映画『流浪の月』(公開中)のティーチインイベントが12日に都内で行われ、松坂桃李、李相日監督が登場した。

  • 左から李相日監督、松坂桃李

    左から李相日監督、松坂桃李

同作は凪良ゆうによる、本屋大賞受賞のベストセラー小説の映画化作。雨の夕方の公園で、びしょ濡れの9歳の家内更紗(広瀬)に傘をさしかけてくれたのは19歳の大学生・佐伯文(松坂)。引き取られている伯母の家に帰りたがらない更紗の意を汲み、部屋に入れてくれた文のもとで、更紗はそのまま2カ月を過ごすことになるが、やがて文が更紗の誘拐罪で逮捕されてしまう。それから15年後、「傷物にされた被害女児」とその「加害者」という烙印を背負ったまま、更紗と文は再会する。

司会を務める李監督は松坂に「今回公開されるにあたって『かつてないほど緊張や怖さを感じる』とを話をされていたと思うんですけど、具体的に怖さや恐れを感じるシーンはありますか?」と質問。問われた松坂は自身が演じる文が小さな更紗(白鳥玉季)の唇についたケチャップを拭うシーンについて「あの場面は皆さんどう思われましたか?」と観客に逆質問しつつ、「映画の感想を見ていて、そういう解釈をしている方もいるんだなと思ったんです。僕はそのシーンを演じる時に、文は自分の持っている特性から解放されるのではないかという期待があった上で更紗の口を拭ったけれど、何も湧き上がってくるものがなかった。文からしたら絶望にまた引き戻された瞬間でもあって。そのような思いで演じていました」と心境を吐露。李も「暗闇にいた文が更紗という一筋の光で表に出てきた時に、最初に神秘に触れたのがあの時だったと思うし、2人の魂が神秘に触れた瞬間でもあると思う」と文を演じた時の心情を述べた。

イベントは実際に映画を見たばかりの観客からの質問コーナーへ。今日が初めての鑑賞となったという観客からは、文と幼い更紗の過ごす幸せ2カ月のシーンについて『今敏監督のアニメーション『パプリカ』や『妄想代理人』が劇中で使用されているのはどういう意図ですか?』という質問。松坂は「裏設定としてあるのは、この映画を選んだのは更紗のチョイスであるということです。前段として、自由奔放な更紗がピザを食べてゴロゴロして『次、映画見ようよ!』という時に、更紗が文と出会う前にお父さんとお母さんと幸せに暮らしていた時期に好きで見ていたラインナップのひとつにこの2作品があったということです」と映画には描かれていない2人が出会う前の影響を説明すると、李も「この2つの作品を観ている人には、『流浪の月』のストーリーにどのような繋がりがあるのかわかるはず。10歳の少女が単に好きだというのとは違う、更紗なりのチョイス。気になった方はぜひ観てみてください!」とおススメしていた。

最後は原作を読んで2回目の鑑賞となった観客から『初めて原作を読んだときの感想は?』という質問。こちらに李は「脚本を読んだ感想も聞いてみたい!」と差し込むと、松坂は「まずった! と思った」と明かしながら「文字では伝わるけれど、自分の言葉で言い表すことのできない感情をどのように表現すればいいのか?というまずったがまずありました。脚本を読んで、文が更紗にすべてを打ち明けるシーンが小説と映画で違っていたので、どのように演じればいいのかということを悩みました。小説だから表現できることと映画だからこそ表現できることがあるわけで、このシーンが成立するのは自分次第だと思うと、現場中は李監督に『助けてください!』という思いで接していました」と不安があったことを明かす。しかし映画を見た人からは特に印象に残るシーンとしてよく挙がるシーンでもあり、松坂自身も「すべてを出し切るために準備期間も含めて向き合ってきたところもあるので、そのシーン撮影当日には緊張はありませんでした。撮影を積み重ねていく中で『いつ来てもいいな、このシーン』という気持ちになった。それは役者人生で初めての感覚でした」と万全の体制で臨めたそうで、李も「俳優・松坂桃李の到達点だと思う。次が楽しみ!」と太鼓判を押していた。