晃華学園中学校高等学校とNTT東日本 東京武蔵野支店は3D空間型オウンドメディア「DOOR」を活用し、中学生のVRジオパーク学習を実施した。学習に仮想空間を用いる意義・効果、そして3月22日の授業当日の様子とともに生徒らの感想を聞いてみたい。

  • 仮想空間「DOOR」を活用して行われた晃華学園のVRジオパーク学習

晃華学園中学校で行われたVRジオパーク学習

東京都調布市にある晃華学園中学校高等学校(以下、晃華学園)は、「汚れなきマリア修道会」を設立母体とするミッション系の私立女子中学校・高等学校。マリアニストスクールに共通する方針のもと、神から与えられたタレント(個性・能力)を磨き高め、"ノーブレス オブリージュ"の精神を生きる品格ある女性の育成に取り組んでいる。

  • 東京都調布市の閑静な住宅街に建つ晃華学園中学校高等学校の校舎

  • カトリック精神のもと、SDGs・ESD教育を実践している

NTT東日本が同学園のICT基盤を構築。GIGAスクール構想のもと生徒一人一台のiPad環境を実現し、同時にネットワークのバックボーンを増強、同時利用可能台数も増やしている。

GIGAスクール構想が一段落し、次に整備・活用のフェーズへ移ろうとしている今、同社はAIやVRなどの最新技術を用いた新しいスタイルの授業を提案している。この取り組みが形となったのが、3月22日に実施された実証授業「VRジオパーク学習」だ。

実証授業ではNTTが提供する仮想空間「DOOR」を活用し、DOOR内で伊豆半島ジオパークの「城ヶ崎海岸」「大室山」「浄蓮の滝」のVR体験を実施。またそれぞれのスポットについて生徒らが調べたPowerPoint資料が掲示され、生徒たち自身によるプレゼンテーションをもとに、生徒たち同士が対面・遠隔を交えた双方向コミュニケーションを行いつつ、学習が進められた。

  • スライドに映し出された「DOOR」内の伊豆半島ジオパーク

  • PCなどを使って仮想空間「DOOR」内を自由に移動できる

  • 思い思いに「DOOR」内のコンテンツで学びを深める生徒たち

  • NTT東日本によってICTやVR、「DOOR」の説明も行われた

この「VRジオパーク学習」に参加した生徒たちに感想を伺ったので、いくつかお伝えしよう。

「VRという言葉は聞いたことはあってもやったことはなかったので、このお話を聞いてすぐに先生に参加させてほしいと伝えました。プレゼンやDOORの操作に慣れていなかったので、うまく話せなかったり、緊張して別の部屋へうまく移動できなかったりしたことは反省点です」

「スライドを作るときには、素材の写真が粗かったり大きさが合わなかったりしましたが、載せるときに友達と相談して、形やデザインを工夫したことが楽しかったです。地層が写っている素材を探すのが大変でした」

「PowerPointだと映った写真を見て聞くだけですが、VRだと実感があって、すんなり入ってくるんじゃないかと思いました」

「普段の授業ではあまり深掘りされない伊豆半島の成り立ちなどを深く知ることができたし、地理的視点などから見ることができて、将来にも役立ちそうな気がしました」

「360度カメラで撮ったVRの映像に、『こんなことができるんだ!』という驚きがありました。写真だけではわからない面白さや立体感を感じました」

「Zoomで聞く授業はやったことがあるんですけど、家からでも主体的に参加できる授業があるんだという驚きがありました」

  • 感想を話してくれた晃華学園中学校のみなさん

VRとジオパークを学習に活用した経緯と目的

このVRジオパーク学習の意義、また子どもたちの学習への影響について、晃華学園とNTT東日本に伺った。

「VRはGIGAスクール構想において未来の姿のひとつです。ですが高速・広帯域の回線は欠かすことができず、また最新のデバイスでなければスムーズに扱えません。今回、学校という実環境で実証実験を行うことは大きな意義があると考えました」(NTT東日本 東京武蔵野支店 ビジネスイノベーション部 第1ICTコンサルタント 担当課長 伊藤雄介氏)。

  • NTT東日本 東京武蔵野支店 ビジネスイノベーション部 第1ICTコンサルタント 担当課長 伊藤雄介氏

仮想空間の中で、実体験のような没入感をもって興味深く授業を受けられる──これが授業でVRを使用する利点だという。今回の授業では、「伊豆半島ジオパーク」に赴くことなくその自然を仮想体験している。

