも楽しい。また、ゴッホの作風に影響を与えた日本の浮世絵も展示され、多角的にゴッホの生涯をたどることができた。

「体感」する第1会場と、「学び」の第2会場の行き来は自由。ゴッホの手紙を通して彼の37年間を知ってから、またデジタルアート空間に戻ることで、より深くゴッホの世界を体感できそうだ。

なお2階のKadoCafeでは、ゴッホの顔や作品をカフェラテにプリントした「ラテdeゴッホ(650円)」も販売。ここはひとつ、五感で「ゴッホの世界」を味わってみてはいかがだろうか。

information
「ファン・ゴッホ~僕には世界がこう見える」
開催:6月18日~11月27日
会場:角川武蔵野ミュージアム1階グランドギャラリー
オンライン購入:一般2,200円/中高生:1,800円/小学生1,100円/未就学児無料
当日窓口購入:一般2,400円/中高生:2,000円/小学生1,300円/未就学児無料