パナソニック エレクトリックワークス社(以下、パナソニックEW社)は、奈良市にある世界遺産の唐招提寺にて「唐招提寺 御影堂障壁画ライティング」を報道関係者に公開しました。これは6月5日の落慶法要、および6月6日と6月7日の特別拝観に先立って行われたものです。

  • 奈良市の西側に位置する唐招提寺。日本からの招聘によって、中国から仏教を伝えるために6度目の航海で来朝した鑑真和上が最後の5年を過ごした場所

唐招提寺の重要文化財・御影堂は、鑑真和上坐像や東山魁夷画伯が描いた襖絵などが収められている歴史のある建物。慶安2年(1649年)に建立され、過去には奈良県庁舎や奈良地方裁判所になっていた経歴もあります。昭和39年(1964年)、第81世森本孝順長老の発願により、鑑真和上坐像の安置のため現在の場所に移築されました。

  • 平成28年(2016年)に始まった御影堂の平成大修理。地盤改良や雨漏り対策を含む大がかりなものです

しかし、移築から約50年を経て、地盤沈下や雨漏りなどが目立つようになったことから、平成28年(2016年)から文化財保護のため保存修理事業が行われていました。令和4年(2022年)3月31日に補修事業が無事完了し、今回の公開となりました。

御影堂の大修理では曳屋工法を採用し、建物を60cm持ち上げ、約30m北へ移動。基礎地盤を改良したのち、建物を引き戻しています。合わせて同時に実施したのが、日本画家・東山魁夷の手による「御影堂障壁画」を収めた部屋の照明の改修です。

展覧会のような照明を御影堂に

東山魁夷画伯が奉納した御影堂障壁画は、昭和50年(1975年)奉納の鑑真和上坐像が安置される御影堂の襖(ふすま)絵。日本の風土をテーマとした「濤声」や、鑑真和上の故郷である中国を描いた「揚州薫風」「黄山暁雲」「桂林月宵」の68面からなります。

今回、パナソニックEW社の照明機材が照らしたのは「濤声」の空間。ふすまの向こう側には鑑真和上坐像が安置されています。

  • 唐招提寺 副執事長の石田太一氏

照明を改修した理由として、唐招提寺 副執事長の石田太一氏は「御影堂の修理の間、障壁画が日本全国の展示会を巡回していたこと」を挙げました。

「御影堂が修理されている間、北海道から九州まで巡回展をしていました。各地の展示会に行くたび、すばらしい照明が障壁画を照らしていたのです。これをなんとか御影堂でも実現したいと思い、パナソニックさんに相談しました」(石田氏)

とはいえ、重要文化財である御影堂の改修は簡単ではありません。監督官庁である文化庁からは、天井板も含めて、すべて重要文化財なので、一切の釘を打ってはならないと言われたそうです。実は天井には過去に打たれたいくつかの釘があり、改修以前はそこに照明を吊していました。しかしその方法では、障壁画を美しく見せることができません。

  • 唐招提寺の外観と前庭。砂利に反射した光が障子越しに差し込む風景

「この部屋の前庭は砂利敷きになっています。東山海先生はこの障子越しの光、砂利に反射した光がふすまの障子を通して柔らかく入ってくる光で眺めるこの絵を想定しています。ところがこの部屋に人が多く入ると光を遮ってしまい、部屋が真っ暗になって、ほとんど見えなくなります。せっかくの襖絵を見ていただくため、活用していくためにも、何かいい照明はないものか考えていました」(石田氏)

そこで今回の改修で取り付けられたのが2つの照明器具。ひとつは障壁画を優しく照らすスポットライト、もうひとつが写経用のベースライトです。

  • 障壁画を照らす「高演色スポットライト 個別調光タイプ(NNQ32092BK LE1)」。器具光束953ルーメン、色温度3,500K、消費電力14W、調光範囲は約0.5~100%