「伊豆半島ジオパークを選定した理由は3つあります。一つ目は、ユネスコスクールならではのものである、つまり晃華学園だからこそ取り上げられることです。2つ目は、撮影を考慮して、適度に近距離であること。3つ目は、高校の指導要領が変わり地理が必須になるなかで、伊豆半島は教材として汎用性が高いと考えたからです」(晃華学園中学校高等学校 教諭の佐藤駿介氏)。

DOORという技術、伊豆半島という教材、VRジオパーク学習という事例によって、こういった授業が全国に広がることを佐藤氏は望む。

「本校はユネスコスクールですから、ユネスコと名の付くものには触れてほしいと思っています。ユネスコエコパークである八ヶ岳には高校になると合宿に行くのですが、ジオパークはなかなか接点がありませんでした。今回教材にした伊豆半島は、日本にわずかしかない世界ジオパークです。せっかく撮影していただけるのであれば、よい機会だと思いました」(晃華学園中学校高等学校 教諭 宇野幸弘氏)。

  • 晃華学園中学校高等学校 教諭 宇野幸弘氏

VRという単語は一般的に知られるようになってきたものの、体験したことがある人は決して多くない。興味がある人は多いが、触れるきっかけがなかなかないのが現状だろう。今回の実証授業は希望した生徒によるものだが、一日で枠が埋まったという。

「VRを使った授業はだれもやったことがありません。ですから、子どもがどこまでやれるのか挑戦してもらったほうが良いと考えました。受け身になってしまうと他人ごとになり『VRってこんなものだな』で終わりますが、発表するとなると自分ごとになりやすいのです。ですから、私は今回、手も口も出しませんでした。society5.0の中にあるフィジカルとデジタルの融合とは、こういうことではないでしょうか。今回の発表を今後の糧としてほしいと思います」(晃華学園 佐藤氏)。

  • 晃華学園中学校高等学校 教諭 佐藤駿介氏

VRはSDGsを自分ごとにする

今回の学習では、あえて対面と遠隔を組み合わせている。DOORのみ、対面のみという選択肢もある中でハイブリッド授業を選択したことで、結果的に多面性のある内容になったという。

「DOORの良い点は、いろいろな発表を並列で行えることです。PowerPointでの発表と異なり、自分で勝手に入って勝手に閲覧が可能です。これまで機材的・時間的に制限があったことがやれる気がします。我々の授業の選択肢も広がったと思います」(晃華学園 佐藤氏)。

晃華学園では、今回の内容を今後地理の授業にも組み込んでいきたいとしている。ジオパークには文学も取り上げられているため、国語の授業にも役立てたいそうだ。VRを文化祭に使いたいという意見も出てきているという。

「PowerPointやYouTubeのように、VRが子どもたちの表現の選択肢のひとつに入ったんだと思います。これからさまざまな提案があるんじゃないかなと期待しています」(晃華学園 佐藤氏)。

「SDGsという言葉が知られるようになったのは割と最近ですが、ユネスコスクールでは昔からSDをやってきており、ESD(Education for SD)という試みを行っています。ジオパークは遠い昔からの遺産ですが、人間の活動によって一瞬で壊れることもあり得るわけです。自然を勉強することによって持続可能な目線を持ち、環境を維持しながらの観光・経済活動というエコツーリズムについても学べるのではないでしょうか」(晃華学園 宇野氏)。

日本に住んでいると、SDGsは自分ごととして感じにくい。それが中高生であればなおさらだろう。だがVRを活用すればそれを感じることができる。ICTが環境保全の意識を高める一助となることを期待したい。

「今回は授業に活用させていただきましたが、DOORやVRはさまざまな可能性を秘めています。個人情報保護や肖像権の兼ね合いもありますが、例えばVRで卒業式や体育祭を中継すれば、見る側が見たいスポットを自由に移動できます」(NTT東日本 伊藤氏)。

「DOORを教材として使うならば、各地域の方が地元の情報をアップして学校同士で共有できるとすごく良いですね」(晃華学園 宇野氏)。

「先生方でDOORを通じてネットワークを作ることができれば、いろいろな形で広がりそうです」(晃華学園 佐藤氏)。

  • (左から)晃華学園中学校高等学校 教諭 佐藤駿介氏、晃華学園中学校高等学校 教諭 宇野幸弘氏、NTT東日本 東京武蔵野支店 ビジネスイノベーション部 第1ICTコンサルタント 担当課長 伊藤雄介氏と近藤里菜氏