少し前、「日本の経営者たちが『現代アート』を学んでビジネスに生かしている」という話を聞いたことがあります。また、難解、抽象的でよく分からないなど、気軽に楽しむのは難しいのでは? という印象を持っていました。

写真を撮るのが趣味なので興味は少しある。でも学ぶには壁を高く感じる……。そんな中、現代アートの巨匠と呼ばれるゲルハルト・リヒター(以下、リヒター)さんの展覧会開催の知らせが、東京国立近代美術館より編集部に届いたのです。

良い機会と思い、事前内覧会に参加してきました。

  • 東京国立近代美術館で開催中の「ゲルハルト・リヒター展」

    東京国立近代美術館で開催中の「ゲルハルト・リヒター展」

ゲルハルト・リヒターという存在

資料では、ドイツ生まれのリヒター―さん、「現代で最も重要な画家としての地位を不動のものとしている」と説明されています。年齢も2022年に90歳を迎え、言わばレジェンド的な存在みたいですね(語彙力―

同館の主任研究員の桝田倫広さんは次のように説明します。

「2000年以降、メトロポリタン美術館、ニューヨーク近代美術館、テート(テート・ブリテン/テート・モダン、ロンドン)、ポンピドゥー・センター(パリ)のすべてで個展が開催されたことのある作家は、パブロ・ピカソ、マックス・ベックマン、ジョアン・ミロ、アレクサンダー・カルダー、ロバート・ラウシェンバーグ、そしてリヒターです」

2000年以降という条件を外すと、他にもいるそうです。ただ、挙げられた作家はリヒターさんを除き、すべて故人であり歴史的に重要な位置付けをされているメンバーばかり。

「この事実から、リヒターは現存するにもかかわらず、他の歴史的作家たちと肩を並べていると言えるのではないでしょうか」

実際、リヒターさんの作品がオークションなどに登場すると、極めて高額な値段で落札されています。これも彼の歴史的存在が土台にあるから、と桝田さんは指摘します。

多様な作品の数々

今回展示されているのは、初期の作品から最新のドローイングまで含む約110点。筆者には十分な数、という印象ですが、実はその作品点数から考えると少ないようです。

  • ドローイング (c)Gerhard Richter 2022(07062022)

    ドローイング (c)Gerhard Richter 2022(07062022)

「確かにカタログ上の点数だけで見ると、少ない、と思う人がいるかもしれません。しかしながら、会場の展示を見ると、その印象は変わります。それは彼の作品が大きいということ、そしてスケール感があるからです」

壁に作品が1点だけあっても、その場の空間が成り立つ。また、逆に壁を埋めるために展示点数を増やすと、ぶつかり合って作品が損なわれるのが彼の作品、と話す桝田さん。

確かに展示作品には、色彩豊かなものも多数あるのですよね。そして大きい! 2.6×2メートルの作品4点が並べられると圧倒されます。大きいということは、それだけ情報量も多くなるので、それを読み解くのも大変なのでは? と思いました。

  • カラーチャートと公共空間 (c)Gerhard Richter 2022(07062022)

    カラーチャートと公共空間 (c)Gerhard Richter 2022(07062022)

  • <ビルケナウ> (c)Gerhard Richter 2022(07062022)

    <ビルケナウ> (c)Gerhard Richter 2022(07062022)

  • <ストリップ> (c)Gerhard Richter 2022(07062022)

    <ストリップ> (c)Gerhard Richter 2022(07062022)

実際、写真を描いた「フォト・ペインティング」シリーズや、抽象画、風景画、立体作品など、多様な表現方法で製作された作品が集まっているので少ないとはまったく感じません。

  • <8枚のガラス> (c)Gerhard Richter 2022(07062022)

    <8枚のガラス> (c)Gerhard Richter 2022(07062022)

ダイバーシティと同じ

ただ飽きないことと、読み解けることはまったく違います。アンディ・ウォーホルの「ポップアート」のように、見て楽しめる人は少数派では? やっぱり筆者にはチンプンカンプンでした。

が、幸いなことに、展覧会用に制作された図録が丁寧に解説していて、さらにこの本自体のデザインも秀逸。飽きずに読み込むことができます。

これで自分に足りない知識や情報を補完できるので、開き直ってまずは見る。その後、理解を試みる。それでも分からないなら、最後は「分からないまま」でいいのでは?

すべてを理解することはできない。でも受け入れる。ビジネスにおけるダイバーシティと同じで、「そこにあることは認める」考えが現代アートへのアプローチかもしれません。

●Information
ゲルハルト・リヒター展
会期:2022年6月7日~10月2日
会場:東京国立近代美術館
住所:東京都千代田区北の丸公園3-1