  • こちらはベースライト「配線ダクト用グレアセーブライン(NNN35002B LE1)」。器具光束2640ルーメン、色温度3,500K、消費電力30.5W

スポットライトは「高演色スポットライト 個別調光タイプ」を採用。一般的なLED照明の演色性がRa80~85なのに対して、Ra95の高演色性の光を実現。より自然光に近い色再現を可能としています。演色性とは、自然光のもとで見る「色」に対して、照明下で見る「色」がどれくらい再現されるかを示す値です。数字上は、Ra100の照明なら自然光と同じ色で見えるということ。

パナソニックEW社の福澤広行氏によると「通常の日本画の場合、50ルーメンぐらいの明るさで展示するのが一般的」ですが、御影堂の障子越しに入る柔らかい明かりに合わせて、全体的に40ルーメンぐらいの明るさに設定しているとのこと。

  • パナソニックEW社 ライティング事業部 エンジニアリングセンター 福澤広行氏(右)

スポットライトは1本1本を個別に調光できる構造となっており、手軽に全体のバランスを整えられる仕組み。また、光の拡散を防ぎ、楕円形の光を作り出すスプレッドフィルターを取り付けており、障壁画だけを自然に照らせます。

  • スポットライトの明るさは、後方の大きな調光ダイヤルで簡単に調整

もうひとつのベースライト「配線ダクト用グレアセーブライン」は一般的な室内照明に近い感覚。御影堂では年2回(春秋)、写経会が行われています。以前は写経会のときだけ照明器具を吊り下げるような形で部屋を明るくしていたそうです。今回は、配線ダクトに取り付けられるスリムな器具を採用しました。

  • 配線ダクトと一体感のある角型デザイン

「配線ダクトの取り付けにはだいぶ苦労しました。文化庁と2年くらい話し合い、ダクトを固定する部分の天井板を新しいものと取り替えて、そこにボルトを打つ穴を開ける形で認めてもらいました」(石田氏)

配線ダクトは天井の竿縁(さおぶち)の影に配置することで目立たないように工夫。ベースライトは配線ダクトとの一体感がある設計となっており、こちらも目立たないのが特徴です。ベースライトを取り外すと、配線ダクトが天井になじんでほとんどわかりません。

「このあたりの工夫が文化庁からも評価されたのかなと思っています。ひょっとしたら今後、全国各地の文化財建造物でも今回の照明事例が参考になるのではないかと自負しています」(石田氏)

外から照らすような自然の光を実現

実際に「濤声」が収められた空間を訪れました。玄関から入り、二間ほど抜けて障子を引くと、群青で描かれた日本海の絵が広がります。前庭側の木戸を引くと障子越しに外光が入り、群青はさらに鮮やかさを増しました。

  • 障子を通して入る自然光のみで「濤声」を見たところ。薄暗い中から障壁画が目に飛び込んできます

  • スポットライトを点灯すると、外光が入らなくても明るく照らせます

そして再び部屋を暗くした状態でスポットライトをオンにすると、障壁画が自然に浮かび上がります。日本海の激しい白波と濃い海の群青のコントラストが際立ちます。さらに写経用ベースライトをつけると、部屋一面が明るく。これなら1年に2回の写経(般若心境)に訪れる人々も集中して取り組めそうです。

  • 写経用ベースライトをつけたところ。部屋一面が明るくなりました

  • さらに奥の部屋にも、東山魁夷画伯の障壁画が。こちらは岐阜と長野の県境付近を描いたとされる「山雲」です

  • 一筋の滝が流れる「山雲」の側面

残念ながら、東山魁夷画伯の奉納御影堂障壁画は日常的な一般公開はされていません。6月6日と6月7日の御影堂特別拝観も1日250人に限定したことで、予約はすぐにいっぱいになったそうです。

副執事長の石田氏は「文化財は守るだけでなく、活用しなければならないと思っています」と語ります。コロナ禍も完全には落ち着いていないため、活用の方法はこれから模索していくとのことですが、感染状況を見ながら少しずつ、公開できる機会を増やしていきたいそうです。