「商圏」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。商圏をごく簡単にいうと、「自分の店舗に来店してくれる顧客の住む範囲」を指します。エリアマーケティングには重要な概念であり、商圏を把握しているかどうかがビジネスの成否を分けることもあるほどです。
この記事では、商圏の種類や調査・分析方法、また、ビジネスへの活かし方について解説しています。
■商圏とは何か?
<商圏の概念や表し方>
商圏とは、「来店を見込める顧客が住んでいる範囲」もしくは、「通って来店する顧客のいる範囲」のことです。商圏は、店舗の業態や競合店の存在、ターゲットエリアの人口動態、ターゲットの移動手段や経済状況など複数の要素によって変化します。
商圏の表し方にはいくつかありますが、代表的なものは2つです。1つめは、店舗を中心として「半径○km」のように半径の距離で表す方法で、顧客がどのような移動手段を取るかによっては範囲が変わります。たとえば、電車と徒歩での来店が難しく、車や自転車でしか行けないような場所であれば、移動手段のない顧客は来店できないため、商圏は狭くなるでしょう。
もう1つは、「10~15分」など移動にかかる時間で表す方法です。駅前の店舗であれば、先ほどとは逆に電車で来る顧客が大半となるため、商圏は大きく広がる傾向にあります。
また、店舗が都市部にあるのか地方にあるのか、駐車場はあるのか、エリア居住者の年齢層はどのくらいかなど、さまざまな要因が商圏となる距離や時間に影響を与えます。
なお、代表的な店舗の商圏範囲の目安は、以下の通りです。
・コンビニエンスストア:~500m(移動手段:徒歩)
・ファミリーレストラン:2~3km(移動手段:車)
・大型小売店(GMS):10~20km(移動手段:車)
ただし、出店エリアの地域特性によってその範囲は変動します。あくまで参考値として参照してください。
<商圏の種類>
商圏の表し方には上記の2つ以外にもさまざまな種類がありますが、中でも半径の距離で表す方法を「距離商圏」といいます。商圏を定めてその特性、人口動態を調べることを「商圏調査・商圏分析」と呼び、その際にも距離商圏は重要です。
また、距離商圏は「足元商圏」「一次商圏」「二次商圏」「三次商圏」の4つに分類することができます。それぞれどのようなものなのか、見ていきましょう。
・足元商圏
足元商圏とは、店舗のある場所から5分程度で移動できる範囲を指します。季節や天候などの影響を受けることなく、顧客がストレスを感じずに来店できる距離です。
足元商圏の顧客は、一次~三次商圏と比べて来店比率が高く、販促による高い費用対効果が望めます。また、範囲内に競合が少ないため、シェア率の向上が目指しやすいのも特徴です。
・一次商圏
一次商圏は「最寄品商圏」とも呼ばれ、店舗からおよそ半径1km、徒歩で10~15分程度の範囲です。来店頻度はほぼ毎日が目安で、食料品を販売するスーパーの出店や移転には、この一次商圏が重視されています。
なお、業種や業態によっては、足元商圏と一次商圏を分けずに同一視することもあります。エリアマーケティングの際には、足元商圏と一次商圏を分けるのかどうか、しっかりと認識を共有しておきましょう。
・二次商圏
二次商圏は「中間品商圏」とも呼ばれる商圏です。二次商圏の範囲は業種による差が大きく、店舗からおよそ半径3~10km、自転車で10~15分程度から車で10~15分程度の範囲を指します。
来店頻度は、週2~3回を目安としており、日用品を販売するドラッグストアなどは二次商圏で設定されているケースが多いです。
・三次商圏
三次商圏は「専門店商圏」とも呼ばれ、月に数回、または1~3カ月に1回程度の来店を目安とする商圏です。三次商圏はかなり広範囲を指し、公共交通機関や車を使って30~40分でアクセスできる範囲とされています。
家電量販店、衣料品店など、購入頻度がそこまで高くない店舗の商圏として設定されることが多いです。
■商圏の調査・分析方法
次に、自社店舗の商圏を調査・分析する方法をご紹介します。商圏調査・分析を行うと、地域の特性を理解でき、たとえば、効果的な広告・販促キャンペーンを打ち出すことに役立つでしょう。
商圏調査・分析は大きく「データ分析」と「フィールドワークによる調査」に分けることができます。データ分析では、国が公開している統計調査や自治体のデータを分析する必要があります。これには膨大なデータや資料を使用するため、分析ツール、マーケティングツールを活用するといいでしょう。
一方、データを分析するだけではわからないこともあるため、フィールドワークによる調査も重要です。たとえば、人の流れを妨害する要因として川や大きな建造物などが挙げられますが、これらは実際に現地に足を運ぶことで把握できます。
以下は、データ分析とフィールドワークによる一般的な商圏調査・分析の方法です。
1.人口動態の分析
対象とするエリアの人口動態(人口の流出入、結婚、離婚、出生など)の統計調査を利用すれば、どのような層が店舗の周辺に居住しているか把握することができます。
年齢別の割合や昼と夜の人口などがわかると、店舗で提供している商品やサービスが顧客ニーズとマッチしているか判断できるでしょう。さらに、近い将来の人口予測も可能となるため、将来的なマーケティングにも活かせます。
2.顧客のライフスタイル調査・分析
世帯年収や主な移動手段、消費動向など、商圏に居住している顧客のライフスタイルを調査・分析する方法です。顧客層にとどまらず、そのライフスタイルを調べ分析することで、提供商品やサービスに反映することができます。
また、エリアにかかわらず、年代や家族構成ごとのライフスタイルから消費者の志向を把握し、商品開発や店舗の商品ラインナップに役立てることもできます。
3.地理やアクセス、人流調査
商圏は、「店から半径○km」のように円で表されることが多いですが、この範囲のとおりに人が流れるとは限りません。実際には、川や谷などの地形、学校などの大きな施設の有無、または道路状況により、アクセスのしやすさは変わるのです。
このような来店を阻害する要因を「商圏バリア」といいますが、商圏バリアは地図上だけではなかなか把握することができません。そのため、実際にフィールドワークを行い、消費者目線に立って調査することが重要です。
また、曜日ごとの調査も必要でしょう。平日と土日・祝日では人の流れが変わるためです。同じく、時間帯を変えての調査も重要で、朝7~9時の通勤通学時間帯、11~14時のランチの時間帯、15~18時の買い物時間帯、18時以降の帰宅時間帯などに分け、人の流れを観察します。
4.競合店の商品、サービスの調査・分析
その他、競合店についても調べましょう。競合店の商品やサービス、規模や場所などを分析すれば、エリアの顧客がどのような基準で店舗を選ぶのか把握できるからです。
また、競合店を調べれば、自社の商品やサービスの価格帯、営業時間を決定する際の参考になり、対抗策を打ち出す際にも役立ちます。
■商圏のビジネスへの活かし方
最後に、設置した商圏をビジネスにどう役立てればいいのか、確認してみましょう。
1.売上予測に役立てる
商圏内の分析をすれば、「その場所に出店すると、どのくらいの売り上げを見込めるのか」を予測することに役立ちます。出店する立地や競合店を分析すれば、ある程度正確な売り上げ予測を出せますので、新規店舗の出店可否やフランチャイズ展開の際の戦略にも使えるでしょう。
2.店舗開発の判断材料とする
売り上げを伸ばすため支店をオープンする際には、フランチャイズ展開が欠かせません。そのような時、商圏の設定は、店舗開発の判断材料として非常に重宝します。
店舗の立地は売り上げを大きく左右し、立地を間違えると思うような利益を出すことができません。そのため、立地は慎重に選ぶ必要がありますが、そもそも店舗の周辺情報がわからなければ、新店舗を出店していいかどうかの判断がつかないでしょう。
そこで、いくつかの店舗候補地や候補物件の商圏を設定して内容を分析すれば、より顧客が集まりやすい場所を選定することができるのです。
また、近隣に自社の別支店を配置する場合は、それぞれの店舗の商圏を把握しておくことで、カニバリゼーション(自社競合)を避けることにも役立ちます。
3.顧客分布の可視化に利用する
商圏を設定し、そのうえでポイントカードの顧客情報などを地図に反映させれば、どの地域の顧客をどの程度獲得しているのか、可視化することができます。
商圏内のどのエリアの顧客を多く集客できているのか、反対に、どのエリアは取り込めていないのかが明らかになれば、弱いエリアを補強するための戦略も立てやすいでしょう。
4.販促エリアの決定に使う
商圏を設定すれば、どの地域に販促を行えばいいのか、絞り込みがしやすくなります。DMやチラシは費用がかかりますが、反応の見込める地域を明確にしておけば、コストを無駄にせず効果的な販促ができるでしょう。
また、商圏の分析により、販促の具体的戦略も見えてきます。たとえば、ファミリー世帯が多ければ休日にセールを打つ、住宅街があればチラシを配る、などです。地域特性を把握しておけば、売り上げにつながるだけでなく、販促の費用対効果アップも望めます。
このように、商圏を活用することで、それぞれの地域に合ったマーケティングが行えるようになります。そのためにはまず、自社の商圏を正確に決定しておくことが大切です。業態や周辺環境によって商圏は変わりますので、まずは業態ごとの商圏を参考に、目安となる商圏を決めてみましょう。
■商圏を設定、分析し、ビジネスに活用しよう
どのような業界であっても、「商圏」の概念は欠かせません。商圏分析は、新規出店だけでなく、既存店舗の売り上げアップにも大きく貢献してくれます。
まずは自社にとって正しい商圏を決定し、分析の結果を店舗開発や販促などに活用していきましょう。